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[Webオリジナル]軌道を描いて インタビュー編

[第3回] 「うるう秒を廃止し、世界で唯一の、ジャンプのない標準時に」

ボジミエシュ・レバンドフスキ博士 国際度量衡局 時・周波数・重量測定部



うるう秒を廃止しよう。そんな議論が、国際電気通信連合(ITU)で進んでいる。なぜなのか。世界の「時」は変わるのか。世界の「時」の基準を扱う国際度量衡局(BIPM)で、現在の世界時である協定世界時(UTC)の管理に当たるボジミエシュ・レバンドフスキ博士に、パリ郊外のオフィスで聞いた。(2009年12月8日)
(聞き手=朝日新聞論説委員 辻篤子


――うるう秒の廃止が提案されているのはなぜですか。

ボジミエシュ・レバンドフスキ うるう秒を入れると、いわば「時」がそこでジャンプすることになります。「時」は、できるだけスムーズな運用ができた方がいいわけですが、うるう秒を入れるたびに、それが妨げられます。現代の技術水準は、ナノ秒、つまり10億分の1秒を扱うところまで来ています。そうした中で、1秒というのはとてつもなく長い時間です。そろそろ考え直すべきときだという認識が高まっています。

――そもそも、なぜうるう秒があるのでしょう。

レバンドフスキ 「時」は地球の自転に基づいて決められてきましたが、20世紀半ばに原子時計が登場し、きわめて正確な、新しい「時」のシステムができました。ところが、地球の自転は徐々に遅くなっているために、原子時計が刻む「時」とどんどんずれていってしまうという問題が出てきました。そこで、1972年に原子時計によるUTCがスタートしたときに、その差が開きすぎないように、いわば妥協として「うるう秒」が導入されることになりました。具体的には、その差が0.9秒以内に収まるように、必要に応じて1秒を加えます。これまでに34回、挿入されています。

――現実に問題は起きていますか。

ボジミエシュ・レバンドフスキ博士

レバンドフスキ 10年ほど前のことですが、ロシアの測位衛星GLONASSで、うるう秒を入れたときにソフトウエアに問題が生じ、数時間にわたって止まったことがあります。こうした人工衛星の重要性を考えれば、運用が止まるようなことは決してあってはなりません。あらゆる場面でコンピューターによるコントロールが行われている現在、もし、航空管制などのコンピューターに問題が起きれば、大惨事にもなりかねません。21世紀に入り、うるう秒は「危険」な存在になってきました。

ITUの規則によれば、世界で唯一の時間システムを定め、各国はそれをもとにそれぞれ標準時を決めることになっています。ばらばらでは困るからです。その唯一の世界時がUTCです。しかし、実は時がジャンプするという「うるう秒」の弱点ゆえに、米国のGPS(全球測位システム)衛星に積まれた精密な原子時計には1980年以来、いっさいうるう秒が入っていません。UTCとはすでに19秒の差ができています。GPSの時刻は、地球上のどこでもだれでも、容易に利用できる利点があり、また、その正確さから、国際通信などで使われ始めています。

GPSだけでなく、欧州が開発中の測位システム「ガリレオ」や中国の「北斗」もうるう秒を入れていません。つまり、こうした国々はこのルールに従わず、別の時間を使っているわけです。この結果、世界で複数の時間が使われているという、困った状況が生まれています。うるう秒を廃止して、世界で唯一の、ジャンプのない標準時にする必要があると思います。

――うるう秒をやめると、いずれは、「時」が太陽の動きと大きくずれて、太陽が夜の時間帯に出てくる、などということにもなるのではないでしょうか。

レバンドフスキ そうですね。これまでのペースだと、100年たっても1分あまりのずれしかありませんが、いずれは、大きくずれてくることになるでしょう。そのときに備えて、「うるう時」を入れることにしようか、といった議論をしたこともあります。1時間を入れることは、夏時間調整ですでに行われていますし、うるう秒のような混乱はありません。しかし、ずれてきたときの対応は、私たちよりずっと技術が進んでいるはずの未来の世代に任せようということになりました。


時の管理は天文学者から物理学者へ


――イギリスが反対していると聞いています。

レバンドフスキ そうなんです。目下、最大の問題です。彼らは、うるう秒を廃止すると、「時」が、自然、つまり太陽の動きをもとにした時間からずれてしまう、といって、一貫して反対の姿勢です。しかし、「時」はすでに、太陽の動きという自然からはずれています。主役は原子時計ですし、うるう秒も人工的です。

イギリスには、グリニッジ標準時(GMT)への愛着があるのだと思います。GMTはかつての世界標準時でしたが、1928年に世界時(UT)と呼ぶことが決まり、その後さらに、うるう秒を加えたUTCとなっていますが、イギリスでは依然として世界標準時はGMTと呼ばれています。旧グリニッジ天文台もすでに閉鎖されていますし、いってみれば、GMTは文化遺産のようなものです。

さらにこの2年で、中国も反対に転じました。中国の「時」は伝統的に自然に基づいている、というのです。しかし、伝統といえば、どの国も、自然に基づいてきたことには変わりはありません。中国とは、どうやって原子時計の精度を保つか、緊密に協力してきただけに、残念に思っています。

――見通しはどうですか。
レバンドフスキ うるう秒の廃止は、2001年に米国によって提案されて以来、時に関する科学的な問題を検討するITUの作業部会で議論されてきました。当初は、米国主導に対する反発もありましたが、次第に賛成が増えてきました。天文学者たちも、当初は反対していましたが、今では、変更を支持しています。作業部会の報告書はいずれも、現在のシステムは変えるべきだ、という結論ですが、イギリスの反対で作業部会としての結論をまとめるには至っていません。

作業部会の委員長は、技術的な問題の検討は尽くされたので、あとは、上の会議に上げて、採決することだ、といっています。今のところ、2012年の会議で採決して、決まれば、5年間の猶予期間をおいて2017年から実施、ということになります。

――うるう秒をなくすと、「時」は完全に地球の自転と切り離されます。人類にとって、「時」の革命ともいえる変化ではないかと思いますが。

レバンドフスキ 「時」の革命といえるのは、原子時計の導入だと思います。時の管理が天文学者から物理学者の手に移りました。うるう秒をやめることは、革命というよりは、運用をより柔軟にするもの、というふうに私自身は考えています。

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