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[Webオリジナル]軌道を描いて ルポ編

[第2回] 無人航空機(UAV)、もう一つの側面


海外の航空専門誌を読んでいると、無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)にまつわる記事や特集が、戦闘機や旅客機と並ぶ大きなウエイトを占めるようになっていることに気づく。業界には、先発組の欧米やイスラエルの大手メーカーに加え、中小零細業者まで参画。北欧やパキスタンなどの後発組の参入も引きを切らない。UAV市場がいかに爆発的な勢いで拡大しているかが伝わってくる。戦闘機や爆撃機が有人機である時代は、もはや終わりに近づいているのではないか。そんな印象さえ抱いてしまう。(論説委員兼編集委員 谷田邦一)


UAVの用途は広い。軍用だけでなく、国境の密入国監視や広大な自然環境の保全、麻薬犯罪の捜索などさまざまだ。GLOBE特集の今回のテーマは「宇宙」。そこで最新の宇宙インフラを駆使することで初めて可能になった精度の高い軍用UAVに焦点を絞ってみた。

米空軍の無人偵察機「プレデター」はアフガニスタンやイラクに大量投入され、テロリストの捜索や攻撃目標の偵察などに使われている=U.S. AIR FORCE提供

約3カ月の取材を通じ、いろんなことがわかった。名前こそ「無人航空機」と最先端ロボットのような印象を与えるものの、実は自動化されたロボットとはほど遠く、その運用に大勢の人手と人知を要するということだ。また操縦者が人間であるがゆえの特有の問題も抱えていることもわかり、社会学的な考察の対象になりうる深みさえ感じた。

確かにUAVの登場で、21世紀のコンピューター戦争は新しいパラダイムに入ったといえる。戦場での人的犠牲を減らし、効率的で確実な殺傷を可能にしつつある。しかし一方では情報不足から誤爆による民間人の巻き添えは後を絶たず、かえって戦場の憎悪を拡大する要因にもなっている。

ただ欧米軍はプラス面だけを見て、イラクやアフガニスタンにかつてない大量のUAVを投入している。規模は公表されていないが、戦場はさながらUAVの実験場の様相を呈し、さまざまな問題が起きている。

足りないパイロット

まずは要員確保の問題。UAVの運用はチームワークで行われる。操縦席に座るパイロットや補助役のセンサー要員、UAVが集めた画像情報の分析チーム、さらには現地での機体整備や気象情報の担当者など意外に人手がかかる。有人機並みか、それ以上という評価もあるほどだ。投入機数が増えても要員の養成が間に合わないのが実情のようで、米空軍ではパイロット1人が数機のUAVを操縦できないかとの検討も行われているという。

無人偵察機の操縦席。左側は機体を操縦するパイロット、右側は計器類のチェックなどをするセンサー要員=U.S. AIR FORCE提供

米空軍によると、UAVパイロットの需要は毎年100人にのぼる。空軍の航空学校を卒業した新兵が実際の航空機に乗らず、いきなりUAVパイロットになるケースも出ているという。

米軍の準機関紙「Stars and Stripes(星条旗新聞)」が昨年10月に特集したルポでは、UAV職場に漂う劣等感に触れ、「第2コミュニティーであることに悩む人々がいる」らしい。空軍の航空学校を卒業したパイロットの卵の多くは、戦闘機や爆撃機のパイロットにあこがれる。自ら進んでUAV要員になる兵士はおらず、UAV勤務を命じられた兵士の表情は「悲しみで満ちる」という。彼らの士気の鼓舞が新たな課題になっている。

アフガニスタンから約1万2千キロ離れたクリーチ米空軍基地(ネバダ州)。米本土にある作戦用無人機のための主要基地の1つだ=U.S. AIR FORCE提供

要員の心の問題も大きい。紙面でも取り上げた偵察機「プレデター」や攻撃機「リーパー」の場合、米国ネバダ州にある主要なクリーチ基地には、パイロットだけで約250人が交代制で勤務している。俊敏な動きを求められるUAVは操縦が難しく、航空機を実際に操縦した経験があるパイロットたちが中心だ。

彼らは毎朝、基地郊外にある自宅で家族との食事をすませ、マイカーで出勤、フライトスーツに着替えて屋内にある操縦席に乗り込む。数時間のアフガンの戦場で偵察や戦闘を繰り広げ、勤務が終われば、そのまま子供のサッカーの試合観戦に出かけたりする。そんな起伏の大きな日常生活が昨年5月、米国のテレビ局CBSの人気番組「60ミニッツ」の特集で紹介された。

決してゲームではない

 

戦場の厳しさとは無縁に映る無人機パイロットだが、その心的負担は意外に大きい=U.S. AIR FORCE提供

しかし戦場の厳しい環境を我慢することも、硝煙の匂いをかぐことも、敵襲の恐怖に怯えることさえない。これまでは1991年の湾岸戦争でお茶の間に流れたニュースの爆撃シーンのように、彼らはまるでテレビゲーム感覚で戦争を遂行しているのではないかと思われがちだった。

ところが驚いたことに、戦場で人を殺傷する生身の兵士に特有の「心の問題」に苦しんでいて、職場に精神医や牧師などを必要としているという。

パイロットたちは、テロリストの顔まで識別できるほど性能の高いカメラ画像を見つめながら作業する。攻撃が必要なら、破壊力の大きなミサイルや爆弾を発射し相手を殺傷することもある。確実に仕留めたかどうかを確認するため、着弾して人間が粉々になるシーンまでモニターで見つめ続けなくてはならない。これは爆弾を一定高度から落下させれば自動的に目標を破壊してくれる戦闘機とUAVの大きな違いだ。そうした特性から、職場で心的外傷後ストレス障害(PTSD)に陥る兵士が少なくないという。

翼下に爆弾やミサイルを積ンで対地攻撃ができる攻撃型無人機「リーパー」=U.S. AIR FORCE提供

米空軍は、こうしたマイナス面を補ってもUAVの有用性はなお高いと判断している。航空機のUAV化の勢いはさらに加速され、やがて近い将来、米軍機の大半が無人化される時代がやってくるだろう。しかし、いつまで米国の独占時代が続くのか。宇宙インフラを除けば、核兵器や弾道ミサイルと違って、UAV技術は国際テロ組織などにも十分に手が届くようなレベルにありそうだ。進化したロボットが人間を襲うSFのように、進化したUAVに足元を救われるようなことはないのか。「愚かな兵器を誕生させた」と嘆く悲劇を避けるためにも、UAVの進化の今後をさらに見守りたい。

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