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[Part4] 対談(下) 「利用」に重点置いた政策立案を 日本がとるべき道

青木節子 慶応義塾大学教授 × 鈴木一人 北海道大学准教授

先端技術の開発には熱心だが、「利用」という側面では遅れをとってきた日本。宇宙基本法や宇宙基本計画の策定で政府の新たな指針は示されたが、どう実現していくかの道のりは、政権交代もあってまだ見えてこない。有人宇宙飛行の是非については2人の意見が割れている。



――日本人宇宙飛行士の活躍など、日本の宇宙活動には華やかな報道が目立ちますが、実際の実力はどうなんでしょう。

青木 宇宙先進国の一角を占めていると言っていいでしょう。軍事衛星は実態が把握しにくいですが、少なくとも公表されている自国衛星の数で比較すれば日本は世界3位につけています。自立的な宇宙活動ができるようになった4番目の国ですし、地球観測や月探査といった面でも、先端的な技術を有しています。

 

鈴木 私は技術力という点では確かに日本は先進国だと思いますが、「利用する」ということにおいても先進国かと言われると、大きな疑問符がつきます。宇宙開発に関しては、先端技術の開発にこだわりすぎている印象が非常に強い。つくったものを使って国民生活や国際社会にどう役立てているか、どういう影響を与えたか、といった面が弱いのです。高いポテンシャルを秘めてはいるが、うまく生かされてない先進国という感じです。
日本は海を除くと小さな領土しかありませんから、本来は衛星がなくても地上系インフラで何とか間に合ってしまう。広大な国土面積を有する国と違って、宇宙に対するニーズが一義的にある国ではないために、利用面での先進国にはならなかった。しかし、だからこそ宇宙開発をやるなら日本のことだけを考えていてもだめで、例えばアジア全体での利用推進といった概念をセットにして成功してこそ、初めて宇宙先進国と言えるのではないかと思います。

青木 地球温暖化をはじめ巨視的な問題の解決方法を考えるとき、日本の優れた宇宙技術を利用できる場はたくさんあります。確かに、日本は宇宙の商業利用では出遅れていますが、宇宙は投資先としては難しい分野ですから、むしろ戦略的に公益利用の先頭に立って行動し、アジアでリーダーシップを発揮すべきですね。2008年に成立した宇宙基本法や昨年の宇宙基本計画でも、「利用」に重点を置いた政策を推進することが強調されています。

鈴木  宇宙基本法は議員立法だったので、政策を立案していくべき役所側の意識がいまだに変わっていません。相変わらず、予算も「もの」にしかついておらず、利用サービスという「無形」のものを進める発想が乏しいです。政治主導を掲げる民主党政権になって変わるかと思いましたが、残念ながら宇宙開発担当相の前原(誠司)さんはダムやらJALやらで忙しすぎて、とても宇宙にまで手が回らないようです。

――技術開発はもういいと?

青木 国際情勢に影響を受けずに活動を継続するためには、やはり枢要な技術は所有していたほうがいい。ただ、例えばカナダのように、レーダーサットやロボットアームといった分野に特化して世界に存在感を示す、という戦略もあります。

鈴木 カナダは優れて大胆な決断をしましたね。カナダも事業仕分けをやったんですね。その結果、宇宙開発にも選択と集中が必要と決断し、技術の強みと将来の市場を予測した選択をしたのです。非常に参考になります。右肩上がりの時代はともかく、日本は今、予算的な制約が極めて大きいわけですから、選択と集中が必要です。どうしてもこの分野ではトップでいたいというものに絞り込んで資源を集中させていかないと。

「何のため」を明確にすべき有人宇宙飛行

――有人宇宙飛行についてはどう考えますか。

鈴木 私は、懐疑的です。米国も、アポロ計画が終了した後にスペースシャトルをつくり、さらに国際宇宙ステーション(ISS)と、巨大なプロジェクトを次々に動かしていきましたが、何のためかといえば実は米航空宇宙局(NASA)に従事する1万2000人の雇用を維持するためだったわけです。ISSも、非常にパッチワーク的で、何のための計画がはっきりしないまま、とにかく進めることだけが自己目的化しています。
ここにきてようやく、オバマ政権がオーガスティン委員会を設置して有人宇宙飛行計画を見直すという報告書が提出されました。冷戦時代ならいざ知らず、日本も何千億円という有人宇宙飛行を正当化できる理由をどこに見いだすのか、議論をし直すべきです。

青木 私は、観光目的の弾道飛行も含めて、いずれ多くの国が有人宇宙飛行を実現するようになると考えています。それに備えて基盤技術を発達させるためにも、国として有人宇宙飛行には取り組むべきだと思います。同時に、宇宙観光業も含めて、民間の宇宙参入意欲を高める法政策を整備する必要があります。

――先ほど、APRSAFの話が出ていましたが、今後、宇宙開発に参入する国々が増えていくことを考えると、ルールの整備など、宇宙におけるガバナンスを議論する国際機関を整備していく必要ないでしょうか。

青木 国連の宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)がそのための場です。この委員会はコンセンサス方式で文書を採択するので1979年以降、一つの条約も採択されていないなど、やや問題はありますが、専門性・技術性の高い宇宙活動における合意は、法的拘束力よりむしろ事態の変化に応じて対応しやすい「ソフト・ロー」でも十分に機能します。デブリ低減ガイドラインなどは好例ですね。
「APRSAFを早く宇宙機関にしろ」といった主張も一部にはあるようですが、今の宇宙協力はかっちりした国際機関よりも、宇宙機関間でつくる国際NGOのような緩い組織をベースにして、各国に利益を実感させるような活動を積み上げていくほうが、意味があると考えています。

鈴木 宇宙には国境がなく、一国の行為が全世界に及びます。ですから、宇宙空間のガバナンスは、グローバルに取り組むしかない。デブリの問題などは、まさに格好のテーマだと思います。

 

取材にあたった記者

辻篤子(つじ・あつこ)
79年入社。ワシントン特派員などを経て論説委員(科学技術)
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谷田邦一(たにだ・くにいち)
90年入社。社会部などを経て論説委員兼編集委員(防衛問題)
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勝田敏彦(かつだ・としひこ)
89年入社。週刊朝日、科学部などを経てワシントン特派員
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小林哲(こばやし・てつ)
96年入社。科学部などを経て広州支局長兼香港支局長
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高橋万見子(たかはし・まみこ)
88年入社。経済部などを経てGLOBE編集チーム副編集長
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リサーチャー
David Heath
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イラストレーション
三木俊一(みき・しゅんいち)
グラフィックデザイナー。文京図案室にて書籍や雑誌、広告デザインなど幅広く活躍。

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