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[Part3] 対談(中) 米国一極支配に切り込む欧州 戦略性はあるのか

青木節子 慶応義塾大学教授 × 鈴木一人 北海道大学准教授

さまざまな種類の衛星が打ち上げられるなかで、さらなる用途の拡大が見込まれるのが測位衛星だ。米国のGPSに対抗すべく、独自システムの開発に欧州が取り組んでいる。背景にあるのは「米国にすべてを依存しない」という哲学だ。計画は難航しているが、そのプロセスを通じて欧州は外交力に磨きをかける。日本もGPSの補完機能をもつ測位衛星の打ち上げに踏み切るが、そこに戦略性はあるのか。



――欧州の測位衛星システム「ガリレオ」は、たびたび計画の遅れが指摘されていますが、成功するでしょうか。

鈴木 本来、宇宙開発のようなものは、トップダウンでやるのがいちばんです。民主主義的にボトムアップでやろうとすると、時間がかかりすぎてしまう。ガリレオはその典型です。計画に参加している各国が自分たちの経済的・社会的な利益や主導権を取り合おうとするわけですから。

青木 2014年までに30機を打ち上げるということですが、実現は相当厳しそうですね。

鈴木 予定通りに進む確率はあまり高くはないでしょう。ようやっと最初の14機の発注が始まったばかりですから。

青木 ただ、その過程で欧州は共同プロジェクト運営の仕組みを学習していっています。何かに着手することって、とても大事だとガリレオを見ていると思いますね。

 

鈴木 そうですね。私がガリレオ計画を見ていて「すごいな」「学ぶべきだな」と思うのは、そこに流れる一貫した戦略的発想です。すでに米国のGPS(全地球測位システム)の利用がどんどん広がっているわけですが、非常に重要な公共インフラを米国の軍事サービスに完全依存するのは危険だという意識から計画がスタートしている。欧州は常に、「米国に対して依存(ディペンデント)でも、自立(インディペンデント)でもなく、100%依存はしない=ノンディペンデント(非依存)な関係を作る」という哲学に依拠していて、困難に見舞われてもそこはぶれないんです。

青木 当初はガリレオ計画に強い難色を示していた米国ですら、今や「ワシントンに(ガリレオ用の)地上局を置く」という協定を結ぶまでに軟化しました。

鈴木 米国と摩擦が起きても、ねばり強く説得して、米国が嫌がることは何なのかを見極め、彼らの利害とバッティングしないよう調整しながら、自分たちのやりたいことを通していった。こういうことを成し遂げてきたガリレオのプロセスがもたらす果実は、すごく大きいなと思いますね。外交の一つの神髄は、どれだけ自分たちの信念やプラン、目標について相手を説得できるか、交渉の間に生まれるさまざまな摩擦を調整する能力をどれだけ持てるか、にかかっています。欧州のすごいところは、そういう力ですね。日本の普天間問題などを見ていると、もっと欧州に学ぶべきだと思ってしまう。

青木 国連の巻き込み方も上手でしたね。宇宙空間平和利用委員会でICG (International Committee on GNSS)という会合をセットし、米国だけでなく、ロシアや中国の測位衛星システムとも両立性や相互運用性を高め、「世界全体で測位航法システムをよりよいものにしていこう」という方向づけにもっていった。

鈴木 GPSはミリタリー(軍事用)でユニラテラル(単独型)。これに対してガリレオは、シビリアン(民生用)でマルチラテラル(多国間協力型)であることを強調しています。GPSとは異なるシステムをつくりつつ、グローバルな場で、測位ガバナンスをどう進めていくか積極的に発言し、リーダーシップをとることを狙ったわけです。宇宙に限らず、欧州は手法を様々な国際標準づくりに利用しています。単なるものづくりに満足せず、同時並行的にガバナンスのシステムや利用ネットワークを構築し、主導権を握るやり方は見事です。

他国を引きつける工夫が必要

――日本も、測位衛星として今年、準天頂衛星を打ち上げる計画です。

鈴木  同じICGに、日本からは宇宙航空研究開発機構(JAXA)が代表で出ているんですが、「準天頂はこんな衛星です」と紹介して帰ってくるだけにとどまっていて残念です。ハードウエアの話だけで、他国を巻き込む戦略性がない。

青木 韓国、オーストラリアと水面下で交渉を進めているのでは?

鈴木 交渉、という段階には至っていないと思いますよ。なにより、準天頂衛星の全体像自体が描けていない。GPSの補完というだけでは、外国にとって魅力がありません。もっと付加価値のあるサービスが必要です。ガリレオのうたい文句の一つは、GPSが軍事用と民生用(無料)の2種類の信号しか出していないのに対して、無料コードをはじめ、サーチ&レスキュー、コマーシャルサービス(有料)、セイフティー・オブ・ライフ(救急や消防などに向けた信号)あるいはPRS(公的事業関連向け信号。軍事も含む)といった複数の信号処理を有していて、様々なサービスに対応できることです。それで他国を引きつけている。

青木 2009年に策定した宇宙基本計画では、最終的に「7機」体制を構築する場合もあると書いてあります。日本の衛星だけでなく、アジア・オセアニア全体としてそうした態勢をつくろうという構想があるのは事実ではないでしょうか。
鈴木 ですが、JAXAも文部科学省も経済産業省も国土交通省も、そのための予算をどう確保するかは考えていません。このままだと7機どころか、1機で終わる可能性もあると思います。

青木 日本が主導して1993年に設立したアジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)はどうですか? そうしたネットワーキングを推進するのに適した枠組みにならないでしょうか。超高速インターネット衛星「きずな(WINDS)」や陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」を組み合わせた災害の管理・低減などに活用していくなど、日本らしい宇宙活動をアピールする場として適していると思います。

鈴木 もちろんやるべきです。ただ、APRSAFが中途半端なのは、主たる事務局がないんです。
連絡機関のような機能しかなくて、事業を推進する体制がない。APRSAFを域内協力に利用するなら、もう少ししっかりした事務体制をつくる必要があるでしょう。 

青木 北京に事務局が置かれたアジア太平洋宇宙協力機構(APSCO)ともうまく協力してほしいですね。両者が対抗するような形になってしまうと、アジア諸国は困惑すると思います。担っている役割や目的が似ていて、しかも片方は日本主導、片方は本部が北京ですから、どうしても外からはそう見られやすい。

鈴木 私は、棲み分け可能だと思います。APSCOのメンバーは基本的に途上国で、中国の持っている宇宙開発・技術協力に関心がある。対してAPRSAFはむしろ、利用を促進する組織です。教育、人材育成、あるいは通信や地球観測といった側面にウエートが置かれているフォーラムですから。うまく両者で役割分担できれば理想的だなと。

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