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[Part3] CHINA/独自開発の先に広大なカーナビ市場への期待

 

経済危機からの脱出が遅れがちな先進諸国を尻目に、高成長を続けているのが中国だ。宇宙政策でも気炎を吐く。

2009年11月下旬、上海に近い浙江省杭州市の高級ホテルで、中国政府が独自に構築を急ぐ測位衛星システム「北斗」の関連企業や研究機関などが参加する業界団体の年会が開かれていた。1000人を収容できるという大ホールは、早朝からほぼ満席状態だ。

中国の衛星ビジネス関連の業界団体が開いたシンポジウム。中国当局が構築を目指す北斗システムに関する発表が相次いだ=浙江省杭州市で、小林哲撮影

「やがて中国市場は北斗システムが主流になる。中国人なら中国製を使うべきでしょう」

業界大手「北斗星通」のブースで、男性スタッフがこう力を込めた。テーブルの上には、北斗からの電波を受信する同社製の携帯用受信機が並ぶ。

性能的には米GPS用の機種と同等とされるが、製造が始まって間もないため、価格はGPS用の数倍から約10倍とまだ高い。それでも、公的機関などを中心に試験的な導入が広まっている。

現地の報道では、北京五輪の交通規制システムに採用されたり、四川大地震の際の人命救助に活用されたりしたことが大々的に報じられてもいる。

 

 

「ところで、どちら様?」

スタッフに質問を続けていると、身分を尋ねられた。日本の新聞記者だと告げると、男性の表情が急にこわばった。

「取材許可は取ってるのか? 敏感な話題だから、これ以上は話せない。わかるだろう?」

軍事と密接に絡む北斗の詳細は、なぞが多い。1990年前後に人民解放軍の主導で測位衛星の研究が本格的に始まり、94年には独自システムを建設する方針が国家レベルで決まった。

2000年10月以降、試験的に4機の静止衛星が打ち上げられ、軍事用のほか民生用でもGPSの信号を補う用途などから一部運用が始まった。

現在は第2世代の打ち上げ段階に入っている。09年4月までに2機が新たに打ち上げられた。業界関係者によると、2011年ごろから本格的な商用利用ができるようになると見られている。最終的には2020年までに衛星を35機ほどに増やし、約30機を運用する米GPSに匹敵するシステム構築を目指す計画だ。

ただし、その仕様は公開されていない。受信装置などの開発も今のところ、当局が許可した「北斗星通」のような国内業者にしか認められていない。

中国政府は04年からガリレオ計画にも正式参加しているが、関係者によると欧州の衛星技術を吸収するのが目的で、現在は北斗システムの開発一本に絞っているようだ。

年会で講演した解放軍信息工程大学の許其風教授(中国工程院院士)は「うまくやれば、中国市場だけでなく、東南アジア市場も我々のものにできるかもしれない。今後の努力次第です」と、北斗の将来性を強調した。

業界団体の推計によると、主流のGPSなどを含んだ中国国内の測位衛星関連ビジネスの規模は、09年の約500億元(約6600億円)から、15年には約5倍の2500億元(約3.3兆円)規模にまで達する。今後、カーナビなどの需要増を見込める東南アジアを含めた市場規模は計りしれない。独自の衛星技術で優位に立つ中国企業が、破格の値段で北斗衛星対応カーナビなどを投入、市場を席巻する――業界関係者が描くシナリオはこうだ。

許は壇上でこう締めくくった。

「性能がよく、低価格でサービスも徹底している。この三つがそろえば、怖いものはない。米GPSに占領された市場を奪回できるはずだ」

(小林哲)

(文中敬称略)

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