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[Part1] EU/ぶれない「脱米国依存」 ガリレオようやく発射台へと委ねられる

 

ドアに1枚の衛星の写真が張られていた。脇には「Galileo Yes,we can」の文字。

部屋の主は、ブリュッセルにある欧州委員会(EC)で、欧州独自の測位衛星システム「ガリレオ」の商業利用を担当するフィリップ・ハメだ。

「何しろ加盟国が27もある。何を決めるにも時間がかかったが、やっとここまできた」。そう安堵(あん・ど)の色を見せた。

2009年末、衛星や地上設備などのメーカーとの契約交渉が大詰めを迎えていた。10年末から11年初めにかけて、いよいよ最初の衛星4機が高度約2万4000kmの上空に打ち上げられる。ECは1月7日、14年にも運用を始めると正式に発表した。最終的には計30機の衛星群を誕生させる。

測位衛星はこれまで、80年代から運用を始めた米国の独壇場だった。軍事用に開発されたが、民生用に精度を落とした信号はだれでも無料で使えるようにする戦略が成功し、各国で民間航空機の管制などに採り入れられた。カーナビなどのGPS端末も普及した。今でも測位衛星=GPSと思っている人は多い。

ロシアにも冷戦時代、旧ソ連がGPSに対抗して開発したGLONASSがある。だが、国家が破綻(は・たん)に至る中、補充の衛星を上げてもその分壊れる、といった繰り返しで、システムは事実上、崩壊してしまった。プーチン政権以降、予算を集中投資して再構築に力を入れているが、国内でももっぱらGPSが使われ、大きく水をあけられている。

そんな状況に危機感を抱いたのが欧州だった。GPSに頼り切っていると、有事の際など米国の都合で使えなくなった場合に大混乱を招きかねない。「米国依存からの自立」を合言葉に1990年代、独自の測位衛星システム構想がスタートした。

米国も黙ってはいなかった。ガリレオ計画を断念させようと様々な手段を講じた。クリントン政権は2000年、民生用信号の精度を落とすのをやめ、利用者の利便性を高めて外堀を埋めようとした。

ブッシュ政権になると、欧州連合(EU)各国の国防大臣に警告の手紙を送ったり空軍関係者が「もし打ち上げたら撃墜する」と発言したりと、脅しめいた働きかけも相次いだ。有事の際、米国の敵にガリレオが利用されることを恐れたのだ。

ガリレオ計画にも暗雲が漂った。救ったのは、シラク仏大統領だった。フランスは早くからこの計画に力を入れ、思い入れも強い。「ガリレオがなければ、欧州は米国の属国になる」と発言し、欧州の地域主権を守って米国の技術支配に挑戦する意図を明確にした。

ガリレオ計画は03年、ようやく正式に決まった。だが、財源難から計画は大幅に遅れ、投資が期待された民間企業も「採算がとれない」と次々に撤退した。予算超過も度重なり、再び計画は暗礁に乗り上げかかったが、EUと欧州宇宙機関(ESA)が34億ユーロ(約4500億円)を折半することで再出発した。08年のことだ。

当然のことながら、ガリレオ計画にはGPSへの対抗意識が満載だ。

ダガリレオの模型を前に自信を見せるウスタリンク氏=辻篤子撮影

ESAで計画の指揮をとるルネ・ウスタリンクは「軍事目的のGPSと違い、ガリレオは純粋に民生用だ。信号も強くて信頼性が高く、世界中のユーザーにとって安心して使えるメリットがある」と胸を張る。災害や遭難時の救援用システムなど、多様なサービスが自慢。基本的に無料だが、航空管制など高い信頼性を求める顧客には別途、有料メニューも用意する。

後発組として米国とも協定を結んでガリレオとGPSの間に互換性をもたせ、ロシアとも協力するなど、単なる「対抗」とは異なるしたたかな面も見せる。

民間の期待も高まっている。ノルウェーで測量会社を経営し、業界団体「ガリレオ・サービス」の会長を務めるガル・ウーランドは「GPSにガリレオが加われば測位システムの安定性は格段に向上する。ガリレオは高緯度に強いという利点もあり、欧州企業にとっては大きなビジネスチャンスだ」と話す。

米国、ロシア、欧州――そして今、中国も同様の測位衛星システムの整備を進めている。計画が順調に進めば、2020年ごろには4極体制が整い、それぞれの思惑と狙いをこめた100個以上の測位衛星が地球の上空にひしめくことになる。

(辻篤子)

(文中敬称略)

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