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[Webオリジナル]インタビュー 空を語る

[第10回]

「ひとりの女子教育は、全家族のためになる」

パキスタンNGOリーダー、カリム・アフリディ氏 

 

 校庭に日の丸とパキスタン国旗がはためき、その下に女の子らが勢ぞろいしている。パキスタン北部のアフガニスタン国境近くにあるカイバル地区のハムザ村で2009年7月にあった女子の小学校の開校式。校舎の壁には、「日本国民の善意で建てられた」「日本の人々に敬礼を」などと書かれている。

 写真を見せてくれたのは、地元のNGO「LAMP(Learning, Awareness and Motivation Programの略)」の理事長、カリム・アフリディ氏(54)だ。日本政府から資金援助を受け、女子のための学校を建設、運営している。私が学校にまで取材に行こうとすると、彼は治安の悪化を警戒し、わざわざイスラマバードにまで私に会いに来てくれたのだ。

 カイバル地区などアフガン国境沿いに広がる一帯は、「連邦直轄部族地域(英語名はFederal Administrative Tribal Area=FATA)」と呼ばれる。古来、パシュトゥン人が大多数を占める部族社会だ。パキスタン政府は、「マリク(首長)」と呼ばれる部族長と、その集まりである部族会議「ジルガ」に社会秩序を委ね、事実上の自治権を与えてきた。ところが、この部族地域が1979年以降、アフガンに侵攻した旧ソ連軍に対する「聖戦(ジハード)」の出撃拠点になり、90年代にはタリバーン台頭の舞台になった。パキスタン国内の最貧困地帯で、学校や病院の整備は遅れている。

 アフリディ氏はパシュトゥン人の部族の有力者で、日本政府から委嘱を受けたペシャワルの名誉総領事でもある。学校建設の成果や運営の課題を聞いた。(GLOBE記者 竹内幸史)

2009年7月にあった女子の小学校の開校式に出席したアフリディ氏(左)=パキスタン北部のカイバル地区、アフリディ氏提供

――日本政府からNGOの活動支援にあてる「草の根無償資金協力」(9件で総額約70万ドル)を受け、学校建設や水対策を進めていますね。役立っていますか?

アフリディ氏:私の出身地であるカイバル地区は学校も病院も少なく、水道などの社会インフラもろくにない。部族長だった祖父も、父も部族の住民に対する啓蒙活動をしてきた。私は幼いころからペシャワルに移って十分な教育を受けたありがたみを感じており、地元への貢献を考えた。NGOを設立し、1995年、カイバル地区に女子の小学校を開いた。土で固めた小屋のようなもので、当初は生徒5人だけの教室だった。この地域の住民は保守的だ。しかし、宗教指導者の理解を得ると、だんだんと親の間に学校のことが広まり、生徒が増えていった。日本政府からは96年に初めて車1台と机やイスなどを買うための資金援助を受けた。

 日本政府の人々と知り合ったのは、その10年前のことだ。私がペシャワルを拠点にパキスタン政府のアフガン難民対策委員会の委員長補佐をしていた1986年、難民キャンプを視察に来た日本政府の人と出会った。難民支援に日本の協力を得るようになったが、私は発展が遅れているパキスタン北部全般にもっと助けが必要だと訴えた。2004年にはパキスタン政府の仕事を辞め、日本の名誉総領事の委嘱を受けた。

日の丸とパキスタン国旗がはためく開校式=アフリディ氏提供

――なぜ、女子の教育が大切なのでしょうか?

アフリディ氏:男女の間に不平等があってはならないし、女子を一人教えれば、家族全員に教育成果が効果的に伝わる。(パキスタンでは女性の識字率は男性より低いが、)学校で字や算数を習った女の子が家に帰ると、その姉妹や母、祖母まで教えるようになった。女子の学校を開いてから5年もたつうちに、最初は女子の教育に心理的な抵抗があった親たちも、「アフリディさん、あんたは正しかったよ」と言ってくれるようになった。また、女子が教育を受けて賢く育つと、(過激派などによって)若者が食い物にされることを防ぐ力にもなる。

 日本からは学校開設と同時に、水供給にも支援を受けている。井戸の掘削や配水管の敷設などによって飲料水を手に入れるためだ。この地域では早朝から子供や女性たちが3~4時間もかけて歩いたり、ロバを使ったりして水くみに行く。水は基礎的なニーズだ。水が入手しやすくなれば、子供たちも学校に行きやすくなる。

――今後の課題は何ですか?

アフリディ氏:日本の援助で、すでに4校を建設し、約2000人の生徒が通っているが、もし日本の支援がなければ不可能だった。特に部族地域の住民にはパキスタン政府からのまともな支援は期待できず、自国の政府に頼んでも時間の無駄だった。

 学校のない地域はまだまだ多く、子供たちは学校が出来るのを列をなして待っているような状態だ。将来、さらに4校を新設しようと思っている。だが、校舎を建てても先生がいなければ、何の意味もない。現在ある4校では各校5人ずつ計20人の教師を雇っているが、生徒数を考えると全く足りない。その半数は女性で、地元の住民やペシャワル在住者から採用している。学校の周辺は他の部族地域に比べれば治安は良い方だが、女性が通うのは大変だ。

――部族地域では反政府武装勢力のタリバーンに対する掃討作戦が起きています。

アフリディ氏:多くの住民は決してタリバーンを支持してはいない。だが、若者に働き口がなく、貧困問題が解決されないことが、タリバーンを勢いづける要因になっている。彼らは部族の長老の意見も退け、ジルガのような部族秩序も破壊してしまった。

 昔はこれらの武装勢力は旧ソ連など外国の支配に対して戦ったものの、アルカイダなどこの地域には存在しなかった。米国は昔と違って、反イスラムになっていることに問題がある。今のような状態で戦い続けるなら、米兵を増やしても解決にはならない。米国は何らかの妥協が必要な時だと思う。 ■    

 

 

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