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[Webオリジナル]JAL再建をめぐる 企業年金Q&A

[その2a]

「JALを法的整理したら、どうなるのか」

一橋大学大学院法学研究科教授 山本和彦さん

経営が実質的に破たんした日本航空(JAL)は、再建に向けて企業再生支援機構に支援を要請。その前段として、事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)によって、借入金の返済を一時猶予された。ただし、これらはあくまで私的整理の手続きだ。裁判所の監督下で、手続きが厳格で透明性の高い会社更生法を適用すべきだ、との意見も根強くある。
10月末で解散した「JAL再生タスクフォース」は、「私的整理に比べて、飛行機を飛ばし続けるために積んでおくキャッシュが莫大になる」という理由に加え、「公的支援の条件である年金カットができない可能性がある」として、会社更生法による法的整理を見送った。だが、この対応については、専門家から異論がある。会社が再生手続きに入った時、企業年金はどう扱われるのか。破産法制の専門家である一橋大教授の山本和彦さんに聞いた。
(11月9日、国立市の一橋大で。聞き手・浜田陽太郎)


【年金法と破産法の関係は?】

Q:企業年金の受給権は確定給付企業年金法によりしっかりと守られています。一方、会社が民事再生法や会社更生法に基づく法的整理に入った場合、年金を受け取る権利はどのような扱いになるのでしょうか。

やまもと・かずひこ  1984年、東京大学法学部卒業。東北大学法学部助教授、一橋大学法学部助教授を経て、一橋大学大学院法学研究科教授。司法制度改革や企業再生制度の構築に向けた政府の検討会に数多く参加している。

山本: まず、企業年金が「企業から退職者に直接、支払われている」という状態を前提にして考えてみましょう。この場合、年金は、給料や退職金と同様、雇用関係に基づく「労働債権」であり、他の一般的な債権と比べて優先的に支払われると解釈されます。民法による一般先取特権が認められているという考え方です。

この解釈に基づいて、民事再生法による手続きでは、年金の債権は「再生計画」の枠外に置かれるため、随時、すべて支払われます。企業間の取引債権や金融債権などの「再生債権」のように、権利の変更を受けません。

会社更生法の適用を受けた場合は扱いが違ってきます。退職年金債権の3分の1は「共益債権」に分類され、随時、すべて支払われます。しかし、残りの3分の2は、「優先的更生債権」になり、管財人のもとでつくられる「更生計画」の中で、減額される可能性が出てきます。

Q:現実に、会社更生法を適用された企業で、企業年金の処理が問題になったことはあるのでしょうか。
山本: 
実態としては、年金は更生計画に入ってもそのまま払っていることが多いのではないでしょうか。ゴルフ場の倒産などのケースでは、あまり額が大きくないので、払っても問題にならなかったのです。新たに確定給付企業年金法(以下、年金法)が施行された2001年以降、JALのように巨大なレガシーコスト(負の遺産)を抱えた企業が、更生法を適用申請した例はありません。

Q:年金法は、基金の解散などで年金をやめてしまう場合、事業主に積立不足分を一括拠出する義務を負わせています。この義務が果たされる限り、年金は実質的に減額されません。会社が会社更生法を適用された場合、この義務はどうなるのでしょうか。

山本: 年金法は、平時、つまり倒産手続きに入っていない状況において有効な規定です。JALの申請した事業再生ADRを使っていたり、企業再生支援機構の支援を受けていたりしても、それは私的整理の手続きですので、年金法は生き続けることになります。つまり、年金の減額は認められず、受給権が保護されるのです。

一方、法的整理の世界に入ると、会社更生法の規定が優先されます。もちろん、共益債権に分類された3分の1は年金法の規定が依然として有効です。しかし、優先的更生債権になる3分の2は、更生計画の中で扱いが決まるということで、当然、減額の可能性が出てきます。更生計画は、債権の金額ベースで半分を超える債権者の合意を得てつくられ、裁判所が認可します。


【JALの年金債権には優先権がない?】

Q:企業が年金の積立不足分を埋める義務は、裏を返せば、退職者が企業に不足分の拠出を求める債権を持つということ。優先的更生債権に分類された3分の2も、他の取引債権に比べて優先的に支払われるとみていいですか。

山本: 「企業から退職者に直接支払われている年金は労働債権だ」とする一般的な見方にもとづけば、そう解釈する余地はあります。しかし、私自身は「退職者はJALに対して直接の権利をもっていない。年金基金がJALに対して、積み立て不足を埋める拠出金の支払請求権を持つだけであり、そのような債権については、そもそも労働債権ではなく、他の債権と同列に扱われる一般的な更生債権にしかならない」と考えています。なぜなら、JALの年金は、企業からではなく基金から支払われている「基金型」だからです。
(次ページへ続く)

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