![]()
![]()
日本航空(JAL)の再建をめぐり、大きな関心を集めたのが企業年金だ。「公的支援を受けようという企業のOBが高い年金を受け取っている」ことへの反発もあり、議論が沸騰している。JALの年金論議を通じて、浮かび上がった課題は何なのか。2回にわたり、専門家とのQ&A方式で整理する。最初は、年金数理人の久保知行さんに、「なぜ、実質的に経営破たんしたJALの年金が守られ続けるのか」という疑問への答えと、今後の対応についての提案を聞いた。
(10月30日、横浜市内で。聞き手・浜田陽太郎)
Q:JALは自力で資金繰りがつけられず、経営が破たん状態に陥っています。破産した会社の年金は、多くの場合、積み立て不足を抱えていますが、どのような扱いになるのでしょうか。

久保:年金に積み立て不足があっても、もし清算されて企業がなくなってしまえば、今ある年金資産から一時金を払い戻すしかありません。本来、受け取れたはずの金額から大幅に減った一時金を退職者と社員に分配して終わりになるでしょう。
ただ、JALのように「実質破たん状態」にある企業について、年金をどう扱うかの対応はあいまいです。そこに一番の問題があります。
Q:JALの年金はなぜ特別扱いされるのでしょうか。
久保:公共交通網である飛行機が飛ばなくなるから、と政府は説明しています。会社は、外部から酸素を供給してもらいながらも、生き続けることになる。
一方、企業が公的年金に上乗せする独自年金の運営には、確定給付企業年金法というルールがあります。この法律では「年金基金を解散する場合、事業主は積み立て不足を埋めるための掛け金を一括拠出しなければならない」と決まっていて、企業が存続している限り、この規定も生き続ける。「年金をやめるなら、足らずまえ(不足分)をちゃんと出して、年金の受給権を守りなさい」ということです。
これは諸外国に比べても強い保護規定です。米国では企業にこのような責務を負わせず、企業の保証料で営まれる「年金給付保証公社(PBGC)」が給付を保護する仕組みです。ただし、鉄鋼、航空、自動車業界に利用が偏り、多額の保証債務で、公社の財政は危機的な状況です。日本でも、支払保証制度の創設が議論になったことがありますが、ちゃんとした制度管理を行わない企業年金まで救済することにならないか、というモラルハザードの懸念があり、継続して検討することになりました。
Q:企業にお金がないのに「出せ」という規定があると、経営が苦しい企業は、年金の解散ができなくなりませんか。
久保:年金の種類によっては例外規定があります。厚生年金基金の場合は、公的年金の「代行部分」さえ国に返しさえすれば、積み立て不足が残っていても、解散できるという経過措置が残っているのです。2001年4月以前に設立された厚生年金基金がこの措置の対象です。JALは昨年10月に代行返上して、厚生年金基金から確定給付企業年金基金に移ったので、受給権保護がより強化されているのです。もし、厚生年金基金のままでいれば、代行返上を済ませた後、残った年金資産を分配するだけで解散できたでしょう。
Q:JALは解散に厳しいしばりがかかる制度に移ってしまったのですね。もしJALが退職者の3分の2以上の説得に失敗して自主的に年金を減額できない場合、政府はJALを狙い打ちした特別立法をつくり、このしばりを外すようです。どう評価したらいいでしょうか。
久保:特別立法をつくるのは弊害が大きいと考えています。もし、事後的に国会が法律をつくって年金を減らすかもしれないというおそれが広がれば、企業年金制度の信頼喪失はJALにとどまりません。他の企業でも、退職金を一時金で受け取る人ばかりになって、年金を選ぶ人がいなくなるおそれがあります。日本の企業年金制度の将来に悪影響を残すでしょう。
Q:では、どうしたらよいのでしょうか。
久保:私は、確定給付企業年金法の改正で対応すべきだと思います。厚生労働省の責任で、JALのような「実質破たん状態」の企業を判定し、確定給付企業年金基金に解散命令を出した場合には、「積み立て不足を埋める一括拠出」の義務を外す規定を設けるのが一番よいでしょう。
この規定を整備した上で、厚生労働相が使用者と労働者・退職者を呼んで、話し合いをさせるのです。受給権を守る役割を担う厚労省が裁定役になった方が、労働者・退職者側にとって、財務省や国土交通省に特別立法で減額を強制されるよりずっとましでしょう。ただし、話し合いが物別れに終わったら、企業からの拠出がなくなり、今ある年金資産の範囲内でしか払われなくなる。どこまで譲れるのか、ぎりぎり許容できる範囲で、減額受け入れの決断をせざるをえない。
今回、JALの退職者が怒っているのは、会社の経営が「破たん」したかどうかの説明もないうちに、「年金を半減する」と言われたからでしょう。話し合いの土俵をつくるのも、厚生労働省の役割です。もし、「私たちの仕事は年金を保護することです」といって責任範囲を限定し、今回の日航問題を傍観するのなら、監督官庁としての資格はないと思います。