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「航空会社の経営が傾くと、飛行機の事故は増えるのか。格安航空会社(LCC)は、運賃が安い分、事故を起こしやすいのか。
心配する人は多いだろうが、これまでのデータからみる限り、経営難や低運賃が事故に直結するとは、必ずしもいえそうにない。

2001年、同時多発テロによって4機の飛行機の多数の乗客が犠牲になった米国では、大手の航空会社が軒並み、経営破綻した。USエアウェイズ、ユナイテッド航空、デルタ航空、ノースウエスト航空の大手4社はいずれも、連邦破産法11条に基づく会社再生手続きの適用を受けた。だが、今のところ、経営難と結びつくような4社の事故は起きていない。
USエアウェイズ機は今年1月、ニューヨークでエンジンが壊れる事故があったが、原因は鳥の衝突だった。機長の機転によって無事に着水し、「ハドソン川の奇跡」と呼ばれた。
米国の任意団体「エアセーフ」が1970年以降の事故データを元に推計している「事故死亡率」でも、米国の大手各社は比較的高い安全水準を維持しながら運航していることがわかる(表参照)。
一方、LCCはどうか。

世界最大のLCCである米サウスウエスト航空は、71年の設立以来、乗客の死亡事故は皆無だ。150席クラスの飛行機を300機以上そろえ、短距離をこまめに飛ぶビジネスモデルを確立。機体を統一して、整備コストを下げることで、従業員の給与は平均より高いのに、安い運賃を維持している。高い収益性と事故ゼロという安全性を両立させ、旅客数は世界トップを誇る。
航空アナリストで「墜ちない飛行機」(光文社新書)の著書もある杉浦一機も「運賃の安さと安全性は直接関係ない」とみる。
ただ、航空会社の経営姿勢によっては、安全性の低下を招くおそれがある。元ANA機長で航空評論家の前根明は「航空会社の行き過ぎた合理化が事故を誘発したとみられるケースは多い」と話す。
米国では78年に航空規制が緩和されてから、航空各社の事故が相次いだ。
82年1月、規制緩和で台頭したフロリダ航空のB737型が、雪が舞うワシントンのポトマック川に墜落し、乗客74人が死亡。米国家運輸安全委員会(NTSB)は調査報告書のなかで、「会社の急成長のため、機長は(訓練時間が十分にとれず)冬季飛行を体験する場がなかった」と指摘した。
88年4月、米・アロハ航空のB737型機の天井がハワイ上空で吹き飛び、客室乗務員1人が機外に吹き飛ばされた事故は、機齢19年の機体の金属疲労が原因と判断された。同機は耐久性の目安とされる7万5000回の飛行回数を大幅に超えていたが、十分な整備や点検がなされていなかった。翌89年2月にも、同じくハワイ上空で、機齢約20年のユナイテッド航空のB747型の貨物室のドアが吹き飛び、9人が機外に吸い出されて死亡した。
日本の航空会社はどうか。
JALは60年代、乗客が死亡する事故ゼロで通し、当時は「世界でもっとも安全な航空会社」と評された。だが、70年代に4件の墜落事故を起こして、評価が一変。85年には、群馬県・御巣鷹の尾根でジャンボ機が墜落し、520人が死亡した。同社の労働組合は、相次ぐ事故の背景には「経営悪化→行き過ぎた合理化→安全意識の低下」という負の連鎖があるとして、経営陣を厳しく批判した。
2005年には、大事故には至らないものの運航トラブルが続発し、国土交通省から事業改善命令を受けた。これによってJALには「安全性が不安」とのイメージがつき、乗客が他社に流れた。

危機感を深めたJALは、安全が確保できる企業風土にしようと、作家の柳田邦男や大学教授らによる第三者委員会を立ち上げた。その助言を受け、06年4月に御巣鷹の墜落機の残骸や遺品を展示・公開する安全啓発センターを開設。これまで「忘れたい」としてきた墜落事故を「忘れない」方針に転換した。また乗員のミスを「非懲戒」にすることで、ささいなミスも拾い上げて再発防止につなげる仕組みを国内で初めて作った。
ANAの安全性はどうか。エアセーフの統計上、事故死亡率はJALよりも相当低いが、これは事故を70年以降に限っている影響もある。ANAは66年、羽田沖と松山沖で墜落事故を起こした。
事故に至らないが、ちょっとしたエンジントラブルや速度超過などの「ヒヤリ・ハット」を起こした確率(08年度、1000便あたり)は、JALが0.82、ANAが0.91とほぼ同水準。
日本で新規参入した航空会社も設立以来、死亡事故はない。だが、ヒヤリ・ハットの確率は、スカイマーク2.93、スカイネットアジア3.96など、JALやANAよりも高い。
飛行機の安全を考える上では、国ごとの安全基準や監査体制の違いも見逃せない。
国際航空運送協会(IATA)によると、08年の100万飛行あたりの死亡事故の発生率は、世界の平均で0.81。欧米や南アジアが0.5前後なのに対し、アフリカは2.12、中南米は2.55、旧ソ連諸国は6.43にものぼる。日本は86年以降、ゼロを続けている。
(文中敬称略)
野島淳(のじま・じゅん)
1973年生まれ。
大阪本社・東京本社の経済部などを経て、GLOBE記者。
梶原みずほ(かじわら・みずほ)
1972年生まれ。
大阪本社社会部、政治部、be編集グループなどを経て、GLOBE記者。
佐々木学(ささき・まなぶ)
1973年生まれ。
東京本社の社会グループで警察・司法担当を経て現在、国土交通省を担当。
浜田陽太郎(はまだ・ようたろう)
1966年生まれ。
AERA、経済部、生活部などを経て、GLOBE副編集長。
山脇岳志(やまわき・たけし)
1964年生まれ。
ワシントン特派員、論説委員などを経てGLOBE編集長代理。