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[Webオリジナル]日米最高裁をよく知るブックガイド

[第1回] 最高裁の内側で感じ、考えたこと


今回の特集を読んで、日本や米国の最高裁や司法制度のあり方に関心を持たれた方がさらによく知るためにはどんな本があるか、4回にわたって紹介してみたい。一般には入手が難しい本も、あえてラインナップに載せてみた。

1回目は日本の元最高裁裁判官が書いた本を取り上げる。米国と違って、日本では、現職の最高裁裁判官が本を出版することは(就任前に執筆していた教科書などは別として)、最近ではまずない。そこで、出版はどうしても退官後になるが、内容の濃いものも少なくない。

「キーマン」が語る変化の兆し

まず、今回の特集の主要な登場人物の一人である、元最高裁判事の滝井繁男氏が今年7月に出版した『最高裁判所は変わったか 一裁判官の自己検証』(岩波書店)だ。

 

滝井氏は弁護士時代には、大阪空港公害訴訟の原告弁護団副団長を務めたり、未熟児網膜症訴訟をはじめ患者側の立場に立って医療過誤訴訟を多く手がけたりした。特集にもあるように、弁護士時代から、最高裁判決を批判的に見ることが多かったという。
その滝井氏が最高裁の中に入り、考え、感じたことを率直に綴ったのが本書だ。

滝井氏が退官した直後、07年1月に朝日新聞本紙に掲載されたインタビューは、次のように始まっている。

最高裁では最近、立法や行政に対する従来の及び腰の姿勢から一歩抜け出ようとする「変化の兆し」が表れている。その影のキーマンの一人が、昨年10月に退官した滝井繁男元判事(70)だ。関西水俣病訴訟判決やグレーゾーン金利を実質否定する判決などで重要な役割を果たした。外観に象徴される近寄り難さから「奇岩城」と呼ばれることもある最高裁の内側で、何を考え、何を感じたのか。"核心"を語ってもらった。

本書では、この「変化の兆し」について、今世紀に入ってからおよそ10年間にわたって、民事、刑事、行政の分野ごとに詳しくレビューし、自らがかかわった判決については同僚弁護士2人のインタビューに答えながら、「変化」の所在を探っている。
第一章が「最高裁裁判官の任命」であることが、筆者の現在の問題意識を暗示しているとも言える。

司法は民主主義を退化させるのか

国政選挙での投票価値の不平等の問題をめぐり、「一票の格差は合憲」とする多数意見に対して激しい反対意見を書き続けてきたことで知られる元最高裁判事の福田博氏は『世襲政治家がなぜ生まれるのか? 元最高裁判事は考える』(日経BP社)を今年3月に出版した。

 

退官後、06年9月に朝日新聞本紙に掲載されたインタビューで、福田氏は次のように答えている。

「三権がお互いをチェックする機能はちゃんとしているか、というのが、(最高裁判事だった)10年間を通じて最大の関心事だった」

「選挙権の不平等は、選挙区割りの固定化と結びつき、二世、三世議員を生み出している。私は『新貴族社会の到来』と名付けている。選挙制度で得をすると、国会議員といえども人間だから、その制度は温存しようとする」

福田氏は元外交官。米国に駐在していた時、「日本は一流の民主主義国ではない」というのが米国の友人たちの共通認識だったことにショックを受けたのが、投票権の不平等に関する問題意識の原点だ。

その問題意識を本格的に展開したのが本書だ。現在の最高裁について、「投票権の不平等を国のシステムとして確立し維持することに大きな力を貸す機関に変質してしまっていて、わが国の民主主義制度が退化することを促進する機関になってしまっている。これは、ぜひとも直さねばならない」などとも述べている。

「少数意見」の意義とは何か

 

市販はされていないが、1年前に退官した才口千晴・元最高裁判事が今年9月に私家版として出版した「弁護士任官判事のつぶやき」(商事法務)は、在官中や退官直後の随筆や講演録をまとめた。さりげなく書かれているフレーズの裏を深読みすると面白い部分が何カ所もある。

今や古典的な書物とも言えるが、元最高裁長官の矢口洪一氏(06年死去)の「最高裁判所とともに」(有斐閣、品切重版未定)も、生きた戦後司法史として一読の価値がある。

上記の本では物足りない向きは、『矢口洪一オーラル・ヒストリー』(政策研究大学院大学)を。一般には公刊されていないが、一部の図書館では読める

 

90年代を代表する弁護士出身の最高裁判事と言えば、大野正男氏(06年死去)だろう。「弁護士から裁判官へ 最高裁判事の生活と意見」(岩波書店、品切重版未定)は、その半分近くのページを、個別意見(少数意見)の意義や、自らが実際に書いた個別意見の紹介にあてている。

学者から裁判官、再び学者(筑波大、成蹊大各教授)を経て89年から99年まで最高裁判事を務めた園部逸夫氏の「最高裁判所十年――私の見たこと考えたこと」も、前半は自らが書いた少数意見を紹介しながら、それぞれに解説をつけ、個別意見と法廷意見のさまざまなあり方を描いている。後半は「私の最高裁判所論」と題して、外国法の受容や、司法の行政に対するチェック機能など、様々な問題を論じている。巻末には、政治学の教授が、園部氏の判決とその裏にある思考様式を分析した論考を収録している。

 

80年代に在官した学者出身の元最高裁判事、伊藤正己氏の『裁判官と学者の間』(有斐閣、オンデマンド出版で対応)も、少数意見がメインテーマだ。少数意見のメリット、デメリットを比較したり、「補足意見の効用」について論じたりしているほか、半分以上のページを割いて、自らの少数意見を紹介している。

元最高裁判事にして東大名誉教授の団藤重光氏は、自伝風の著書「わが心の旅路」(有斐閣)の中の「最高裁判所の九年」と題する章で、「学者的良心と裁判官的良心」、「判例の役割」など興味深いテーマを論じている。最高裁の裁判官室の椅子は全部規格がきまっていて、とても座りにくいという筆者が、ロッキング・チェアと寝椅子を兼ねたものを裁判官室に入れたエピソードなども紹介されている。

団藤氏が07年に出版した『反骨のコツ』(伊東乾・編、朝日新書)の主題は死刑廃止と裁判員制度だが、最高裁の少数意見も最終章のテーマになっている。
「僕ほど反対意見書いた人は、歴代の最高裁判事の中にもいないかもしれない」という団藤氏は「慎重なのは大事ですけど、必要なときはズバリズバリと新しくしなきゃならない。だから僕ははじめから、ずいぶんと乱暴な議論ばかり、わざとしたんですよ。波乱を起こしてやろうと思って。波を起こさないとだめですね。動かさないと」と語っている。

(山口 進)


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