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[Webオリジナル]北京共識	-中国の時代-

[第12回] 「円の存在感はまだまだ高い」

渡辺博史・国際協力銀行(JBIC)経営責任者

 

――中国は今年か来年には国内総生産(GDP)の規模で、日本を上回る見通しです。

わたなべ・ひろし 国際協力銀行(JBIC)経営責任者、日本政策金融公庫副総裁。元財務官。60歳。

渡辺博史 すでにいろんな場で、日本が一国でアジアを代表しているとは言えなくなっている。中国は貿易の規模では日本をすでに上回る。ドイツを抜いて世界最大の「輸出」国になる日も近い。しかし、アジアでの生産ネットワークの本部をどこに置くか。これは今後の競い合いになるだろう。

――金融は?

渡辺 金融はまだ日本がより高度な専門知識や蓄積がある分野である。GDPや貿易量という経済規模で中国に抜かれるようなことがあったとしても、国際通貨基金(IMF)の出資比率の算出には、金融市場の厚みや公開度も勘案している。資本の自由な移動や人民元の兌換の実現には相当時間がかかりそうだ。国際金融市場では円の存在感がまだまだ高い。

世界銀行でも中国は自分たちの地位は上げたいが、発展途上国に対して長期にわたって低利で貸し付けるような国際機関支援を、日本のようにできるか、といえば、自らが途上国でもあり、それほどやりたくない。国内の貧しい人々から反発も出るだろう。それに、中国にとっては、たとえばアフリカへの支援は自国の都合でできる二国間の方が世銀など多国間で協力してやるより好ましいと考えているだろう。時には、やりすぎてもいるが。
開発援助の世界で、国際機関を通じて貢献するには時間がかかるのではないか。


――中国が人民元の国際化を言い始めました。日本政府も80年代から投資や貿易決済に幅広く円を利用してもらおうと「円の国際化」を進めてきたはずですが、いまだにアジア域内ですらさほど使われていません。

渡辺 アジアを『円圏』にするという野心がかつて、あった。さらに、欧米の投資家にも円に投資してほしい、という期待もあった。

しかし、低金利が続き、投資家には円資産を買うメリットがなくなった。さらに、円高円安と上下動が激しい。投資、貿易決済手段ともにあまり向かない通貨になってしまった。近年、為替の変動がかつてよりは収まってきたので、アジア各国に対して貿易決済に円を使ってほしい、と再びアピールし始めた。アジアのようにドルに依存した貿易決済は、手取り額に域外の経済・為替事情が反映するという点で域内の貿易者には不安定でもあり、また、最終的に使うわけでも無いドルに対して無用の市場圧力もかける。その意味での円の使用は、皆にとって有益だ。


――人民元の動きも意識しているのでしょう。

渡辺 それはある。アジアの域内で日本円がどのくらい使われているか、というのは将来、アジアの共通通貨を検討するようなことがあれば、大きな意味を持ってくる。日本の円の価値を高めておく必要がある。金融危機時に備えて外貨を融通する通貨スワップ協定の拡大を推進するというのはこれまでも日本が先に立って進めてきた構想だが、それに加えてアジア諸国向けに円・現地通貨の直接スワップを提供したのは、中国の動きに刺激された面がある。

JBICでもインドネシアが政府として初めて円建て債(サムライ債)を発行するにあたって保証するなどの支援をした。フィリピンなどにも同様の支援を予定している。米ドルではなく、地域の通貨を使いたいという国は少なくない。金融危機で国際外貨市場が小さくなっているなかで、アジアの国々の資金調達を助けるとともに、ドルが多く使われている域内で円の利用を促していきたいと考えている。


――中国経済の将来をどうみていますか。

渡辺 ここ1~2年の成長率は、景気刺激策もあって、高いものとなる。しかし、2011年以降を展望すると、不確実性が高い。一本調子で伸びていくとは限らない。規模拡大に終始している状況から、次の段階へいくには新たな戦略が必要だろう。


――なぜですか。

渡辺 一人あたりのGDP3000ドルを超える発展段階に達すると、生活スタイルに変化が生まれ、消費が活発になるとともに、権利意識も強まりさまざまな社会問題も出てくる。中国もその時期にある。特に地域間の所得格差が拡大するという問題は中国の場合、「国是」との関連でも深刻である。高齢化も進み、2015年ごろからは労働人口が減り始める。農業も含め、経済活動の生産性が低く、生活環境としては社会保障が未整備なまま高齢化社会に突入する。工業生産量は多くても、世界に伍していける中国ブランドは多くない。外国ブランドから生産委託を受けて生産量を増やしており、開発力に欠ける。一人当たりGDPの上昇は賃金水準の上昇でもあり、そうなれば外国資本からの受託生産の受注では他の国との熾烈な競争関係に入る。また、常に過剰生産気味で資源の浪費や公害も深刻だ。

規模の拡大はともかく、こうしたことを克服しながら経済成長を続けるのは、なかなか容易ではないだろう。金融も、恣意的な政策運営になっていて、市場参加者の予見可能性を害しており、脆弱だ。近々古典的な不良債権問題が起こりうる。


――それにしても、日本人の一部の世代は「世界第二位の経済大国」の看板をおろすことに郷愁のようなものを感じるでしょうね。

渡辺 愉快ではないだろうが、人口が10倍の国と総量で比較することがナンセンスだという風にわが国の方が考えを変える必要があろう。私はメディアの皆さんに対して、「中国に抜かれたという記事の見出しをあまり大きな活字で書くな」、また、「同時に so what とこちらが言えることが重要だ」、と申し上げてきた。


――中国経済の存在感の高まりもあって、米国は従来のG7では対応し切れない、と考えているようです。

渡辺 世銀総裁だったウォルフェンソン氏が05年ごろ、すでに米欧日中のG4を言っていた。将来、欧州連合、米国、中国というG3の枠組みとなる、ということを言う人もいる。ただ、アジアを中国のみが独占的に代表することについては、日本だけでなく、欧米、東南アジア諸国連合(ASEAN)にもいろんな意見があるのではないか。G20という大きな枠組みに移行するとしても、その中で、G7という近似の市場特性を共有するグループの一員として動けるという立場にいることの意味は依然として大きいと思う。

(2009年7月17日、東京で。聞き手=吉岡桂子 経済グループ記者兼論説委員)

 

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