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――来年にも中国はGDPで日本を上回ります。日中関係や東アジアでどんな変化が起きるとみていますか。

エリザベス・エコノミー 複雑な問題だ。中国は明らかにパワフルな軍事力を持つようにはなっていたが、日本は経済的な強さを持っていた。今も、一人あたりGDPでみれば明らかに日本が中国を上回っている。発展途上国への支援などでみれば、日本の方が明らかに役割を果たしていているし、果たせる。とりわけ、東南アジアにおける日本の影響力は、とてつもなく大きい。環境、エネルギー、技術など、さまざまな面で質的な貢献もしてきた。たいていの人は、日本がアジアで果たしてきた貢献は大きいと理解している。
日本にとって今後の挑戦は、日本の地位をもっと引き上げたいと決断するかどうかだと思う。それとも、中国にそうした影響力や存在感を渡すことを容認するのか。日本はこれからも、中国と少なくとも同じぐらい強いポジションを持てる。そのためにはもっと大きな声で発信するという政治的な判断をするべきだろう。今まで日本は伝統的に静かなパワーだった。そのままでいると、存在感は薄れる。
――米中関係はどうでしょう。
エコノミー 少なくとも予見できる将来でいえば、米国は伝統的に同盟関係にある国々をパートナーとすることで、価値観を共有しながら、あらゆる範囲の課題について国際的によい統治をすすめていけると考えている。だから、今も重要な課題について日本や欧州と一緒に作業をするほうが、一般的に、中国との作業よりうまくいっている。米国は過去30年にわたって中国と対立するさまざまな分野で合意に達したいと考えてきたが、うまくいっていないことが多い。それは協議の場がないからではなく、政治システムが異なるためであり、価値観やアプローチの手法が違うからだ。根本的なところで合意できない。中国はスーダンにヘリコプターを売り、ミャンマーの軍事政権に協力する。これらは米国の価値と合致しない。米中は同じ土俵にいない。
もちろん、あらゆる面で中国と一緒に働けないと言っているのではない。北朝鮮問題では一緒に何年もやってきている。北朝鮮の非核化については米中とも合意できる。しかし、最終目的は違う。中国に、北朝鮮の安定と核問題のどちらをとるかといえば、安定をとるだろう。米国は核問題、北朝鮮の非核化を選ぶ。安定を少々犠牲にしても、体制の変化と非核化に期待すると思う。日本は拉致問題といった別の優先順位があるし、それぞれに最終的な目的がある。
米中は一緒にやれることもあるが、最終的には異なる価値観と利益に基づいて動いている。だから共通の土俵を探す必要があるが、米中G2というのは、あまりにも中国に期待しすぎた概念だ。大きくて大胆な考えなので、多くの関心を集める。聞こえもいい。だが、米中が世界の最大の経済体だからといって、二国間で世界を形成するような作業を協力してやれるかというと、今はできないと思う。
――米国は既存の秩序の中に中国を引き込みたいのでしょう。
エコノミー それははっきりしている。米国は欧州の同盟国と一緒に幅広く作業して、世界のルールを打ちたててきた。我々の価値に根ざしたシステムのなかに、中国を引き込みたい。
――G2に対する中国からの反応は。
エコノミー G2という概念は、中国のプライドを満たしてはいると思う。「米中関係はもっとも重要で、世界の将来を決定づけるだろう」などと米国の研究者らが言うことに、一種の誇りを感じているだろう。
だが、
同時に、中国はG2という言葉が与える二つのシグナルを懸念している。まず、米国は中国に対して、ありとあらゆる課題でもっと圧力をかけようとしているのではないかというシグナルだ。北朝鮮やイラン、スーダン、ミャンマー問題などに、米中が異なる意見を持つ課題はたくさんある。「さあ、G2だ、米国はもっと厳しく中国を打つぞ」と構えている、と考えている。
もう一つは、世界的に責任あるステークホルダーとして、中国の役割への期待を引き上げるのではないか、という心配だ。中国としては、この役割を果たすにはもう少し時間がほしいと思っている。2010年に世界第2位の経済大国になったとしても、依然として発展途上国である、と。気候変動の問題などで、あまり大きな責任は果たしたくないと考えている。世界的な問題に責任を負うべき国だと見られたくないし、そうすべきリーダーだと思われたくない。自国の利益に基づいてのみ行動したい、と。実際、私は、G2を「いい考えだ」と言う中国人には、まだ会ったことがない。
――しかし、中国は国際通貨基金(IMF)などでより大きな権限や高い役職を求めています。
エコノミー 彼らは国際社会での責任を果たしたくて大きな権限をほしがっているわけではない。自分のためだ。それに、中国内にもいろんな意見がある。これはこれで、とても興味深い変化だと思う。
たとえば、中国の金融関係者は、中国はすでに大きな役割を果たす準備ができている、と考えている。周小川・中国人民銀行総裁が、米ドルに替わる国際通貨として、IMFの仮想通貨のような各国の通貨を混合したものを考えてはどうか、というニュアンスのことを言ったりしている。こうした人々は、米国の力を少し減らすなど、ゲームのルールや仕組みを変えたいと考えている。しかし、多くの人々は中国をゲームのルール作りの先頭に押し出すことにはあまり関心がない。むしろ、そうなることへの心配のほうが多い。
こんなふうに、中国内にあるさまざまな異なる意見が外にも見えてきたということは、おもしろい。一人の官僚に話を聞けば中国の方針がはっきり分かるという時代でもなくなった。本当のところはどうなのか、理解するのがより難しくなっている。 気候変動の問題でさえ、中国はもっと積極的にかかわるべきだ、かかわりたいというリポートが中国政府の一部の人から出ている。これは私が期待していたより早かった。いいことだと思う。でも、これも政府内にいろいろある意見の一つにすぎないかもしれない。
――中国の気候変動への前向きな姿勢は本物でしょうか。
エコノミー 中国は気候変動の問題について、前向きな力になることに関心はある。省エネを進めることで自国のエネルギー安全保障上の利益や国内企業の効率性を促進するとか、新しいグリーンテクノロジーを海外に売れる力をつけさせるとか、自らが優位に立って何かをやりたがってはいると思う。 しかし、同時に中国は経済成長のスピードを遅くするような何か難しいことはしたくない。だから、気候変動についてあれこれ意見を表明することへの心配もある。これまでの中国の環境保護への対処の状況から考えると、気候変動問題で我々が知っておくべきことは、中国はさまざまな前向きな規則や法律を作るだろうが、それを執行する力がないということだ。
――気候変動問題で、米国は中国との協力に熱心との見方もあります。
エコノミー 努力はずっとしてきている。最近では、気候変動でいい協力関係を築くことが、米中関係全体を促進すると考える人たちもでてきた。米中の協力分野では、相対的にやりやすい部分だから、という考え方だ。私は個人的にはそう考えていない。そう簡単にやれる分野ではないと思う。中国がほしいものは米国が与えられるものではない。中国は先進国に対して、GDPの1%を技術基金として拠出して、途上国に技術移転をするように求めている。米国のGDPの1%っていくらだと思う? これはちょっと米国にはやれる準備がない。特に中国にそれを与えるのは難しい。もっと貧しい、発展が遅れた国であれば、技術的なインフラを供与するといった類のこともできるだろうが。
中国はより簡単に、より安く環境技術を得たい。一方、米国は開発に時間をかけて投資してきただけに、知的財産権の保護を求めるし、技術を移転するならきちんと見返りがほしい。それより米政府は、中国政府が気候変動問題をより解決できる能力の構築に力を貸したいと考えている。しかし、それは中国にとってそれほど受け入れたいものではない。
だから、気候変動をめぐる米中の協力は、小さなプロジェクトではうまくいっているものがあるかもしれないが、総合的にみるとそうでもない。ことほどさように、気候変動をめぐる協力についても根本的なミスマッチがある。
――ところで、ブッシュ政権とオバマ政権の対中政策の違いは何ですか。
エコノミー それほどの違いは見受けられない。ブッシュ政権下でポールソン財務長官が始めた米中戦略経済対話は、国務長官のクリントンが加わることで地位が上がった。しかし、それによって米国が何かを得たという段階ではないので、今の時点ではあまり変化はない。ただ、貿易面でいえば、オバマ政権はタイヤや鋼管、映画などの問題でより強い姿勢に出るようにはなっている。それ以外はクリントン政権からずっと一貫している。国務次官補のカート・キャンベルや国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長のジェフ・べーダーといった、クリントン政権時に対中政策を考え多くの交渉をしてきた人が、オバマ政権の中国政策担当者にいる。彼らは中国との交渉で豊富な経験を持っている。
オバマ政権のもっとも重要な部分は、排他的ではない、もっと包括的な外交政策を持つことが必要だと考えていることだ。日本に対する政策も、米国がこうしたいというだけではなくて、日本は何をしたいと考えているかを理解しようとしている。
だから、ブッシュ政権とオバマ政権の最も大きな違いは、新しいゲームのルールを構築するにあたって、他国に対し、よりオープンになったことだと言える。取り組まなければならない新しい課題、たとえば気候変動の問題などについては、中国や日本や欧州連合とも一緒に作業をし、アフリカのことも考える必要がある。誰もが新しいゲームのルールを発展させていくことに参画する必要がある、とオバマ政権は考えていると思う。
――中国は自ら新しいルールを打ちたてようとしていると思いますか。
エコノミー 現在の仕組みを、自らの利益に合致するように作り直したいと思っているようだ。中国は世界経済において非常に大きなプレイヤーで、大きな影響力を持つ。だから組織やシステムを動かすにあたって、大きな発言権を持つようになった。現在ある仕組みの作り直しだけでなく、新しい仕組みも彼らにそぐうように作りたいと考えている。
――米国債の最大保有者であることをテコにして、中国は米国を動かそうとしているという見方があります。
エコノミー 中国人もそうできると信じている。ただ、私は別の視点から考えている。中国が米国債を大量保有していることは、むしろ米国が中国に対して優位に立てる材料になる。米中関係における大きな挑戦の一つは、米国には中国から欲しいものがたくさんあるが、それに比べて中国には米国から欲しいものが少ないことだ。しかし、中国は米国債をたくさん持ってしまったことで、自分たちが投資したものの安全、つまり米ドルの安定にも配慮せざるをえなくなった。米国から欲しいものが一つ、増えたということだ。これは米国にとっては、テコとして使える。ダイナミックな関係の変化だと思う。米国は自らの弱みから、強みを見いだしたとも言える。
(2009年9月16日、米ニューヨークで。聞き手=吉岡桂子 経済グループ兼論説委員)