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米海軍戦争大学で中国海軍の動向を研究するアンドリュー・エリクソン準教授は、たとえ中国が空母を建造しても、使いこなせるようになるまでには数十年かかると指摘。少なくとも当面は米国にとって懸念材料ではないと語る。むしろ注目しているのは、中国が開発を進めていると見られる対艦弾道ミサイル(ASBM)だという。これがもし実戦配備されると、米海軍は西太平洋で行動の自由を失う。
(2009年8月10日、米ロードアイランド州ニューポートで。聞き手・朝日新聞編集委員 加藤洋一)
――中国で空母の建造は始まったのでしょうか。

アンドリュー・エリクソン インターネットにはいろいろ出ているし、いろいろな噂や観測もある。中国でもいろいろなレベルの人がさまざまな発言をしている。しかし、実際のところは分からない。
――2015年に1番艦が完成するという見方もあります。
エリクソン それは妥当な線だと思う。私も論文でその数字を引用した。
――中国はまず比較的小型のヘリ空母から始めるという見方ですか。
エリクソン 難しい質問だが、私は中国はその道を選ぶのではないかと思う。もちろんいきなり固定翼機を搭載した大型空母を作るという可能性もある。いずれにしろ、明確な兆候はない。むしろ、拡大しつつある中国の戦略的利益に目を向けるべきだろう。活発な通商であり、海上輸送に依存する石油供給の拡大だ。研究の結果分かったのは、今後中国がいかに多く、陸上にパイプラインを作ったとしても、海上輸送されるエネルギー源に対する依存度は逆に増えていくということだ。その結果、外洋でより大きな海軍のプレゼンスを持ち、地域の国際安全保障秩序の決定により深く関与しようとすることになる。その良い例が、アデン湾・ソマリア海域に海賊対策で海軍の艦船を派遣したことだ。ただ台湾を中心とした「第一列島線」までの海域で、他国の軍に対する「アクセス阻止」戦略をとっていることとは峻別しなければならない。
――中国の空母保有の背景には、どういう戦略的な思考があるのでしょうか。
エリクソン まず、言えるのは、単一のマスタープランのようなものはないだろうということだ。中国政府の指導層が実際に何を考えているのかを突き止めるのは容易ではない。しかし、中国は今、さまざまな課題に直面している。それに対応するための「対症療法」的な戦略をとっているのではないかと思う。
中国の経済や海外での権益が急速に伸長していることを考えれば、政府指導層が、そういう新たに生まれている「利益」を、きちんとコントロールできているとは思えない。むしろそういう「利益」に、引っ張られる形で政策決定をしているのではないかと思う。特に、空母保有がより大きな意味をもつ、いわゆる「ブルーウォーター・ネービー(外洋型海軍)」を指向する方向に動くことはその例だ。台湾を中心とする第一列島線の内側に関しては、そこを支配することが中国の戦略的利益であるということについて中国国内では合意ができていると思う。しかし、それを超えた海域、すなわち太平洋やインド洋での利益については、合意より議論の方が多いのが現状だと思う。
――では、空母の位置づけは。
エリクソン 強調しておきたいのは、米国にとって中国の空母は近い将来、懸念材料にはならないということだ。そもそも、きちんと運用できるまでには、長い時間がかかる。さらに、空母というのは、適切に運用しなければ、極めて脆弱性が高い。少なくとも台湾海峡危機では全く役に立たないと私は見ている。空母がその能力を発揮するためには、有効に機能するいわゆる「空母打撃グループ」が必要となる。高度な防空システムを備えた随伴艦が必要となる。潜水艦も必要だ。中国が、そうした高い戦闘能力を身につけるまでには、まだ数十年はかかる。したがって、中国空母が提起する懸念というのは米国にとっては、象徴的なものに過ぎない。決して(地域秩序や戦争のやり方を根本からひっくり返すような)いわゆる「ゲームチェンジャー」とはなりえないのだ。
――では、米国にとって何が「ゲームチャンジャー」なのですか。
エリクソン 対艦弾道ミサイル(ASBM)だ。
――なぜですか。
エリクソン 中国海軍のしていることがすべて悪いわけではないから、何が問題なのかについては発言を慎重にする必要がある。事実、水上艦艇の中には(海賊対策や災害救援など)米国が非常に建設的だと考える形で使われている例もある。しかし、ASBMの開発は、機雷や潜水艦と並んで明らかな問題だ。(様々な兵器システムの中で)ミサイルは最高レベルの問題だが、特にASBMが最悪だ。
――それはなぜですか。
エリクソン まず、ミサイルというのは、空から突如現れるので、よほど注意していないと迎撃する時間的余裕がない。もちろん米国はそういう迎撃システムを開発すると思うが、結果として兵器開発競争が起きてしまうかも知れない。米国とロシア(旧ソ連)は、ASBMのような中距離ミサイルの開発をともに抑制している。しかし、もし中国がひとり開発を進めれば、そういう抑制が効かなくなる恐れがある。すでにロシアからはそういう不満が聞かれる。これは非常に大きな不安定要因となる。
――中国はASBMの開発をすでに終え、実戦配備しているのでしょうか。
エリクソン 今、どういう段階にあるかははっきりしないが、実戦配備までにはいっていないだろうと思う。