TOPへ
RSS

中国、海軍大国への胎動 米国と日本の対中戦略

[Part1] 「空母とは国家の威信そのもの。中華民族の歴史的な劣等感を克服する意味で不可欠だ」

倪楽雄 上海政法学院政治学部教授


今年に入って積極的に遠洋進出を進める中国海軍。その真意に世界中の政府やメディアが注目する。中国海軍司令部が開いている内部会議に出席して意見をする専門家がいる。そのうちの一人、軍事戦略家で上海政法学院の倪楽雄教授はソマリア沖での海賊対策に消極的だった軍幹部を説得し、初の艦船派遣を決定させたキーパーソンだ。半年にわたる説得の末、初めて日本メディアの取材に応じてくれた。
(2009年8月3日 中国上海市内で。聞き手・中国総局 峯村健司)


――なぜ、中国海軍にとって空母は必要なのでしょうか。

倪楽雄氏 1956年12月、上海で生まれる。83年廈門大学卒業後、戦争史や国際文事と外交などについて研究。中国海軍のブレーンの一人で、訪問学者として米ハーバード大やコロンビア大などで研究をしている。

倪楽雄 まさに「国家の威信」そのものだからだ。空母がなければ大国ではない。私は90年代から空母の必要性を説いていたが、当時は技術面でも資金面でも不足していた。経済発展と技術革新が進み、一切の障害はなくなった。

――9割以上の中国民が空母保有を支持しているという世論調査があります。
 まさに国民の議論が高まって政府が突き動かされた、と言ってもいい。我が国はこれまで100年以上にわたり列強から侵略を受けてきた。空母保有は中華民族の歴史的な劣等感を克服する意味で不可欠だ。確かに「空母は時代遅れ」という批判があるのは事実だ。しかし、軍事戦略よりも国威発揚の効果の方が大きい。

――一方で、中国が空母を保有することに日本をはじめ周辺国からは懸念の声が上がっています。

 国連常任理事国の中で、空母を持っていないのは中国だけで、大国として当然の権利である。海軍司令部の内部会議でも報告したが、米国や日本と戦うために空母を保有するのではない。核兵器と同じ抑止力を持っており、あくまで海外の経済利益を守るための『防御兵器』として重要だ。中国政府も国民も覇権を求めていない。
 
――中国政府内では最近、軍の防衛範囲は国家利益がある世界各地に及ぶ「利益国境」という概念が議論されています。
 中国の貿易依存率は6割を超え、輸出製品や部品、輸入石油などを運ぶ海上交通路(シーレーン)の防衛が国家の命運を左右するようになった。マラッカ海峡を封鎖されたら経済活動は停止して、多数の失業者が発生する。

世界各地に展開する中国企業やその従業員の保護にも有用だ。アフリカや中南米に進出した中国企業の労働者が殺害される事件が起きているが、こうした地域の近海に空母を派遣するだけで、抑止効果がある。

――中国軍が遠洋重視にシフトしたきっかけは何ですか。

 ソマリア沖での海賊対策に初めて艦船を派遣したことだ。中華民族が誕生した5000年の歴史上、シーレーン保護のために国家が大規模な艦隊を派遣したことはなかったからだ。多くの中国人が遠洋での国家権益というものを初めて意識するようになった歴史的偉業だ。

 

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

世界のどこかで、日本の明日を考える 朝日新聞グローブとは?

Editor’s Note 編集長 新創刊のあいさつ

このページの先頭へ