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「我々はDBJではなくて、EBJ(Emergency Bank of Japan、日本緊急対応銀行)だ」
DBJ内では、今、そんな声が聞こえる。
DBJは、リーマン・ショック後の昨年12月から、政府に協力する形で危機対応融資を開始。その数は今年8月末までで560件で、貸し出し実績額は2兆4000億円にのぼる。支援先には、日本航空(JAL)など大企業が名を連ねる。

ただ、出資にまで踏み込んだのは、今のところエルピーダメモリ1社だけだ。金融システムを担う銀行に比べて、一般企業の場合は公共性が薄い。そこに公的な支援をするには、相当な理由が必要だからだ。
エルピーダ救済に奔走した経産省商務情報政策局長の近藤賢二は、こう考えていた。
「基幹部品のDRAMを外国企業に握られれば、日本が優位に立つ半導体製造装置やDRAM以外の半導体の競争力が落ちる。携帯電話など最終製品の開発にも外国企業の意向が影響しかねない」。近藤は今年1月、首相の麻生太郎に会い、エルピーダの重要性を直接、説明した。

しかし、そうではない、という大手電機の元首脳もいる。「DRAMの性能はどこの会社が作っても大差ない。救う意義は乏しい」
エルピーダの救済劇は、いわゆる「政治主導」ではない。経産省の官僚たちが猛スピードで制度改正を立案し、政治家に根回しをし、銀行への説得まで行った。城山三郎の経済小説「官僚たちの夏」を地でいくような産業政策の復活だった。
韓国も台湾も、苦境に陥った半導体業界には政府をあげて支援するという「国際情勢」が、官僚たちを後押しした。米国政府も公的資金を使ってGM再建にあたった。世界的な金融危機が、官僚たちの舞台を作り出した。
今年3月30日。台湾当局の肝いりで、台湾内のDRAMメーカー6社の再編のために作られた「台湾メモリー(TMC)」のトップ宣明智が、日本の経産省を訪ねた。
宣は台湾の半導体業界の重鎮。台湾当局から公的資金を得る計画のTMCは、海外メーカーと資本関係を結び、先端技術をライセンス料なしで共有しようと狙っていた。
宣は、商務情報政策局審議官の木村雅昭に会いこう尋ねた。「エルピーダの坂本幸雄社長は長年の友人だ。だが贔屓(ひい・き)はしない。日本政府はエルピーダにアクションを起こすのかどうか」
見過ごして潰(つぶ)すのか、公的に支えるのかとの問いだった。エルピーダでなければ、米マイクロン・テクノロジーと組む。その意思表示でもあった。
木村は口ごもった。DBJを活用して民間企業に出資する枠組みは国会で審議中。支援をまだ明言できなかった。木村が絞り出した言葉は「エルピーダは、この40年の日本の産業界と政府の努力の結晶。ジャパン・メモリー・カンパニーと言ってもいい」。
政府と業界が育ててきた産業を簡単に見捨てるわけがない、という意図は伝えた。

4月14日。今度は木村がエルピーダ社長の坂本らとともに、台北の経済部(経済産業省)を訪ねる。そこには、大臣にあたる部長以下、官僚たちとともに宣もいた。日台の当局と民間を交えた異例の直接協議の場となった。
「エルピーダ株を30%まで買える」と言う台湾側に、木村は「互いに乗っ取られるのではと疑念を持てば提携はうまくいかない」と押し返した。
木村は6月にも訪台し、交渉は続く。坂本も宣と協議を重ね、台湾側の出資は筆頭株主よりも少ない9.5%とすることで何とか妥結した。
DBJは最終的に8月31日、エルピーダに出資した。その理由について、政府が全面的に乗り出したことに加え、DBJ自身の半導体の需要予測、民間金融機関が協力したことなどを挙げる。
ただ、あるDBJの元役員は、「政府が損失補填(ほ・てん)するという仕組みに甘えて、DBJの審査が甘くなるのではないか」と危惧(き・ぐ)する。審査力の低下が起きれば、微々たる利ざやなどすぐに吹き飛んでしまう、と指摘する。
政府は、エルピーダ以外のケースでも、DBJの出資を要請するのだろうか。
経営危機が騒がれているJALのほか、電機大手のパイオニアなどの名前が取り沙汰(ざ・た)されている。
経産省のある幹部は、「エルピーダという会社を助けたのではない。唯一残ったDRAM産業の火を日本から消してはいけないという思いだ」としたうえで、経営危機が騒がれるJALの支援には否定的だ。「全日空など代替する会社があるし、経営内容が悪化し過ぎ、多少の政府の支援では再建が難しい」という。

DBJは、JALに3000億円近くも貸しこみ、事実上のメーンバンクといえる。DBJは、JALの経営改革を条件に、民間金融機関とともに、年内に1000億円規模の追加融資を求められている。国土交通省の意向にもよるが、このまま再建への確たる見通しなく支援し続けることにはDBJ内部でも強い警戒感が出ている。
不振企業の延命に政府が手を貸すことで、自力で努力するライバル企業の成長を阻害してしまうという問題は、以前から指摘されていた。
そもそも、どの企業が日本にとって必要で、どの企業は要らないと政府の一存で決められるのか、との批判は尽きない。
政府は出資の前提として、(1)金融秩序の混乱で急に経営が悪化(2)自己資本の急激な低下(3)国内従業員5000人以上(4)出資があれば他の民間金融機関の融資が得られる――の4条件を挙げ、「重要な企業」を定義づける。
だが、政府内にすら「大企業偏重だし、基準が曖昧(あい・まい)すぎる」(総務省幹部)などの異論がある。
民間銀行もDBJには複雑な思いを抱く。政府系を看板にするDBJには、長年にわたる不信があった。電力、運輸、通信業界などの企業は、融資期間が長めの資金を比較的低利で借りられるDBJに頼りがちで、民間からの借り入れを抑えたためだ。
ただ、DBJが長い歴史の中で、姿勢が変わってきた、という証言もある。旧日本興業銀行は、長期資金の融資をめぐってDBJと闘いを繰り広げたが、興銀OBは今、「DBJは民間と協調して融資しようという姿勢になってきた」という。金融危機で自己資本に余力がなくなった民間銀行が企業への貸し出しを渋ったり、回収したりする中で、DBJが穴埋めをしてきたのも事実だ。
「DBJに感謝する気持ちはある」。ある大手銀行の幹部は言う。「ただし政府系金融機関に戻るのか、完全民営化するのか、どちらかはっきりして欲しい。暗黙の政府保証というメリットがあり、銀行法などの規制もないような『いいとこ取り』の状態が続くことが一番問題だ」
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8月末、自民党は歴史的な惨敗を喫した。
自民党の議論を引っ張ってきた柳沢伯夫も、落選した。ただ、DBJの完全民営化をあきらめきれない様子である。「経済が上向けば、世論もまた変わる。完全民営化の可能性は10%ぐらいある」
16日、鳩山政権が発足。民主党の金融通で、自民党との修正協議の中心だった中川正春は言う。「完全民営化の可能性? 民主党政権になったから、もう0%だよ」
(文中敬称略)