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「もむ」という仕事 世界の大人も子どもも

[Part1] 「うさぎのぴょんぴょん」「クマさん歩き」
子どもが、子どもをさすっていくと、変化が見えてきた


色紙や絵や布で飾り付けられた教室に、ほのかなアロマオイルのにおいが漂う。3~4歳の子どもたち16人が2人一組になり、あぐらをかいて床にちょこんと座った。
マッサージの時間だ。
オーストラリア・メルボルンにある「キルビントン・ガールズ・グラマー・スクール」。女子だけの私立幼稚園・小学校だ。
教師のアナ・フィールディング(48)の合図で、子どもたちが静かに深呼吸をする。

小学1年生のクラスのマッサージの授業。ほおづえをつきながら、うとうとする子も=宮地ゆう撮影

「じゃあ許可をもらって」
後ろの子が「マッサージしてもいいですか?」と聞くと、前の子は「はい、いいです」と答えた。
体に触れる前に必ず相手の意思を確かめ、嫌な子にはやらない。
「じゃあ、まずハートから。おっきなハート、中くらいのハート、ちいちゃなハート……」

子どもたちはゆっくりと前の子の背中にハートを描くように、さすっていく。マッサージしてもらう子は目を閉じたり、ほおづえをついたり。静かに体を任せている。
ほかにも色々な手の動きがある。「クマさん歩き」「チョウチョの動き」。10分くらいして終わると、「ありがとう」。そして交代する。
児童同士がマッサージし合う「マッサージ・イン・スクールズ・プログラム(MISP)」は00年、スウェーデンとカナダの女性2人が始めた。託児所や障害のある子どもたちの授業で試験的に始め、幼稚園や小学校に広げた。身体的な効果だけでなく、友人を思いやり、意思を通じ合うようになる効果もあるという。
MISPは欧州や南米、日本など約20カ国に支部が作られるまでになった。中でもオーストラリアでは、ヨーロッパからトレーナーを招いて各地で講習を開くなど活動が広がっているという。

フィールディングは2年前、MISPに出会った。「これだ、と思ったんです。以前、ベビーマッサージを習って、肌を触れ合う大切さを感じていましたから」。インストラクターになるために4回の講習を受けた。費用は約4万5000円。
当初は「なぜ子どもたちにマッサージが必要なのか」と眉をひそめられることも多かったが、試験的に幼稚園のクラスで始めると、変化が見え始めた。前日よく寝ていない子や、興奮している子たちも、落ち着くようになったという。
子どもといえども、疲れ知らずではない。「幼稚園児でも、バレエやほかの習い事で忙しい。リラックスするこの時間が役立っている」とフィールディングは話す。

幼稚園児のシャーロット(4)は「おうちで1歳の妹やお父さん、お母さんに肩をもんであげたり、うさぎのぴょんぴょん(手のひらのツボを押さえる)をやってあげたりするのが好き」という。
授業は小学校にも広がった。クラスが騒がしくなったりした時も、マッサージの時間を作ると、みな静かに落ち着いてくるのだという。生徒たちは「うとうとして気持ちよくなる」「リラックスできる」と言う。校長のジョン・チャールトンも「ここは進学校だが、心や体を育てることもとても重要。マッサージは子どもの全体的な発育に役立つプログラムの一つかもしれない」と話す。
オーストラリアでは、ネットいじめなどが社会問題化している。 フィールディングは「相手を尊重する気持ちを幼いうちに育てれば、生徒たちは一生覚えているはず」と信じている。

(文中敬称略)

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