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「もむ」という仕事 では、日本はどうか

[Part2] 「プチ癒やし」ビジネスは曲がり角。
過当競争で、成長急ブレーキ

相場は、10分で1000円。そんな短時間、低料金で体の一部をもむ「クイックマッサージ」や、足の裏などを重点的に強く押す「リフレクソロジー」など、手軽さで人気の「プチ癒やし」ビジネスがいま、曲がり角を迎えている。
日本で業界が急成長したのは、96~06年ごろ。とくに今世紀に入って、めざましく伸びた。クイックマッサージの先駆けといわれる「てもみん」は、96年に東京駅前に店を構えたのを皮切りに、現在は全国約170店まで拡大。リフレクソロジーを日本に広めたRAJA(東京)は97年に東京・南青山に初出店。「クイーンズウェイ」の名で全国に店を出し、05年には100店に達した。

フジ医療器とマッサージチェアの覇を競うパナソニック。その歴史は、このマッサージ器から始まった。1938年製。パナソニック電工本社に1台だけ残っている=宮地ゆう撮影

「台湾式」「ハワイ式」など、うたわれる様式も多彩になった。RAJAの「英国式」は、英国とは無関係だ。社長の藤田桂子(63)が「日本人は英国好きでイメージが良いから」とつけたネーミングだった。
監督官庁や業界団体がなく、店舗数や売上高の統計もない。民間調査会社の推計によると、市場規模はすでに年間2000億円を超えた。
しかしここ数年、市場規模の伸びは微増か頭打ちといわれている。
「クイックマッサージをやる店は全国に5万~6万はある。明らかに飽和状態です」
船井総合研究所コンサルタント、榎戸淳一(29)はそう指摘する。個人経営のサロンから全国展開しているチェーン店まで、駅前や住宅街のあちこちに進出。過当競争が叫ばれるコンビニエンスストアの4万店をすでに上回っているのは確実だという。

なぜ、ここまで増殖したのか。
「ほかの産業に比べ、参入時のハードルが圧倒的に低いから」と榎戸は明解だ。客の体をもむスタッフさえ確保できれば、数坪の広さの部屋と、椅子があれば始められる。原材料や商品の仕入れはなく、高価な装置や工作機械も必要ない。
開店のための投資額は、安ければ数百万円。高くても2000万~3000万円ですむ。平均で2000万円が必要とされるエステサロンや、4000万~5000万円からと言われるフィットネスクラブに比べ、安さが際だつ。鉄道や化粧品など、他分野からも次々と参入してきた。
店は、人通りの多いにぎやかな場所に出す。時間と料金は、入り口に明示。ガラス張りの開放的な店づくりで、おしゃれな制服を着たスタッフがきびきび働く姿が、外から見える。
そこに、「マッサージはお年寄りのもの」と敬遠してきた若いビジネスパーソンたちが、飛びついた。
オフィスに急速に普及したパソコンのせいで、肩や腰にこりも抱えていた。
帰宅途中や仕事の合間に、ちょっと立ち寄ってリフレッシュしたい。そんな思いをかなえるのに、うってつけだった。
だが、競争激化とともに明らかになってきたのが、ライバルとの差別化の難しさだ。
「ラフィネ」を中心に全国約350店を抱え、業界最大手と見られるボディワーク(東京)。広報担当の木村泰人(41)は、数年前にライバル社の店を「偵察」した経験が忘れられない。
椅子に座るなり、体をもむスタッフが耳もとで「私は本日の担当の……」と自己紹介を始めたのだ。
「うちのマニュアルと全く同じ。こんなに露骨にまねされるとは」
野村総合研究所上級コンサルタントの村上勝利(40)は「簡潔なサービスが支持されて成長してきた業界。差別化のためにサービスを加えると、魅力が薄れて顧客が離れる可能性がある」と説明する。

価格競争の波も押し寄せている。10分で1000円が相場なのに、20分1800円、30分2500円と、長時間で割引する店が出てきた。10分で1400円前後が相場だった「タイ式」も、1000円レベルまで下がってきているという。
クイックマッサージなどをメニューに加える接骨院も目立ってきた。ケガの治療と偽って健康保険を請求する不正も横行。この場合、500円程度まで安くなることが多い。
大手は、スタッフの採用難にも直面している。契約社員やアルバイトといった不安定な身分も多く、就職先として敬遠され始めているのだ。
店の売上高のうちスタッフに支払われるのは4~5割といわれる。2000人のスタッフ全員と完全歩合制の契約を結ぶボディワークの木村は「10分1000円以下にすると、スタッフの生活は成り立たなくなる」と懸念する。
成長を支えたビジネスモデルはもはや通用しなくなった。ボディワークも09年3月期の経常利益は前期比34%減の9.4億円で、初の減益になった。大手は不採算店の整理を進め、回数券などを使って固定客の囲い込みに乗り出している。
RAJAの藤田も「いまのやり方では、うちはこれ以上大きくなれない。むやみに広げても、スタッフの技術レベルが落ちる。あと2年は攻めよりも守りを固め、会社の文化を築く」。化粧品販売やエステサロン出店など、事業の多角化を進める。
村上は「不況のなかで、どれだけ顧客をつなぎとめていられるか。生きていくうえで絶対に必要なものでもないから、家計の収入が減ると削られやすい。時代のあだ花として消えるか、日本の文化として定着するか。いまが問われている局面だと思う」と話している。(内藤尚志)

(文中敬称略)

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