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[Webオリジナル]製薬の未来を語る

[第7回] 「ワクチン製造、途上国に技術移転を」

ティド・フォン・シェーン・アンゲラー 国境なき医師団必須医薬品キャンペーンディレクター


 

新型インフルエンザの感染拡大に備えるうえで、途上国への抗インフルエンザ薬やワクチンの供給態勢は、どこまで整っているのか。課題はなにか。国境なき医師団の必須医薬品キャンペーンのディレクター、ティド・フォン・シェーン・アンゲラーさんに聞いた。
(7月8日、スイス・ジュネーブで、聞き手・田中郁也)

 

Tid von Schoen-Angerer Director, Campaign for Access to Essential Medicines

―― 新型インフルエンザの流行は、途上国にも広がっています。医薬品・ワクチンの供給はスムーズに進んでいくでしょうか。

シェーン・アンゲラー まず、薬について言うと、ジェネリック(後発医薬品)の製造ができるかどうかが、きわめて重要です。競争があって初めて、薬の値段が十分に安くなるからです。その意味で、インドは、ジェネリックの製造拠点として、大きな役割を果たしてきました。抗インフルエンザ薬のオセルタミビル(「タミフル」の有効成分名)についても、インドでは特許問題はありません。

新型インフルエンザ用のワクチンには、二つの課題があります。ひとつは、どうやって分配、供給していくかということ。当面、ワクチンの総量に限りがあるなか、どのくらい途上国に分配されるか、最低どのくらい確保できるか、十分な合意ができていません。

もうひとつは、どのくらいの価格で供給されるかです。ワクチンメーカーは、製造したワクチンの一部を寄付するといっていますが、それで十分かどうか。購入する場合には、公正な値段かどうか、を見極める必要があります。どのくらいのコストがかかったのか、開示すべきだと思います。

結局、買うか買わないかは、各国の判断ということになります。結核やエイズ、マラリアなどについては、それなりの資金援助の仕組みがあります。しかし、インフルエンザ用ワクチンには、こうした仕組みができていません。

 

―― 新型インフルエンザ用ワクチンは先進国間でも、取り合いがありそうです。

シェーン・アンゲラー 途上国にあるワクチン製造施設をつかって、新型インフルエンザ用ワクチンをつくれないかと思います。いま、基本的な小児向けワクチンは、欧州や米国ではつくっていません。インドや中国、キューバが主要製造国です。高品質で値段も安いワクチンをつくる設備があるわけです。どうすればインフルエンザワクチンの製造を手助けできるか。もっと技術移転をしていくことが本当に必要です。

もちろん技術移転をしても、効果がでるまで時間がかかるでしょうが、新型インフルエンザや高病原性の鳥インフルエンザがいまのような状況では、必要な支援策となるでしょう。生産設備、能力はあるんです。しかも製造コストは、先進国よりも安い。過去の経験でいえば、かれらは小さな利幅でも喜んで仕事をします。古いタイプのワクチンの多くは、利益率が小さすぎるからと、大手は撤退しています。しかし、インドの製造業では、それで十分、採算に乗るのです。

 

―― インドでは05年の特許法改定で、先進国と同様、物質特許を認めることになりました。影響はありますか。

シェーン・アンゲラー 今後の懸念をいえば、新しい医薬品が特許で過剰に守られないかということです。まだ特許が切れていない新しい医薬品について、ジェネリックへのリアルな脅威が生じていることです。新しいエイズ薬では、インドでもパテントが取られようとしている。総じていうと、わたしたちはいまエイズ薬の90%をインドから調達しています。これらはいま脅威にさらされようとしている。もしパテントが認められたら、- 新薬のいくつかには、すでに認められていますが -、それが私たちにとって大きな問題です。

ひとつの新しい動きは、パテントプールです。「ユニタイド」という組織ができ、エイズ薬について、特許交渉の一元化を進めています。異なる企業が同じライセンス条件でパテントを出し合う。どのジェネリックメーカーでも、それをみて、建設的で、新しい提案をすることができる。複雑な合意を交わす必要も、よいライセンス条件を得るためにタフな交渉もしなくていい。ユニタイド自身、フランスや英国など、主要国からの資金でまかなわれているため、その国の製薬企業への大きなメッセージともなっています。

 

―― インフルエンザもこのメカニズムに入るべきですか。

シェーン・アンゲラー 技術的な観点からいって、明確なパテントというのは、問題のひとつです。しかし、ノウハウや技術へのアクセスというのも、もうひとつの課題なのです。パテントだけでは十分ではありません。もし技術移転をすれば、途上国の生産を刺激できる。

先進国の生産能力を活用することで、あるいはそれぞれの途上国に新しい工場をたてることで、途上国の製品価格は安くなります。問題は、それだけでは十分には安くはならないということ。十分な生産力と多くのプレッシャーがかかって、初めて、本当に安くなります。いまはまだ製造コストへの透明性がかけています。

将来の懸念という点では、インドが途上国向けでなく、先進国向けのジェネリックに関心を移していくのではないか、という点です。特許の2010年問題を控え、大物薬が、特許切れを迎えます。こうした薬のジェネリックのほうが、利益がとれるため、途上国向けの薬製造への意欲が落ちないか、ちょっと心配です。

 

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