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[Webオリジナル]製薬の未来を語る

[第3回] 「タミフル生産は、来年初めからフル稼働」

デビッド・レディー ロシュ・パンデミック対策チームリーダー


 

新型インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)で、再脚光を浴びたのがインフルエンザ治療薬「タミフル」だ。感染が本格化する冬に備えて、供給態勢はどこまで整ったのか。インドなどで生産されているコピー薬は、どこに供給されるのか。タミフル製造のライセンスをもつロシュで、インフルエンザパンデミック対策チームのリーダーをつとめるデビッド・レディー氏に聞いた
(6月30日、スイス・バーゼルのロシュ本社で。聞き手・田中郁也)

 

デビッド・レディー 製薬大手ロシェのグローバル・インフルエンザ・パンデミック・タスクフォースチームリーダー。フリードリッヒ. ミーシャー研究所を経て、ロシェに入社。エイズ薬部門の国際ビジネスユニット長などを務めたあと、現職。

―― 新型インフルエンザの流行後、タミフルの生産態勢はどこまで整いましたか

デビッド・レディー 世界保健機関(WHO)がフェーズ4(人から人への感染が増加)を宣言した直後から、さっそく増産に入りました。この5月から9月にかけて、11億カプセル(治療用で1億1000万人分)を生産する計画です。現在の生産能力は、最大で年間40億カプセル、治療用の4億人分に相当します。ただし、この能力をすべて使ったことはありません。フル生産の態勢が整うのは今年末。来年初めから、年換算で4億人分を生産できるようにするつもりです。

通常、タミフルの生産は、原材料を投入してから最終製品のカプセルができあがるまで、8~9カ月かかります。一方で、いったんパンデミックが起こったら、需要は瞬時に急増します。ですので生産を垂直立ち上げできるよう、準備しておくことが欠かせません。このため原材料や中間生成物をそれぞれ備蓄し、すべての生産工程が同時に稼動できるようにしています。


―― 4億人分の生産能力で十分ですか

レディー 政府からの国家備蓄用の注文は、過去4年間の累計で2億2000万人分でした。その実績から考えると、現在の生産能力は妥当なものだと思っています。ただ、わたしたちが折りに触れ、関係者に伝えてきたのは、大流行がおこった後に準備をするのでは遅すぎるということです。緊急事態に対応するのは、簡単ではありません。緊急事態が起こる前に備えることが最善策といえるでしょう。ある程度の時間をかけて備蓄を積み増すことは、政府にとっても、わたしたちにとっても、利にかなっています。

 

―― 各国は、どの程度の備蓄をめざしているのですか

レディー 各国政府はそれぞれ異なるアプローチをとっています。たとえば英国は、人口の80%分の備蓄をしようとしています。フランスも人口の80%近くを目指しています。日本は人口の20~25%だったのを引き上げようとしています。一方、米国では、通常の季節性のインフルエンザ治療薬としての利用が増えています。昨年の治療薬としての需要は日本のほぼ2倍ありました。

 

―― 治療用と、備蓄用と、割合はどのくらいですか。

レディー 年によって、かなり違いがあります。2005年から07年までは、大部分が政府備蓄向けでした。08年は、かなりの部分が季節性のインフルエンザの治療薬として使われました。ただ、今年の需要が実際にどこまで増えるかは、北半球の冬シーズンがくるまで待たねばなりません。

 

―― 途上国向けの供給態勢は整っているのですか

レディー (鳥インフルエンザのヒトへの感染が相次いだ)04年の終わりから05年の初めにかけてWHOにタミフルを寄付しました。これを手始めにして、WHOと協議しながら、備蓄態勢を整えてきています。この備蓄分として、欧州に150万人分、米国に150万人分を保管してあります。新型インフルエンザの感染がメキシコで始まったときには、WHOからの要請をうけて、このなかから、最貧国71カ国とメキシコに、タミフルを移送しました。

 

―― 先進国向けとは異なる供給ルートを設けているわけですね

レディー もうひとつ、ルートがあります。中国とインドです。中国では、現地の製薬会社2社に、タミフル製造のライセンスを認めました。インドではヘテロ社に認めています。とくにヘテロ社は、インドだけでなく、ロシュが特許を取っていない途上国でも製品を販売することができます。ただし、こうした中国・インドでのライセンス生産は、ロシュが構築した4億人分の生産ネットワークの一部ではありません。私たちは製品の品質管理をしておらず、ライセンス先の企業がすべての責任を負っています。

 

―― へテロ社のカプセルは赤と白でした。これもタミフルですか

レディー それは「タミフル」ではありません。コピー薬としてのオセルタミビル(タミフルの有効成分名)です。私たちはオセルタミビルの製造許可は与えましたが、その製品を「タミフル」の名称を使うことは認めていません。これは非常に重要な点です。「タミフル」と呼べるは、ロシュの管理下で、品質保証をした製品だけです。

 

―― インドでヘテロ社を選んだのは、どうしてですか

レディー ヘテロ社に生産する能力があり、ライセンス取得に関心を示したからです。ライセンス料をもらっていますが、ビジネスとしてというより、象徴的な意味合いで、といった金額です。タミフルのような薬の場合、利益と投資効率、そして社会への責任のバランスを考えなければいけません。ちょうど方程式を解くような感じです。かつて、エイズ薬の担当をしていたとき、アフリカへの供給を増やすために、いろいろな手法が生まれました。タミフルの場合も、まるっきり同じとはいえないまでも、エイズ薬の供給と同様の考えが必要です。

 

―― これからの課題は、なんですか

レディー より有効な処方を考えるために、臨床的な研究をもっと積み重ねていく必要があります。新型インフルエンザに関する知見を高めていくこと、そして、高病原性の鳥インフルエンザの流行に備えて、鳥インフル治療のための最良の使用法を研究していくことが欠かせません。妊婦や1歳未満の幼児への処方なども、詳しく調べていく必要があります。

 

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