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製薬オセロゲーム 「世界の製薬工場」インドが揺り動かす勢力図

[Part2] 先進国「メタボ」市場に虎視眈々

ジェネリックで大攻勢へ

車は左右に田畑を見ながら、まっすぐ延びる道をひたすら走り続けた。時々、牛の行列を追い越す。
インド・パンジャブ州の州都チャンディガルから90分。インドの製薬最大手、ランバクシー・ラボラトリーズのトアンサ工場にたどり着いた。

40度を超える猛暑の中、工場内を移動するのにも車に乗る。

ランバクシーのトアンサ工場。猛暑のなか、工場内の移動も車だった=浅井文和撮影

この工場は抗生物質などの原薬を作っている。原薬とはカプセルや錠剤に加工される前の純粋な有効成分。錠剤1個に含まれる原薬はごく微量だが、薬が「効く」のは、この部分があるからだ。

真っ先に案内されたのが「アトルバスタチン」の原薬を作るプラントだった。悪玉コレステロールの値を下げて動脈硬化を防ぐ働きがある。

世界最大手の製薬会社、米ファイザーが「リピトール」の商品名で販売し、売上高が年1兆3000億円と世界で最も売れている薬だ。日本のメタボ健診(特定健診)の検査項目にも悪玉・善玉コレステロール値が入っており、よく使われる薬だ。

特許で守られているので他社が勝手に製造できないというのが先進国の常識(memo01 Step15参照)。その薬の製造現場を堂々と見せてくれたことに驚いた。

特許切れ前に製造

「アトルバスタチンの特許切れは2011年ですよね」と戸惑う記者(浅井)に、担当者は余裕の表情で「それは米国内での特許の話。今でも、インドでは販売できる。11年以降、米国でジェネリック(後発医薬品、「2010年問題」メモ参照)を販売する準備でもあるんです」と説明した。

ランバクシー社長のアツル・ソプティさん=浅井文和撮影   

実は新薬は複数の特許に守られ、いつからジェネリックを販売できるのかの解釈は一筋縄ではいかない。ランバクシーは米ファイザーと訴訟で争ってきたが、昨年、ランバクシーの販売開始を11年からとする和解が成立。特許切れ直後の米国市場を虎視眈々(こしたんたん)と狙う(memo01 Step17)。

工場の中に入ると、ステンレスやガラス製の巨大なタンクが22個並ぶ。最大のタンクには液体が16kl入る。一升瓶約9000本分。

液体がぐるぐるとかき混ぜられている。工程はすべてコンピューターで管理され、液体がタンクを移っていくたびに反応が進み、薬が完成する。

工場は、24時間365日稼働だ。今は年5tに満たない生産量だが、フル稼働すれば何倍も作る能力がある。日本では通常、患者はアトルバスタチンを10mg含む錠剤を1日1回のむ。例えば年10tあれば、コレステロールを下げる薬を飲んでいる270万人の患者に行き渡る計算だ。

アトルバスタチンの製造プラントはこの工場にある計14個のプラントの一つに過ぎない。他に、抗生物質を専門に作るプラントなどが、東京ドーム7個分の敷地にずらりと並ぶ。インドから世界に薬を供給する一大拠点だ。

デリー近郊にあるユニケム社の製薬工場。生産ラインで箱詰めされた薬は世界全方位に輸出されている。販売国の会社名で売られることもあり、誰もインド製とは気づかない=浅井文和撮影

別の日、デリー近郊にある中堅製薬会社、ユニケム・ラボラトリーズの工場を訪ねた。

この工場は降圧薬、鎮痛薬などさまざまな薬の原薬を他社から仕入れ、錠剤やカプセルなどに仕上げて海外に輸出する。

白い作業服に身を固めた人々が忙しく働く生産ラインで、箱詰めされていたのはネパールに輸出する寄生虫駆除薬だった。同国政府が買い上げて無料で配るという。隣の生産ラインではロシア語で薬の名前が書かれた外箱がベルトコンベヤーで運ばれていた。

ほかの外箱も見せてもらう。英国や南アフリカの製薬会社の名前が印刷されている。

出荷前の倉庫に入った。段ボール箱に張られている荷札を見ると、あて先はスリランカ、ベトナム、フィリピン、ロシア、ウクライナ、米国。世界中に出荷されている。

 

 

 

原薬を含むインドの医薬品輸出額は右肩上がりだ(グラフ参照)。07年度は約3000億ルピー(約6000億円)で、この5年間で3倍になった。08年度は4000億ルピー(約8000億円)近くになるという。

輸出先は米国が19%で最大だが、ほかにも欧州、アフリカ、アジアと幅広い。日本は1%ほど。インドがつくる安価なジェネリックは、先進国にも途上国にも魅力的だ。

成長はどこまで続くのか。

デリー近郊の本社でランバクシーの社長、アツル・ソプティに会った。「2010年前後に相次ぐ欧米製薬大手の特許切れはインド企業にとっては大きな好機。今後5年間、米国は前途有望な市場だ。アフリカ市場にも将来性がある」と自信を深める。

欧米の製薬大手のコピー薬で腕を磨いてきたインドだが、全く新しい薬の開発も始めている。

ランバクシーは新しいマラリア治療薬を開発中だ。現在、治験の最終段階であるフェーズⅢ(memo01 Step10)に入っている。この治験が成功すれば、インド生まれで初めて、世界に通用する画期的新薬になるはずだ。

(文中敬称略)

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