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今年3月中旬。トルコのイスタンブールでは、「世界水フォーラム」が開かれていた。
各国から企業関係者やNGO、政府首脳クラスまで集まる大イベントだ。参加者は3万人にのぼった。
日本から駆けつけた元首相の森喜朗は、イベントの一つ「水エキスポ」の日本パビリオンをみて、驚いた。
環境、国土交通、農林水産の各省がそれぞれ単独でブースを出していたからだ。
「他国は政府一丸となって取り組んでいるのに」
水にからむ役所は多い。雨が降れば気象庁、その水が山に入れば林野庁、農地に流れれば農水省、下水道は国交省、上水道は厚生労働省、水質保全は環境省……。水にかかわる法律も50を超える。
日本の水政策は、「オーケストラにたとえれば、指揮者のいない状態」(吉村和就グローバルウォータ・ジャパン代表)だ。

元官房長官の中川秀直は、水問題の「縦割り解消」に、強い関心を持ってきた。
昨年、超党派の議員でグループを作り、議員立法での「水循環基本法」の制定に動き始めている。
水の国家戦略の策定に熱心なのは、前財務相の中川昭一だ。中川が呼びかける形で、省庁や学界、産業界、自治体、NGOなどの水の専門家が集まり、昨年夏、「チーム水・日本」という緩やかな組織が発足した。
「日本の企業や自治体の高い技術を、国際的な競争の中でどう活用するか考えている」と中川昭一はいう。
国際河川がない日本は、水に関する紛争とは無縁。水道普及率や省エネ技術も世界トップクラス。
そうした強みを生かせば、国ぐるみで取り組んでいる韓国やシンガポール、巨大な力をもつ水メジャーに対抗できるのでは、という思惑がある。
こうした動きに「カネ」も付き始めた。「海外への水ビジネスの展開支援」といった趣旨で、経済産業省は今年度予算に12億円を計上。さらに第1次補正予算に48億円を盛り込んだ。
呼応するように民間企業も動き出している。
海外の水ビジネスに意欲をもつ企業は昨年11月、「海外水循環システム協議会」を発足させた。38社が加盟する。
理事長を務める日立製作所特別顧問の桑原洋は「みんなが思うほど楽観視できる市場ではなくなってきているのでは」とみる。
金融危機による景気後退が影を落としていることや、世界的に水ビジネスへの関心が高まり、競争が激化していることが背景にある。今年3月には、大手電機のIBMまでもが水ビジネスへの参入を発表した。
日本企業の間には、政府の途上国援助(ODA)の活用に対する期待がある。
水と衛生分野の日本のODAは、02年から06年までで計55億ドル。二国間援助の約4割を占め、世界一の額だ。
ただ、その大半は円借款で、日本企業が事業を受注するとは限らず、受注のシェアは2割以下にとどまっている模様だ。
外務省幹部は「円借款は原則、日本企業に限って受注させる『タイド(ひもつき)』にはできないが、企業がもっと前向きに努力してくれれば、日本企業の受注シェアは伸びるはず」ともいう。日本がODAを足がかりに海外に進出すれば、国益にもかなうとの見方だ。
ただ、ビジネスと国際貢献との間には微妙な問題も横たわる。水は人間の命に必要不可欠で、そこに営利目的がからむことで、関係国の反発を招きかねないからだ。
「政府一丸」の必要性を説く森喜朗も、危うさは感じている。
「商売のために政治がイニシアチブをとりすぎると、20世紀に石油を巡って戦争が起きたように、今後、水を奪い合う戦争が起こりうる」(梶原みずほ)
[文中敬称略]