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「水」が、足りない

[Part1] シンガポールの「水の女王」

            政府と二人三脚で業績伸ばす

シンガポールに、「水の女王(Water Queen)」と呼ばれる女性がいる。そう聞いて、どうしても会いたくなった。

ハイフラックスのオリビア・ラムCEOはマレーシアの貧しい村の孤児だった。毎日、井戸水をくみにいった子どものころの体験が、同社を創業する原動力になった=梶原みずほ撮影

オリビア・ラム。急成長ぶりが世界的な注目を集めている水処理会社「ハイフラックス」の最高経営責任者(CEO)である。

8階建て本社ビルの最上階。ビリヤードやバーカウンターがあるラウンジで、少し緊張しながら待つ。
オリビアは、グレーのパンツスーツ姿で現れた。化粧っ気のない顔をほころばせると、とても48歳にはみえない若々しさだ。

記者(梶原みずほ)が「どうして水ビジネスに?」とたずねると、オリビアは、生い立ちを語り出した。
「私はマレーシアの孤児だったの」

電気も上下水道もない貧しい村に育った。60歳をすぎた養母が、オリビアを含めて5人の孤児を女手一つで育ててくれた。
「バケツを抱えて数百メートル先の井戸に行って冷たい水をくむのが、私の毎日の仕事だった」
小さい女の子には、重いバケツ。水の大切さは身にしみた。

パパイアなどを売って小遣いを稼ぎ、1人でシンガポールへ渡ったのが15歳のとき。シンガポール国立大学を卒業し、化学者として医薬品大手企業で働いた。

水の完全自給はシンガポールの国家目標。海水をダムでせき止めて淡水化するための施設マリーナ・バラージ(Marina Barrage)には、「持続可能なシンガポール」と名付けられたギャラリーが併設され、家族連れでにぎわっていた=梶原撮影

「きれいな水をつくりたい。飲み水があれば、貧しい人たちは救われるし、必ず大きなビジネスになる」

そう信じて28歳で起業した。社員3人で水の濾過装置の販売から始めた会社は、中国を中心に海外にも進出し、創業20年で社員1900人、08年の売上高は過去最高の3.8億米ドルにまで成長した。

業務は、水処理膜の製造から水処理プラントの設計や建設、運営まで幅広い。シンガポール政府から下水再生処理プラントの建設や運営を受注し、シンガポール初の海水の淡水化事業にも乗り出している。
社員の平均年齢は38歳。約100人の研究者たちが自らセールスに出向いて細かなニーズを把握するため、スピードのある研究開発や経営判断につながっている。

シンガポールの「四つの水源戦略」の一つは雨水の貯水だ。貯水池はカヤックやヨットなどのレジャーに利用されている=梶原撮影

昨年には、アルジェリアで、海水を飲料水などに変える世界最大の海水淡水化施設を受注した。

貧しい孤児だったオリビアは、今やアジア有数の富豪となった。保有資産は2億米ドルを超えるという。

インタビューの後、「記念に」と彼女から手渡されたのは、干支にちなんだ高さ10センチ、社名が入った金色の牛の置物。反り返って空を見上げている。

「本物の牛は、ここまで首を上げることはできないけど、そんなことはかまわない。これは、私たちの会社の『いま』を表現しているの」

ハイフラックス社や、シンガポール政府の「水戦略」を探ろうと、日本政府も動き出した。

[文中敬称略]

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