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[インタビュー]特許が変わる 特許で変わる

[第5回] 「世界各国との協調を探る姿勢が大事だ」

ランダル・レーダー 米連邦巡回控訴裁判所判事

 

産業競争力の復活を支えてきた「プロパテント(特許重視)政策」を見直す動きが米国で進行している。近年は特許権者に不利となる判決も相次ぐなかで、米国の知的財産保護の流れは変わるのか。特許法改正は必要なのか。米連邦巡回控訴裁判所(CAFC)のランダル・レーダー判事に聞いた。

(4月3日、米ワシントンのCAFCで。聞き手・都留悦史)


 

――行き過ぎた特許重視政策に歯止めをかけるような判決が相次いでいますね。そんな中で、米国の特許法を改正する意味をどう見ていますか。

ランダル・レーダー 1949年生まれ。米上院の司法小委員会座長や米下院のカウンセラーなどを経て、90年にCAFCの裁判官に着任した。大学教授として、米国やドイツ、日本などの大学で特許法制度について講義を受け持った経験もある。

レーダー 私は大学の特任教授も務めており、これはあくまでも学者という立場からの視点からお話したい。裁判所が特許法が抱える多くの問題について解決してきた、と米国の議会も認識している。
たとえばKSR事件(註1)で、米最高裁は技術の非自明性(特許として保護に値すると認められるために必要な、簡単には発明できるような技術ではないという性質。進歩性)の認定基準を高める判断を示した。私が所属する連邦巡回控訴裁判所(CAFC)でも特許の「故意の侵害」に制限をかけるような判決を出した。また最近では、審理を(特許権者に有利とされるような)ある裁判所から別の裁判所に移送するよう命じる事例も増えている。裁判所の法解釈ですでに多くの変更が行われており、この種の領域では法改正はあまり重要ではなくなっている。
一方で、米議会として改革すべき重要な論点がある。今回の特許法改正案には、先に発明した人に特許を与える「先発明主義」を、その他各国が採用している「先願主義(先に出願した人に特許を与える)」へ移行させることも含まれている。世界各国との協調を探る姿勢が大事だろう。

(註1)KSR事件 米国の自動車部品メーカー、テレフレックス社が、「カナダの同業者KSRが自動車のアクセルに関する特許を侵害している」と訴えた特許訴訟。米最高裁は07年4月、特許侵害を認めたCAFCの判断を覆した。

 

――最高裁とCAFCで法解釈に違いはあるのでしょうか。

レーダー 最高裁の判断とCAFCの判断が正反対だとは思わない。KSR事件でも最高裁はCAFCの方法論を採用した。最高裁はCAFCに対してもっと柔軟になれ、と促したのだ。判決の影響を受けたのは特許を判断する審査官の方だろう。彼らは特許の進歩性についての判断でこれまで以上に厳しく判断しなければならなくなった。KSR事件をきっかけに、法改正を議論するということにはならない。KSR事件が投げかけたのは、進歩性のとらえ方や、それが特許に値するようなものなのかを判断する方法について一石を投じたということなのだろう。ただし、KSR事件でCAFCは大きなミスを犯したのも事実だ。CAFCによるKSR判決は数人の判事によって裁かれ、その結果として判断を誤った。しかし最高裁はCAFCがいつも採用しているような判断を当てはめたに過ぎない。KSR事件でCAFCの強みと弱みが浮き彫りになったとも言える。

 

――イーベイ事件(註2)でも最高裁とCAFCでは法解釈が異なりました。

レーダー 財産権に対しては、いつでも所有者に対して侵害者を排除する資格が与えられている。それが財産権法の基本だ。実際、財産権とは排他権だと言ってもいい。したがって最高裁だって特許は財産だと認識している。しかし、侵害者を立ち退かせるなら、もっと追加的な証拠が必要だと判断したわけだ。法解釈が異なったという点では正しい指摘であり、将来的にCAFCは、たとえ最高裁がCAFCの判断の中身を完全に理解していないとしても最高裁の法解釈を適用していかねばならないだろう。CAFCでも今後は財産権について侵害者を排除する権利を主張する前に追加的な証拠を提示する必要性について慎重に判断していくことになる。

イーベイ事件(註2) インターネットオークション大手のイーベイが使っていたホームページ上のクリック機能が、米ソフトウェア開発会社マークエクスチェンジの特許を侵害しているとして争われた訴訟。マークエクスチェンジは賠償請求とともに製品差し止めを求めたが、米最高裁は06年5月、CAFCが下した製品差し止め命令については破棄し、審理を下級審に差し戻した。特許権者が侵害を立証すれば、ほぼ自動的に得られた製品差し止めは、「回復不能の損害を被った」などの証明が必要となった。

 

――「特許トロール(妖怪)」と言われる問題についてどういう認識を持っていますか。

レーダー トロール問題については私も関心がある。しかし、特許トロールを正確に定義できる人はまれだ。多くの人はトロールを自ら製品を作らない会社とか、ごく小さな構成部分の特許を持って侵害訴訟を仕掛ける会社だとか言うが、これらは正しい定義とは言えない。こうした定義をしてしまうと、重要な発明家や技術革新に重要な役割を果たしている会社を市場から排除してしまうことになりかねない。私が考えるトロールの適切な定義は「その会社が大きかろうが小さかろうが、価値がほとんどないような特許で巨額の賠償金を得ようとする人たち」を指す。

 

――NPEは特許トロールとは違うのでしょうか。

レーダー NPEを問題にするなら、世界中すべての会社がトロールになってしまう。あらゆる会社は少なからず、自社で製品開発に利用しない特許を抱えているのだから。そうした間違った解釈の下では、技術革新を創造する人たちがトロールになってしまう。正しい定義というのは、あくまでも価値のない特許(技術)で価値を得ようとする人たちのことだ。

 

――そうした意味では特許の価値評価が重要です。

レーダー その通りだ。それは裁判所のもっとも重要な役割の一つだ。特許の価値以上に権利者が代償を受け取れるような状態を許さないことだ。市場において、実際に製品に貢献した分だけを代償として特許権者が得られるようにしていかねばならない。こうした信念に基づき、最近私はある特許訴訟で発明の価値について十分な証拠がないと判断して原告が主張していた莫大な賠償金を引き下げる判決を出したばかりだ。

 

――特許の流動化は日本でも進むと考えますか。

レーダー 日本でも実際には水面下でアイデアや特許が取引されている。市場には財産の評価や取引、売買で多くの手法が存在しているし、特許についても家や車を売買するのと同じように取引されることになる。

 

――特許などの無形資産の価値を評価するのは難しいのではないでしょうか。

レーダー 私はそうは思わない。製品の価値の中で、独創的な技術がどの程度貢献しているのかを計算すればわかることだ。まさにそれが特許の価値ということになる。それを計算する仕組みだってあるし、現実に売買取引もされている。

 

――日本の知財高裁は米国を模範としてできたとされますが、その機能をどう理解していますか。

レーダー 少なくとも年1回は東京に足を運び、法解釈について日本の裁判官と意見を交わしている。それは技術の「自明性」に関するものだったり、賠償金の算定に関するものだったりと、知財係争には非常に重要となるテーマを議論している。彼らは大変な見識があり、私が教えることよりも彼らから私が学ぶことの方が多い。

 

――中国政府の知財への取り組みをどう思いますか。

レーダー 中国は複雑で、歴史的に知財への関心は薄かった。しかし、それも変わりつつある。実際、たくさんの知財訴訟が現地で起きている。彼らは知財を保護しようとしているし、中国政府は国民の関心を育て、知財をどんどん生み出す方向へと舵を切っている。確かに地域社会で知財の価値を教育するのは難しいが、たとえば台湾では大変うまく知財教育が機能した。台湾も元々は知財への関心が払われていなかったが、ちょうど昨年、彼らは知財裁判所を作り、知財保護策を強化しようと意欲的だ。日本にとっても知財が価値を持つものだと理解されている。日本にはそうした取り組みが米国以上に進んでいるところもある。

 

――今年、北京大学の知財センター委員を引き受けたそうですね。

レーダー 中国は世界でとても重要な市場だ。知財の重要性を中国に広めるうえで役立ちたいと思った。北京大は中国で最初に設立された大学だ。中国政府も北京大学に一目を置いている。学生だけでなく、中国政府にも知財価値を教えることができればと願っている。私は少人数で構成する委員会の会員の一人に選ばれた。会員は5人で、一人はドイツ人、米国では私、北京大の知財センター長、大学教授、それから台湾系の米国人だ。学生向けに知財法の授業も受け持っている。年に2~3回、中国に出向いて授業することになる。

 

――各国の特許庁間の連携をどう考えますか。

レーダー 多くの国が特許の質をどう維持するかという問題で苦しんでいる。特許の出願件数が増えることで日本でも未処理の特許出願を処理しようと特許審査官の仕事の負担が増している。米国もそうした流れを追随している。しかし、こうした問題は各国の特許当局者が仕事を割り振れば解決すると思う。たとえば日本で特許が認可もしくは拒絶されたら、米国もその判断を尊重するというものだ。そうすることで審査の時間を省くことができる。もちろん、日米の特許法には制度設計に違いがあり、こうしたアイデアには障害もある。しかし95%はこうしたわずかな違いを乗り越えて解決できる問題だ。日米欧では協調への取り組みが始まり、今では中国、韓国も加わって5極が話し合いを進めている。私は各国に法の違いが多少あったとしても、こうした協調を進めることに価値がある。したがって早く各国当局の判断をその他の国々が尊重するような環境整備が求められる。

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