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米国の「プロパテント(特許重視)政策」に転機が訪れようとしている。
「特許法改革案」が4月2日、米上院司法委員会を通過。上院本会議で採決される見通しになったのだ。
下院で足踏みする可能性はあるが、専門家の間では、「特許制度改革に前向きなオバマ大統領の下で何らかの改革は実現するだろう」との見方が多い。
70年代末に製造業の競争力低下に直面した米国は80年代以降、国を挙げて知的財産の保護に取り組んできた。85年にはレーガン政権下で産業競争力委員会のジョン・ヤング座長(当時ヒューレット・パッカード会長)が中心となって知財保護政策を提言。米国は90年代に情報技術(IT)・バイオといった分野で競争力復活を成し遂げた。

ところが、強い特許権を認めることは、不可欠な特許が一つの製品に多く絡む電機・IT大手にとってむしろ弊害になり始めた。他社が保有する特許に対して巨額の特許料を支払わねばならない可能性が出てきたからだ。
また、90年代半ば以降は米国での事業展開を狙って世界中から米国への特許出願が集中したことで、審査の遅れも目立ち始めた。
こうした状況について、ワシントンの弁護士、ジョン・フェルドハウスは「特許の質の低下を招き、トロールによる特許権の乱用や訴訟費用の高騰につながっている」と指摘する。
さらに、行き過ぎたプロパテントにブレーキをかけたのが連邦最高裁だ。
最高裁は、世界が注目する特許訴訟で繰り返し、日本の知財高裁にあたる連邦巡回控訴裁判所(CAFC)による判断を覆し、特許権者に不利な判決を言い渡したのだ。
最初は06年の「イーベイ判決」だ。
米ソフトウエア会社、マークエクスチェンジは、ホームページ上のボタンをクリックする「Buy It Now(今すぐ購入)」機能に関する特許を侵害されたとして米インターネットオークション大手、イーベイを訴えた。CAFCは差し止めを命じたが、最高裁は「原告は回復不能の損害を被ることを証明する必要がある」などとして、差し止め命令を破棄し、審理を差し戻した。
従来は被告が特許を侵害していることを立証すれば、原告はほぼ自動的に差し止め命令が得られたが、米国弁護士の萩原弘之は「イーベイ判決以降、実際に特許技術を使って製造や販売を行っていない会社は、賠償金を引き出すための交渉材料として差し止めを迫るやり方は採りにくくなった」と説明する。
カナダの自動車部品メーカーKSRが特許侵害で訴えられた訴訟でも、最高裁は07年、発明に値する「非自明性(進歩性)」を認定する基準を引き上げる判決を下し、CAFCの判断をひっくり返した。
こうした最高裁の判断を受け、CAFCも最近は、特許権を意図的に侵害した場合に実際の損害の3倍の賠償額を命じることができる「懲罰的賠償」制度に関して、「故意の侵害」があったと認める基準をより厳しくするなど、特許権者の主張を退ける判決を出す傾向が出てきた。
CAFCの次期裁判長の最有力候補と目されている判事、ランダル・レーダーは「法律にのっとって知財を保護する方向性は変わらない。だが、CAFCは最高裁の判断に近づけていく努力をせねばならない」と語る。
特許法改正の動きは、こうした流れを受けたもので、法案には特許が本当に価値があるのかについてのチェック機能の強化や、特許侵害による賠償額算定の厳格化、被告が訴訟地を移しやすくなるルールなど、特許権者に厳しい内容が盛り込まれた。
また、同じ発明に関する特許申請が重なった場合、米国は先に発明した人に特許を与える「先発明主義」をとってきたが、日本や欧州などに歩調を合わせて、「先願主義(先に出願した人に特許を与える)」に移行する案も示された。
ただ、こうした法改正の動きに対し、一製品に絡む特許数が少なくてすむ医薬、バイオ、食品業界などは「特許の力を弱める」「個人発明家の利益を損なう」「現行法の解釈で十分」と強く反発している。
(文中敬称略)