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「他社ノ追随ヲ絶対許サザル境地ニ独自ナル製品化ヲ行フ」――。
終戦直後の1946年、盛田昭夫とともにソニー(旧東京通信工業)を創業した井深大は、設立趣意書の中でこう書いた。
創業者の言葉は、そのまま開発設計者に宿る。68年に世界初トリニトロン式カラーテレビを発売。79年にはウォークマン、82年に世界初CDプレーヤー、89年の小型ビデオカメラと、「ぶっちぎりの技術」(中鉢良治副会長)で独自の製品を開発し、市場を創造することに成功した。

ところが、「技術力の高い製品=モノが売れる」という勝利の方程式は、グローバル化の進展とともに崩れつつある。日本では高い技術を駆使した製品も好まれるが、今後成長が見込める新興市場に目を向ければ、売れ筋は必ずしも最先端技術にこだわった製品ばかりではない。
加えて、韓国や中国、台湾などアジア諸国の技術力も年を追うごとに向上。
技術力を誇ってきた日本勢は価格破壊の波にもまれる。
高い技術力を1社で独占することも製品やサービスの多様化、複雑化を背景に難しくなってきた。
たとえば、アナログ時代を代表するビデオデッキ(VHS)の製造に不可欠な特許は3社で数十件程度だった。それがDVDプレーヤーになると、延べ35社400件に拡大。多機能が売りの携帯電話端末に至っては千件を超す特許が絡む。ライバルも単に家電業界にとどまらず、通信やネット、コンテンツ産業へと広がる。
ソニーの知的財産センター長、守屋文彦は言う。「社内だけで製品開発を進めても革新的な製品は生まれない。業界の垣根を越え、積極的に外部技術も採り入れねば競争には勝てなくなった」
変革の一つのカギになるのが、「技術の標準化」だ。近年はライバルと協力しながら市場の拡大を図っていくことが「業界共通の利益」になってきた。そこで、製品化に不可欠な特許を各社が持ち寄り、標準技術を多くのメーカーに使ってもらうことで製品の普及を早めようという狙いだ。
もっとも、標準化を収益に結びつけるのはそう簡単ではない。DVDの標準化を主導した9社のうち、日本企業は7社を占めた。日本の技術で築き上げたDVDは世界中に広がったが、技術は「ただ乗り」され、収益は低迷した。台湾製や中国製のDVD録画機が秋葉原でも1台3千円で売りさばかれ、日本メーカーは「技術に勝って商売に負けた」(NEC幹部)。
家電業界では、営業利益の25%が、使われている技術の価値だと言われる。
しかし、価格競争に陥って利幅が薄くなれば、技術開発にかけた巨額の投資費用を回収できない可能性が出てくる。パナソニックの知的財産権本部長、福島能久は「今までは、技術に軸足を置きすぎて、収益をどう確保するかという議論が遅れた」と振り返る。
こうした反省に立ち、ソニーとパナソニック、フィリップスの3社が主導し、新世代DVD「ブルーレイ・ディスク(BD)」に不可欠な特許を集めて管理(プール)する専門会社を今夏をメドに米国に設立する。BD製品を手がける各メーカーが特許料を支払う窓口を管理会社に一本化することで、各社が個別に特許料を徴収する手間が省けるというわけだ。
しかし、今後標準化に不可欠な特許が増え、関係する研究開発の専門会社や個人発明家が増えれば、互いの利害が一致しない可能性も出てくる。メーカーは、標準技術の特許料は安く抑えて市場を拡大させ、製品の販売で収益確保を狙うが、製品を作らない企業・個人にとっては、特許料が唯一の収益源になるためだ。
自社の特許を活用して年間千億円もの収入を得る米IBMは、特許の一部を無料で開放し始めている。特許料で直接収益を上げるだけでなく、あえて特許を開放することで「仲間」を増やして自社が強みとする製品やサービスを売り込み、より大きな「果実」をもぎとろうという発想だ。
特許を生かして収益を上げる構図が世界的に複雑化するなかで、「知財立国」を標榜する日本は、海外に負けない「知恵」が試されている。
(文中敬称略)