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特許バトルロイヤル

[Part2] 「必要ない特許ありませんか」

大学・研究所に営業攻勢

 

「特許の資金化は当社にお任せください」「必要ない特許を売って下さい」――。独立行政法人・理化学研究所の知的財産戦略センター長、斎藤茂和のもとに、数年前から毎日こうした内容のメールが届く。多い時は60件にも達する。
送り主の大半は国内外の証券会社や銀行、コンサルタント会社だ。最近は韓国や中国などアジアの会社、個人からの電話や面会も増えた。

ビールの腐敗を防ぐ低温殺菌法を図で説明したポスター。フランスの学者、ルイ・パスツールが発明した。米特許商標庁に保存されている。

理研が昨年、技術移転を進めるためのパートナーとして包括協定を結んだシンガポールが拠点の「360ip」という投資会社も、そのひとつだった。理研が持つ特許の実用化を共同で進める。360ipは理研の研究開発に計画段階から参画。2018年までの10年間で総額約20億円を理研に投資すると約束した。
360ipにとっての「うまみ」は、理研が抱える物理、生物学など5分野で2400人に及ぶ研究者らと、出願中を含め約2800件に及ぶ未活用特許だ。特許権は理研が持ち続けるが、360ipは中国やインド、韓国などの研究機関や大学とも提携。理研の知的財産と結びつけて技術の価値を高め、主に新興国の企業に対する特許の使用許諾交渉を進め、収入を理研と分け合う。
半官半民で、「研究成果をいかに社会に還元するか」が積年の課題の理研にとって、アイデアが新興国に渡るのは前例がない。特許料収入がわずか年1億円前後の理研からすれば、投資資金と特許料収入は「渡りに船」の提案でもあった。

日本の知財に狙いをつけた外資ファンドの足は大学にも向かう。
営業攻勢が目立つのが米特許ファンド「インテレクチュアル・ベンチャーズ」(IV)だ。マイクロソフトで最高技術責任者(CTO)だったネイサン・ミアボルドらが00年に創設した。投資家から集めた資金で、世界中の企業や研究機関などから2万件を超す特許を買収。特許料収入などのうち10億ドルを投資家へ還元したという。07年には日本にも進出。約20大学、ベンチャー企業5社などと提携した。
IVの特徴は、様々な特許をひとまとめにして使用許諾を与えることだ。多くのデジタル製品が何百、何千という特許によって作られるようになり、関連特許の使用許諾をまとめて受けられる「ワンストップショッピング機能」があれば、新しい事業を始めるメーカーにとって便利だと考えたのだ。

米国の旧特許庁で使っていた「Shoe」(靴)と呼ばれる棚。先行技術文献が入れられていた。初代特許庁長官のトーマス・ジェファーソンが自身の発明を書いた紙を靴底に隠して守ったのが言葉の由来との説がある。

IVと提携する広島大の知的財産企画部門長、橋本律男は「一大学の特許だけで活用先を探すのは難しいが、他の企業や大学の特許とまとめた形なら技術移転も進みやすい」と話す。
一方、ある私大の担当者は「IVの担当者は出願前に研究成果を評価させて欲しいとやってくる。権利化を安易に任せてしまうと、気づかぬうちに技術が海外に流れていきかねない」と警戒する。

日本では98年、大学等技術移転促進法が成立。各大学はTLOと呼ばれる技術移転機関などを立ち上げ、産業界への技術移転を進めてきた。
ただ、TLOの立ち上げを資金面で支援してきた国の補助金は08年度の承認分から、なくなった。各大学は独立採算を一層求められ、資金確保のために知財が海外へ流出する可能性が高まったとの見方は多い。
こうした現状に産業界からは懸念の声が上がる。発明特許が5千件以上と世界最多を誇る半導体エネルギー研究所(神奈川県)社長の山崎舜平は「大学などが税金を使った大事な特許を生みっ放しで捨ててしまう。それを買って日本をたたく外国企業が出てきた」と指摘する。同社は特許の維持管理に年数億円かかるとみられる。しかし、「未来の技術革新でどの特許が役立つか分からない」と考え、売却はせず、保有し続けている。

(文中敬称略)

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