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3月27日、米サンフランシスコ。高級ホテルに設けられたオークション会場には、全米各地から通信、ソフトウエア、技術開発専門会社の特許担当者ら約300人が詰めかけた。
「15万ドルから始めます。17万ドル。はい右手の方から20万ドル。では22万ドル。ないですか?よろしいですか?」

「カーン」。ハンマーの乾いた音が会場に響きわたった。
「SOLD(売却)!20万ドル」
通信技術に絡んだ特許が落札された瞬間だった。
出品された特許85ロットのうち、取引が成立したのは6ロット。落札総額は約306万ドル。半年前の前回の4分の1程度だ。オークション終了後、主催会社オ
ーシャン・トモの最高経営責任者(CEO)、ジェームズ・マラカウスキーに「低調な結果でしたね」と記者(都留)が問いかけると、「景気悪化がこたえた。
しかし、我々は特許流通のための市場創造者として、特許取引の場を提供し続ける」
。
オーシャン社は特許など知的財産の価値評価や売買支援をアドバイスする専門会社として03年、シカゴに設立された。
なぜオークションなのか。
企業間の特許の売買やライセンス交渉はこれまで、水面下で行われてきた。
マラカウスキーは「参考になる市場の適正価格がないから特許の価値評価が難しくなり、企業に眠る特許の取引を妨げている」と考え、06年、公開取引市場として米国唯一の特許オークションを始めたのだという。
ロンドンやアムステルダムなど海外にも手を広げ、過去8回の落札総額は1億ドルを超えた。来年はアジアで初めて、香港で開催する計画だ。
買い手は1500ドルの登録料と銀行からの信用証明を提出すれば入札に参加できる。一方、売り手は1千~6千ドル程度の参加料を支払えば出品でき、買い手を探す手間が省ける。売却が成立した際には、落札額の15%をオー
シャン側に支払う仕組みだ。
マラカウスキーは「知財の売り手と買い手が公の場で効率的に、かつ適
正な価格で取引が行える」と話す。「公開市場」での特許取引は、買い手側も売り手側も、売買価格をめぐる判断が不当だとして株主から訴えられるリスクを避けるのにも役立つという。
今回は、ワープロソフト「一太郎」で知られる日本のソフト会社「ジャス トシステム」が参加。インターネットで用いられる検索技術を中心に米国特許9 ロットを出品した。担当者は「今後の事業に使わない特許を持っていても維持費がかかる。 売却する上でオークションは一つの選択肢になる」。

08年の米特許取得件数をみると、上位10社中5社が日本企業だ。ある大手電
機メーカー幹部は「トップ10に入っていれば研究開発が活発だというイメー
ジができる。親会社だけでは無理なので、グループ全体で10社に入れるように調査会社に『
名寄せ』を頼む」と内情を話す。しかし、膨大な特許の維持費は収益を圧迫する要
因でもある。だから、マラカウスキーは「日本企業の参加は増えていく」
と期待する。
さらに、オーシャン社は投資銀行経験者など金融工学のプロを雇い入れ、
今秋をメドに特許の使用許諾権を取引できる公開市場を開設する計画を進める。例えば、通信関連の特許を持つ企業が「自社の特許を使って1千台の携帯電話端末を作ることを許諾する権利」を株式のような形で売り出し、資金調達できるようにするという。
こうした特許の金融商品化に問題はないのか。東大先端科学技術研究セ
ンター教授の渡部俊也は「特許が投機対象になれば、特許の実体価値と全
く関係なく取引価格が決まり、特許本来の目的がゆがめられてしまう恐れがある」
と警戒感を募らせている。
(文中敬称略)