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マーシャルに姿を現す「特許トロール(妖怪)」とは、自らは研究開発も製造もせず、買い占めた特許権を盾に、複数のメーカーに対して損害賠償や製品差し止めを求める企業の呼び名だ。NPE(Non-racticing Entity)と呼ばれることもある。トロールはもともと、北欧神話に出てくる恐ろしい生き物。日本で言えば「鬼」のように描かれることが多い。

彼らのビジネスはこうだ。年利20%とも言われる高利回りを約束して投資家から集めたカネを元手に、個人発明家や企業から特許を買い集める。それを盾に、次々と「特許を侵害された」とメーカーを訴えて和解金を手にし、出資者に分配する。
トロールの狙いは訴訟に勝つことではなく、あくまでも和解金を引き出すことにある。そのためには、特許権者に有利な判決が出やすく、決着が早いマーシャルのような訴訟地が被告企業にプレッシャーを与える最も重要な「舞台装置」になっているのだ。
米Patent Freedom社によると、トロールは現在、米国に200社以上あるとされ、訴えられた企業は既に累計で約3500に上る。米国の特許訴訟全体の中でトロールが関与した件数は98年には全体の約2%に過ぎなかったが、08年には16%を超えたという。
トロールの存在は、日本や韓国、台湾などアジアの製造業にとって非常にやっかいだ。年に5回以上訴えられた大企業の訴訟件数は、08年で米国籍156件に対し、アジア国籍105件と、年を追うごとに差は縮まっている。
特に、製品の販売差し止めが認められると、米国での売り上げへの影響は計り知れない。トロール自体製品を作らないため、被告企業が原告側の特許侵害を見つけて逆に提訴し返すといった手段も使えない。
「にんじん」を被告の前にぶら下げるトロールもある。被告が徹底的に争えば年間数億円の訴訟費用がかかるが、こうした費用よりも要求額を低く提示するのだ。狙いは、早く和解を引き出すこと。複数の企業を相手に訴訟を起こし、薄く広く賠償金を得ることがこうした戦術を可能にする。
日本の大手電機メーカー幹部は「争う構えは崩さないが、社内で『支払った方が得ではないか』と議論して和解に応じることもある」と打ち明ける。

ただ、メーカー側も手をこまぬいているわけではない。
トロールが特許侵害だと事前に警告してきた場合は、提訴される前に先手を打って、特許を侵害していないことを確認するために自ら提訴する作戦を取り始めた。その際は、特許権を慎重に判断してもらえそうな裁判所を選ぶ。そうすれば、トロールが原告に有利な裁判所で提訴しても「同じ事件」とみなされ、先に日本企業が提訴した裁判所に審理が移されることになる。
無論のこと、トロール側も必死だ。ソニー知的財産センター長の守屋文彦は「昨年ごろから事前警告もなしに、いきなり訴訟を起こしてくるトロールが激増した」と嘆く。
いたちごっこに商機を見いだすベンチャー企業も登場した。トロールからの企業防衛を専門に昨年11月、米サンフランシスコで事業を始めたRPXだ。
RPXは、企業の倒産や再編で市場に流れ出した特許を調査。トロールが買いそうな特許を先回りして買い集める。元手はベンチャーキャピタルの投資資金だ。取得した特許は、自社の会員企業に実施権を与える。共同最高経営責任者(CEO)で、特許ファンドなどこの業界を渡り歩いてきたジョン・アムスターは「初年度に1億ドル分の特許を買収する。その実施権を大企業であれば1社平均、年間490万ドルで得られる。訴訟費用やトロールに支払う費用に比べれば割安だ」と売り込む。
昨年12月、日本企業では初めてRPXの会員になったセイコーエプソンのライセンス部長、出野恭一は「今朝も米国の顧問弁護士から『トロールから訴状が届いた』と連絡を受けた。トロールをウイルスにたとえるなら、RPXはワクチンの存在に近い。100%の期待はできないが、RPXが今後、我が社の訴訟リスクを10%でも減らせれば大したものだ」。
今年3月には、パナソニックも日本では2社目の会員になった。
(文中敬称略)