![]()
![]()
電気自動車を気に入って運転していた映画監督は、「需要がない」とメーカーに回収され、つぶされていく愛車たちを前に、ドキュメンタリー「誰が電気自動車を殺したか?(Who Killed the Electric Car?)」を撮ることを思い立った。そのメーカーたちが今、崖っぷちにあり、政府から救済資金を得ようと「環境車の開発」を旗印に掲げている。「自己都合」を繰り返してきた米国クルマ社会を、彼はどんなふうに見ているのか。クリス・ペイン監督に話を聞いた 。
( 2009年3月24日、電話にて。聞き手・勝田敏彦 )

――どうして「誰が電気自動車を殺したか」を撮ろうと思ったんですか?
クリス・ペイン 1990年代、カリフォルニア州当局が環境規制を強化したことから、トヨタ、ホンダ、日産、フォード、GMとすべての自動車メーカーが電気自動車の生産に乗り出しました。1997年ごろから、カリフォルニアで5000台ぐらいが市場に出回ったと思います。
ところが、自動車メーカーから訴えられたりしたことから、州当局は5年後、規制を事実上やめてしまった。それでほとんどの電気自動車が回収されスクラップされてしまったんです。私は当時、電気自動車の利用者の一人でもあった。GMとトヨタの車に乗っていたんです。だから当事者としてことのすべてを見た。
メーカーの言い分は「だれも技術の進歩になんか関心がない」だった。だけど、ほとんどの人は電気自動車が何たるものか知らなかったんです。実際、「知られざる」プロジェクトみたいなものだったから。どんなものかもっと知れ渡ったら、みんな欲しいと思いますよ。僕自身、びっくりするぐらいすばらしい車だった。
何より、利用者から見たら「お得な」車でした。なにせ、ほとんど修理が要らないんです。数多くの部品からなる複雑なエンジンがないんですから。電気自動車はガソリン車に比べるとモーターと電池、わずかな部品というシンプルな構造なので、故障しにくいのです。
それに、カリフォルニアの電力源は多くが再生可能エネルギーによる発電ですから、電気料金も1ガロンあたりにならすと1ドル前後と、ガソリンより安価です。もっともメーカーにとっては「高くつく」車だったようです。少ししか生産しなかったし、電池のコストがあそこまで大きいとは思わなかったんでしょう。
一連の経験をして思ったんです。どうして私たちにはガソリン車しか選択肢がないんだろう。なぜ単一の技術しかないのか。それで映画をつくることにしました。電気自動車が市場から消えたのと引き換えに、どんな利益が存在したのか。映画としてストーリー性を高めるために殺人事件のような仕立てにして、どんな圧力があったのか、「謀略」だけじゃなく市場がどう反応したかも含めて、すべての要因を追いかけました。
――「謀略」とは、石油会社などからの圧力を指すのですか?
ペイン そう、実際ひどいものだった。石油会社は架空の消費者団体をつくり、充電設備の建設に反対するといった手法でロビー活動を行いました。彼らは充電設備が普及することを好まなかった。
自動車メーカーも関与しました。彼らは実は新車を売るより整備やアフターサービスのほうが儲かるからです。電気自動車の登場でビジネスモデルが変わってしまう恐れがあった。彼らは電気自動車も、コストのかかる環境車をつくれという州当局も気に入らなかった。だから、消費者が関心をもたないように陰で動いたんです。
21世紀、通勤車はほとんど、そしてたぶんすべての領域において、自動車は電気自動車かプラグインハイブリッド車に変わるでしょう。しかし90年代に電気自動車をつぶしてしまったことで、私たちは10~15年、技術の進歩に遅れをとることになってしまった。不幸なことです。
――メーカー側は、90年代の失敗は主として電池の性能が悪かったからだと?
ペイン 確かに、メーカーや石油会社は電池がすべてだと言いたがります。しかし現実的に考えると、米国民の1日あたりの平均走行距離は30マイルです。ワイオミングであろうとロサンゼルスであろうと、です。おそらく都市部の人であれば5マイルかそこらですよ。
1日300マイル走る人にとっては確かに電池は効率が悪いでしょう。ガソリン車もしくはプラグインハイブリッド車のほうがいい。しかし、大多数の人にとって何百マイルも走れる電池は要りません。電池では安いコストで300マイルも走れない、という議論は的はずれですよ。
――ここにきて、電気自動車やハイブリッド車が急に脚光を浴び出しました。しかも、米国の自動車メーカーの再生、という観点からです。
ペイン ガソリンの価格が1ガロン=4ドル台になったとたんに、人々は燃費効率に関心を持ち始めました。そしてハイブリッド車に注目している。ガソリン価格が落ち着いたせいでちょっと下火にはなりましたが。しかし、少しの期間でも電気自動車に乗った経験がある人間は、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車はあくまで当座の技術だとみています。
プリウスをはじめメーカーがハイブリッド車に熱心なのは、あくまでガソリンを使うからだ、という人もいる。エンジンとモーターの両方を積んでいるから二重にメンテナンスが必要になりますしね。ちょっとひねくれすぎた見方だとは思いますが。私は、ハイブリッド技術は重要な布石だと思います。しかし、最終的には純粋な電気自動車がもっと普及するようになるでしょう。
――ビッグ3は未曽有の経済危機の中で政府支援を模索していますが、政府は彼らに救済条件として環境車対応を急ぐよう求めています。かつて電気自動車を殺した連中の救済を正当化するために電気自動車を利用しているという皮肉な事態です。
ペイン 確かに皮肉なことですね。彼らの未来を担保するために電気自動車が使われるなんて。しかしまあ、誰が何と言おうと、メーカー自身がわかっていますよ。将来は電気自動車にかかっているのだと。実は映画の続編を考えているんです。タイトルは「電気自動車の逆襲」(公式サイトhttp://revengeoftheelectriccar.com/)です。
GMをはじめ自動車メーカーに再度取材をしているんですが、おかしいんですよ。前作の時に会った人たちも何人かいるんですが、雰囲気が違うんですよね。彼らは電気自動車にとても熱心なんです。おかげで、コマーシャル・フィルムにならないよう気をつけなきゃいけなくなっています。