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電気自動車の普及の壁が高価な電池なら、電池をリースにすればいい――。逆転の発想で新たなサービスを作ろうとしているのが米ベンチャーのベタープレイスだ。その日本法人社長を務めるのは、ソフトウエア会社SAPやルイ・ヴィトンの日本法人などでトップを務めてきた藤井清孝氏。日本でこのビジネスモデルは成り立つのだろうか。
(2009年3月19日、東京・虎ノ門のベタープレイス・ジャパンで。聞き手・野島淳、鈴木暁子)

ふじい・きよたか 1957年生まれ。81年、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。ファースト・ボストン投資銀行などを経て、2000年、SAPジャパン代表取締役社長。2006年にルイ・ヴィトン・ジャパンカンパニーCEO。2008年からベタープレイス・ジャパン代表取締役社長兼アジアパシフィック代表。
――このビジネスに取り組むきっかけは何ですか?
藤井清孝 SAPジャパンの社長をしていたとき、本社のナンバー2だったのが、ベタープレイス創業者となるシャイ・アガシでした。2007年にベタープレイスを設立し、日本でも展開したいというので一緒にやることにしたのです。
日本には強い自動車メーカー、強い電池メーカーはありますが、電気自動車の世界で本当に成功できるのか。日本発で新しいビジネスモデルを作りたいと思ったんです。
――電池自体はベタープレイス社が所有し、貸し出す形にすることで、消費者は電池分を差し引いた安い価格で電気自動車が買える。あとは、基本契約料や一定の使用量を払えばいい、という仕組みですね。
藤井 電池性能はどんどん進化しています。でも、いったん消費者が所有してしまったら、電池が改良されても、買い換え負担が大きすぎますから、その利点を享受できない。そこで、消費者が電池を交換しながらして使うという意味が出てきます。ベタープレイスは車会社でも電池会社でもなく、市場を広げる触媒のようなものです。
――しかし、自動車メーカーが電池を交換できる車を開発する必要があります。
藤井 まずはルノーがそうしたタイプの車を造ります。一つ形ができれば、ほかのメーカーにとっても、交換型がより現実的な選択肢だとご判断頂けるでしょう。もともと、インフラというのは、1社が独占するものではありません。どんなメーカーでも賛同してくれるところには、常にオープンでいきます。
――現在はメーカーごとに電池の形が違います。だれでも交換できるようにするためには、電池の形を統一する必要があるのではないですか?
藤井 あるスタンダードに収斂する必要があるかもしれませんね。自動車メーカーは、エンジンの性能で差をつけようと競争してきました。だから、電池も「他社とは違う」と言わないとビジネスにならないと思っています。
でも、自動車に載る次世代の電池は、メーカーによって性能に大きく差がつくのでしょうか? それとも性能に差がない消耗品になるのでしょうか? まだ決着はついていませんが、もし後者であるとすれば、交換するほうが合理的ですよね。
――特別な電池交換設備をつくるそうですね。
藤井 ガソリンスタンドの洗車設備のようなイメージです。電気自動車はまだ小型車中心ですが、市場を大きくしていくには、長距離を走る車も必要です。そのためには、電池を途中で換える、という選択肢も用意する必要があると思っています。本当に環境問題を考えるなら、排ガスをたくさん出す大型乗用車が電気自動車にならないと意味がないですよね。
――イスラエルやデンマークで、すでにベタープレイスのビジネスモデルが採用されているそうですが、両国は国土も狭く、自動車の台数も少ないからできているのではないですか。
藤井 国土が狭いからといって、ドライブする距離が短いとは言えません。むしろ、長い距離を乗るほうが、電池交換のニーズは高くなるでしょう。
日本の場合、それはどこかと考えた結果、タクシーに照準を合わせようと。タクシーは、日本が世界で最も台数が多いんです。東京だけで5万台以上が走っています。質もサービスもいい。日本のタクシーを電気自動車に換えていくことができれば、インパクトは大きいですよね。
――すでに、タクシー会社に対して提案を始めているんですか。
藤井 先方は乗り気ですよ。燃料代は明らかに電気の方が安い。ランニングコストが下がりますから。車の切り替え時期が来たときに、次の車を電気自動車にしてもらえるかどうか、でしょう。実用に足るとなれば普及すると思っています。
みなさん、タクシーに乗るでしょう? 一般の人に対して、電気自動車の乗り心地が実際にいいかどうかを証明するのには、タクシーがいちばん便利なんですよ。街を走るタクシーが10台のうち1台でも電気自動車になれば、時代が変わったと実感できますよ。
――充電や電池交換のインフラが随所にないと、遠乗りするお客さんは乗せられないですね。
藤井 相当、長い距離を乗るお客さん向けには難しいかもしれませんが、ある程度の距離なら大丈夫でしょう。 営業距離は直線に長いのではなく、一定の営業エリア内をぐるぐる回る感じですよね。そうすると、その営業エリア内に交換ステーションが集中的にあれば、十分です。4月末の黄金週間に入ったら、横浜市で電池交換の実証実験をしていきます。
――正直、電気自動車がどこまで日本で普及すると思いますか。
藤井 すべてが一気に電気自動車にはならないでしょう。ファクスや電子メールができても、郵便事業は残っています。要素によって棲み分けが起きる。新しいものが普及していくには、まず一般の多くの人が関心を持ち、政府が支援し、自動車メーカーも真剣に開発することですね。
――日本のメーカーは、電気自動車で優位に立つでしょうか。
藤井 日本の自動車会社は、いま勝ち組ですが、米国や中国などガソリン車で負けている国のほうが、電気自動車で一気に巻き返してくるかもしれない。弱みが強みに変わることは十分ありえます。
電池についても、優れた会社が日本にはたくさんありますが、今後、半導体産業のようにならないか心配です。過当競争で体力を消耗しているうちに、ダントツに強い1社が存在した米国や韓国に負けてしまいました。電池についても、もう少したったら強い会社へと集約されていくほうがいいと思います。