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いまや時代の寵児となったハイブリッド車。日産はその開発でトヨタやホンダに出遅れた。1990年代後半の経営危機で投資が十分にできなかったためだ。だが、リチウムイオン電池の可能性に目をつけた時期は早かった。長く培った電池技術を生かして今、新しい電気自動車の開発を進め、巻き返しを図る。カルロス・ゴーン社長が掲げる「ゼロエミッション(無排ガス)カーのグローバルリーダー」になることはできるのか。その意気込みを聞いた。
(2009年3月6日、東京・銀座の日産自動車本社で。聞き手・野島淳、鈴木暁子)

しが・としゆき 1953年生まれ。76年、日産自動車に入社。企画室長や常務などを務め、2005年から現職。
―――日産として電気自動車の開発を進めるようになった経緯を教えて下さい。
志賀俊之 トヨタがハイブリッド車「プリウス」を出したのが1997年。実は、日産もハイブリッド車の開発を進めていたんです。しかし、99年にスタートした「リバイバルプラン」では、企業の再生を図ることに重点が置かれました。ハイブリッド車はどうしてもコストがかかる。100台くらい作ったあと、中止せざるをえませんでした。
ようやく経営立て直しができた2001~02年ごろ、環境技術で巻き返そうとしました。でも、ハイブリッド以外に、ディーゼルやバイオ燃料、燃料電池など、さまざまな方向が検討されていて、将来いったいどれが本命になるのか、決め手に欠けていた。限られた資源で、全てに取り組むわけにはいきませんでした。
――排ガス規制は一方で、どんどん厳しくなりましたね。
志賀 当然、今あるガソリン車の燃費性能も相当、改善しないといけません。最近は、排ガスだけでなく、二酸化炭素(CO2)排出への対応も必要になってきました。規制値をクリアすると、また厳しい基準が課せられる。追いかけっこが続きます。であれば、ブランドのアイデンティティーとして、「ゼロエミッション」を打ち出したほうがいいと判断したのです。
幸い日産は、トヨタのハイブリッド車で使われているニッケル水素電池より大容量・高出力のリチウムイオン電池に早くから注目し、車載用にと研究開発を続けてきた経緯がありました。それで、07年から08年にかけて本腰が入りました。
――しかし、価格やインフラ整備を考えると、当面の主流はハイブリッド車では?
志賀 もちろん、ハイブリッド車にも取り組みます。来年には発売する予定です。われわれも、全ての車が電気自動車になるとは思っていません。スポーティーで、走りが充実している車のよさを生かすなら、大きな車だし、そうなればハイブリッド車でしょう。
逆に小型車であれば電気自動車で相当、カバーできます。2010年に生産を始め、2012年にグローバルで量販していく予定で、今後、小型車は一定程度、電気自動車にしていきます。環境戦略というだけではなく、企業の存続をかけた戦略に打って出ていっている。そう捉えていただいて結構です。
--―世界的な傾向として、小型車が見直されている面もあるようですね。
志賀 今の売れ筋は、グローバルでも圧倒的に小型車です。この流れは必然でしょう。原油価格が上がって、燃料代に対する懐疑的な感覚がグローバルで広まってきたことも大きい。将来的には、大型の高級車と小型車という二極化が進むと思います。
電気自動車は、最初のうちは政府の支援が必要ですが、車の歴史を振り返れば、量産化は値段を下げる大きなインセンティブになる。自信はあります。
日本の場合、電気代は安い。私は毎週1万円分くらいガソリンを入れています。月換算で4万円ですね。しかし、同じ走行距離を電気自動車で走っても、電気代は月2000円くらいで収まります。であれば、本体価格がある程度ガソリン車より高くても売れるんじゃないでしょうか。
――電気自動車が普及するための条件は何でしょうか。
志賀 最初は補助金などのインセンティブが要るでしょう。また、航続距離に対する不安も解消しないといけない。充電設備などのインフラの整備も必要です。高速道路、スーパー、コンビニ、マンションの駐車場……どこでも充電できるとなれば、乗りたいという人は増えてくる。全国の日産の販売店でも充電ができないか、検討しています。
しかし、最後に決め手となるのは「車としての面白さ」ではないでしょうか。電気自動車は加速力がものすごくいい。考えてみれば、新幹線だってモーターで走っているんですからね。
――海外市場をどう見ていますか。
志賀 米国は、オバマ大統領が電気自動車などへの支援に熱心です。欧州も環境意識が高い。CO2排出量の規制は、どんどん厳しくなっています。対応した車には税金が返ってきますが、排出量の大きい車を買う人は、逆に税金を余計に払わないといけない。欧州は黙っていても電気自動車がはやる土壌ですね。
――欧州に足場をもつ仏ルノーと資本関係にあることはメリットになりますね。
志賀 電気自動車の開発は情報を共有し、あらゆる発表も共同で行っています。欧州に限らず、世界各地の自治体とも、インフラの整備やどういう税制の恩典がいいかを検討する、などの点で提携を進めています。これはルノーと日産のためというより、電気自動車を出すメーカーすべてが恩恵を受けられるように、です。
共同開発とはいえ、日産の電気自動車をマークだけ変えてルノーブランドで売る、というようなことはしません。それぞれのブランドのアイデンティティーを大事にしながら、協力できるところはやっていく。ただし、新しい取り組みですから、コストを下げるなど提携のメリットを今までより大きくしていかなくてはいけません。
――電気自動車は、電池とモーターで走るいわば「ラジコンカー」です。将来、電池とモーターが主軸になり、カーメーカーは外側を造るだけ、というようなことにはなりませんか。
志賀 そこが大きな戦いです。おっしゃる通りの面はありますが、モーター会社が、はたして車を造れるでしょうか。安全技術をはじめ、自動車会社には蓄積があります。箱(ハコ)だけ造るわけにはいきません。日産らしい、ワクワクした走りを、電気自動車でも出さないと。人類が憧れたのは、自分の足でなくても走れるようになることでした。自動車はコンパクト(小型)化するかもしれないが、コモディティー(消耗品)化してはいけないんです。