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車が変わる。社会も変わる

[Part2] 産業構造は変わるのか 
「持たざるもの」は革命をめざす

30年間、電気自動車を研究し、ポルシェより加速がいい「エリーカ」をつくった慶応大教授・清水浩は4年ほど前、大手自動車メーカーの首脳を訪ねた。
「一緒にやって、量産しませんか」。首脳は関心を示したが、最終的には断られた。悔しかった。「電気自動車はゼロからつくらないとダメだ」
清水のエリーカは、四輪の代わりに一回り小さいタイヤが八つ。それぞれのタイヤの中にモーターを組み込み、エネルギーの損失を減らす。カーブでの走行が安定し、走行距離も大幅に伸びた。「ゼロから」の成果だった。

オートイーブィジャパンの高岡社長が開発した電気自動車「ジラソーレ」。「私は電気自動車を“家電の一種としての乗り物”だと思っています」という=東京都八王子市のオートイーブィジャパン本社、高橋万見子撮影

大手メーカーは、電気自動車をつくるにも、なるべく蓄積してきたガソリン車の技術を生かそうとする。だが、そのことがかえって真の技術革新を妨げる場合もある。成功体験が大きいほど「自己否定」が難しくなるからだ。 その点、ベンチャー企業は身が軽い。オートイーブィジャパン代表、高岡祥郎は、5月末に発売する予定の電気スクーターに、中国BYD社がつくったリチウムイオン電池を採用した。BYD本社を訪ねて、電気自動車も見た。
ベンツの3分の1の値段で売るという。「先進国の車のコピーかもしれないが、コピーができればいずれ本物になる」
高岡は、富士重工業のラリードライバーやチーム総監督として国内外のレースで活躍したあと独立し、電気自動車関連の会社を立ち上げた。07年には、イタリアのメーカーとミニ電気自動車を共同開発。将来は中国メーカーと組むことも構想する。
電気自動車の構造は、ガソリン車よりもシンプルだ。極端にいえば、モーターと電池と制御装置があればいい。部品点数も3分の2で済む。 そこに、ベンチャー企業や途上国メーカーのチャンスが生まれる。自由な発想をしたり、低コストで生産できたりするからだ。それが「持たざる者」の強みになる。
既存メーカーは、電気自動車をつくることによって、これまで培ってきた貴重な財産を失いかねない自己矛盾を抱えている。
三菱自動車社長の益子修は「電気自動車を増やしていけば、いつかエンジン工場を閉めなければならないかもしれない」と話す。
エンジンは車にとってまさに心臓部。ほかの部品は外注しても、エンジンは中でつくる。三菱は京都、滋賀、水島(岡山)の3カ所で、約1000人もの従業員がエンジン製造に携わる。
自動車産業は、部品メーカーなど広い裾野(すそ・の)産業をもつ。電動化は、そうした部品メーカーも巻き込む大波になりうる。
変速機で世界大手のアイシン精機グループは今年1月、HVシステム開発部を設けた。今後、ハイブリッド車に適した新技術の開発を加速させていくという。

トヨタ自動車九州のエンジン工場。部品の「すり合わせ技術」が日本の自動車メーカーの強みだ=2006年4月18日、福岡県苅田町で。原田宏一撮影

電気自動車に比べれば、ハイブリッド車はガソリン車に近いが、ガソリン車用の変速機は不要になった。最大顧客のトヨタは、2020年までに全車種にハイブリッド車を投入する。「手をこまぬいていれば、売上高がガクンと落ちかねない」と幹部は懸念する。
電気自動車の普及が進めば、電池会社や電機メーカーなどが電池・モーターといった基幹部品を握る。部品メーカーに雇用調整が起きたり、電機大手が自動車メーカーを買収したりして、電気自動車の製造に乗り出す時代が来るかもしれない。
トヨタ、ホンダなどはこうした「仮説」を否定する。
「追いかけられれば先に行くだけ」とトヨタの幹部は言う。
走る、曲がる、止まる――単純な機能のようだが、量産しても同じように動く技術は一朝一夕にはできない。安全性の確保もそうだ。
部品や製造工程の一つ一つを調整し、精緻(せい・ち)に仕上げていく「すりあわせ技術」が日本の自動車産業をここまで大きくした。トヨタ幹部は「ガソリン車も電気自動車も、車に変わりはない。そう簡単に既存の自動車メーカーが抜かれることはない」とみる。
次の時代、「持てる者」が引き続き勝利するのか、「持たざる者」による革命が成功するのか。
勝負の行方は、まだ見えない。
(中川仁樹、高橋万見子)
[文中敬称略]

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