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自動車や家電メーカーなどの工場があり、外国人が総人口の16%を占める群馬県大泉町。ブラジル最大の民放テレビ局グロボのロベルト・コバリッキ(44)が2月下旬、2日間にわたって取材に訪れた。
同局で初の日本駐在特派員として、2月にニューヨーク支局から着任したばかり。最初の取材テーマに、同胞の出稼ぎ労働者の失業問題を選んだ。「本当は、得意な経済か技術の話を取材したかった。でも日本人の同僚たちが在日ブラジル人の惨状を何度も話すのを見て、『まずはこれだ』と気持ちが変わった」。カメラマンと町内を取材で走り回った。

「ミニ派遣村」で炊き出しを食べるブラジル人失業者たち。右端はミルトン・サントス牧師=群馬県大泉町で、原島由美子撮影
6人の子どもを抱えたブラジル人(妻)とペルー人(夫)の夫婦。2カ月分の家賃を滞納しており、取材中に年配女性の大家が支払いの催促に来た。子供を抱きながら2人は訴える。「失業中でお金がない。食べものを買うお金さえないんです」。大家は「私も薬を買うお金が必要だけど、家賃は1カ月分まで減額しましょう」と気遣いをみせた。
大家の後ろ姿を映しながら、コバリッキはリポートした。
「彼らが家賃を工面するのは簡単ではありません。この家族も日本における経済危機の被害者なのです。輸出に支えられてきた日本の企業は、まずブラジル人たちが多くいる期間労働者を解雇しました」
続いて、ブラジル人失業者が中心の「ミニ派遣村」へ。在日約15年のミルトン・サントス牧師(51)が昨年11月、以前はスナックだった古い空き家を借り、ボランティアや支援者らと保護施設用に増改築してきた。失業中の日本人を含む男性約10人が手作りの2段、3段ベッドで眠る。早朝から歩いて1時間かかる太田市のハローワークや工場などを訪ねているが、仕事はほとんどないという。
炊き出しには、避難所が満室で入れないため橋の下で眠る62歳の日系ブラジル人男性らも合流した。カメラに背を向けたり、うつむいて顔が映らないようにしたりする姿が目立つ。「母国の人々に日本で起きている現実を知ってもらうのは大切なこと。でも自分の家族が見たら心配するだろう」。取材される失業者らの心中は複雑だ。
コバリッキは2日間の取材内容を3本のリポートに編集し、うち2本をゴールデンタイムの報道番組「Jornal Nacional」へ、残りを午後1時15分からの別番組用に送った。映像は局のウェブサイトにも掲載された。
反響は大きかった。多くの視聴者から放送局へ「彼らを何とか支援したい」と電話があった。コバリッキが取り上げた別の子持ち夫婦は持ち金が底をつき、帰国することになった。東京・サンパウロ間の航空券はブラジル政府が手配し、サンパウロから約1000キロ離れた家族が住むカンポグランデまで行くバス代は、有志の視聴者が出してくれることになった。
「ここまでみんなが動いてくれるとは。報道したかいがあった」。日本からの初リポートは、大成功だった。
昨年まで、グロボはアジア唯一の支局を北京に構えていた。しかし、日本には設備の整った提携局や大きなブラジル人社会があることなどから、アジアの支局を北京から東京へ移すことが決まったという。
(文中敬称略)