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現地取材記 深まる危機のなかで

[第1回] ピースナウと入植地監視 Part1

「パレスチナ国家が不可能になれば、和平は終わりだ」

ピースナウはイスラエル最大の平和団体である。77年にエジプトの故サダト大統領がエルサレム訪問をして和平への意思を見せた後、イスラエル軍の士官たちが政府に対して和平に動くよう働きかけたことに始まる。主要政党である労働党の支持者も多い。ピースナウは和平プロセスを支持し、入植地の拡大や分離壁の建設に反対してきた。この組織の入植地監視チームで監視員として活動するシムハ・レベンタルさん(27)は、コンピューターが映し出すヨルダン川西岸の地図で、ラマラの北西方向の地域を示しながら、「私は今週、このあたりを車で走った。周辺の山の頂にはすべて違法な仮設入植地ができている。恐るべき光景です」と言った。
「イスラエルは(2000年7月の)キャンプデービッド首脳会合や(07年11月の)アナポリス首脳会議など、パレスチナ側と和平交渉をし、入植地の建設の凍結を約束しながら、実際には入植地を建設し、拡大し、和平とは反対のことをしてきました」

入植地は和平を妨げる」と語る平和団体ピースナウの入植地監視チームのニムハ・レベンタルさん=川上泰徳撮影

ピースナウの入植地監視チームは、定期的に西岸をパトロールして、入植地の建設や拡大、違法入植地の増殖を記録している。
07年までの記録をまとめた人口地図によると、ヨルダン川西岸の入植者は27万5200人。93年以降で約2.4倍に増えた。93年9月にイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)との間ではパレスチナ暫定自治協定(オスロ合意)が結ばれた。新たな入植地をつくることは和平協定違反だが、イスラエル側は一貫して入植地を拡大してきた。
ピースナウの資料によると、入植者数は次のように増えている。

1993年 11万6000人
1997年 16万人
2000年 19万8000人
2003年 23万2000人
2007年 27万5000人。

レベンタルさんは入植地建設に反対する理由について、こう語る。
「イスラエルが入植地を増やすことで、パレスチナとの和平がますます困難になっていく。2000年のクリントン大統領提案ではエルサレム郊外の入植地はイスラエル側に併合されることになっていて、(和平推進派の)カディマや労働党でさえ、エルサレム郊外のマーレアドミムなどの拡大には何も問題ないと思っている。しかし、将来、パレスチナとの合意でそうなるとしても、合意もないまま、入植地を拡大していくことは、パレスチナとの信頼関係を損なう。それによって、和平交渉が難しくなる。だからこそ、われわれピースナウは、和平交渉で合意するまで入植地建設の凍結を求めている」
そして、「パレスチナ人が国を持ち、イスラエルと共存することは、我々の安全にとっても重要なことだ。イスラエルがパレスチナ人の土地を奪って入植地を広げることは、和平を妨げ、パレスチナ国家の成立を困難にするだけでなく、イスラエルの安全をも脅かす」と言う。

現在の和平交渉は、イスラエルが「67年の第3次中東戦争で占領した東エルサレム、ヨルダン川西岸、ガザから撤退し」、アラブ諸国は「イスラエルを承認して、生存権を認める」という安保理決議242に基づく「土地と和平の交換」の原則の上にたっている。イスラエルが撤退した占領地にパレスチナ独立国家をつくり、イスラエルとパレスチナが国家として隣接し、共存するという意味で、「2国家解決法」と呼ばれるものだ。レベンタルさんが「和平が困難になる」というのは、入植地が建設されることで、西岸が分断され、パレスチナ国家を建設することが困難になり、「2国家解決法」が実現不可能になるという意味だ。
 

ヨルダン川西岸の地図
 

 

イスラエル政府が認めた入植地だけで西岸に121カ所ある。それ以外にイスラエル政府さえ認めていない違法な入植地が約100カ所あるという。それは西岸の丘の上に、「キャラバン」と呼ばれる仮設住宅をつくって、広げていくものだ。多くは、パレスチナ人の私有地に勝手にできて、増殖し、キャラバンから通常の入植地としてなし崩し的に認知されるものもある。グローブの記事(本編01Part2)で取り上げたミグロンはその代表例だが、他にも数多くのキャラバンがあり、レベンタルさんら入植地監視チームの重要な仕事は、新たな違法入植地を発見し、パレスチナ人の地主とともに裁判所に建設停止や撤去を求める裁判をおこすなど、対抗措置をとることだ。

レベンタルさんは高校卒業後、3年間の徴兵を終え、いまはヘブライ大学の学生だ。超正統派のユダヤ教徒の家に育ったが、宗教的な生活ではなくて、世俗的な生活を求めて、軍隊に入った。「ところが、イスラエル軍はパレスチナ人の土地を占領し、彼らの生活を抑圧していることを知り、それを告発する『沈黙を破る』という運動に参加した」という。「沈黙を破る」は、2004年にヨルダン川西岸での兵役の体験を告発し始めたイスラエル軍将兵たちのグループだ。<※同グループについては、ジャーナリスト土井敏邦著「沈黙を破る」(岩波書店)に詳しい。>

レベンタルさんはピースナウが2006年10月にまとめた報告書を出してきた。
「入植地の4割近くはパレスチナ人の私有地です。イスラエル政府は入植地の土地は公有地で私有者はいないと言っているが、実際にはそうではない」
報告書によると、全入植地の39%がパレスチナ人の私有地だという。エルサレムから車で15分ほどの西岸にある大規模入植地のマーレアドミムは86.4%が私有地、違法な入植地のミグロンは100%が私有地とある。全くの私有地に、突然、入植者がやってきて、土地をフェンスで囲って、40棟ほどの仮設住宅を建てて住み始める。

ピースナウは、パレスチナ人の地主とともに違法入植地を撤去する訴訟を裁判所に起こし、裁判所が撤去の命令をだした。しかし、イスラエル政府は未だに撤去を命じず、イスラエル軍は撤去するのではなく、入植地の警護のための兵士を24時間体制で派遣している。私は2002年にイスラエル軍の予備役を拒否する青年たちにインタビューしたことがあるが、彼らが西岸での軍務を拒否する大きな理由が、「西岸のイスラエル軍の任務が、入植地の警護や入植地につながる道路の検問であり、それは国を守るための任務ではない」と考えるからだった。
(次頁へ続く)

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