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インタビュー 世界遺産とのつき合い方

[第4回] 観光は両刃の剣。経済発展の反面、遺産の姿を変える危険も Part1

フランチェスコ・バンダリン ユネスコ世界遺産センター所長

「世界遺産」の登録が始まって30年。数の不均衡や政治との関わりなど、制度を取り巻く諸課題について、ユネスコ世界遺産センター(世界遺産委員会事務局)のフランチェスコ・バンダリン所長に聞いた。(08年12月22日、パリのユネスコ本部で。聞き手・松田史朗)

――世界遺産委員会で、自国の遺産を登録させたい国が外交的働きかけを活発に行っている、と言われています。
バンダリン  どの国でも、自国の遺産を登録させたいのは当たり前のことです。他の国に対して色々働きかけることはあるのでしょうが、私はそれを知りません。多くの外交官がいるわけですから、その集まりの中でいろんな交流があることは否定できませんが、それは仕方がありません。しかし、審査が公開の討論で行われるということが重要です。満場一致でなくても、3分の2の賛成がなければ登録は行われません。基本的に登録されてもしかるべきだということを大半の国が思っていなければ登録されないのです。重要なのはどれだけその候補に価値があるかということ、そして、それが実際にきちんと保全されることが大事です。

――世界遺産が欧米先進国に多いという問題が指摘されています。

フランチェスコ・バンダンリン・ユネスコ世界遺産センター所長

バンダリン  だいぶ前からある問題です。我々は南の国の登録を増やそうとする措置も取っています。一つは、年間登録数の上限を決めるということと、もう一つは南の国の登録を支援することです。

年に2カ所しか申請出来ないという上限を設けることによって、北の先進国などが申請をどんどん出すことを防いでいるわけです。それと同時にユネスコの予算を、登録申請がなかなかできないような国に対する支援に使っています。この措置は確かに問題解決にプラスではありますが、南北間の不均衡というのが解消できたわけではない。南と北の比率は最初とあまり変わりません。

「南北格差」が解消されない二つの理由

――なぜ変わらないのでしょうか?
バンダリン  理由は二つあります。ヨーロッパ、日本、カナダ、アメリカ、オーストラリアなど先進国では、登録に向けて推薦書を売り込むお金も技術もあります。そういう国はきちんと調べて、遺産を提案する。きちっとした形で推薦書が出てくるものですから、通ることが多い。一方、途上国は世界遺産条約を調印したのが遅く、提案するための時間が少ないことも考えなければならない。当然のことながら、そうすれば数が少なくなるというのは当たり前です。遺産条約を調印してからどれだけたったのかをよく見て頂きたいです。
多くの南の国は、90年代になって世界遺産条約を批准したため、フランスとか英国のように最初から批准している国ほど数がないというのは当然です。そのためこの不均衡はまだ続いています。私は個人的に、地理上の不均衡は第一の問題だとは思っておりません。
世界遺産のカテゴリーを見たら、そこにも不均衡があります。
例えば歴史的な都市というのは、非常によく登録されています。250以上あります(世界遺産は、全部で878ある)。文化遺産は160。文化遺産の40%を都市が占めており、非常に多い。しかし、先史時代に関してはあまりにも少なすぎると私は感じております。

雪と氷に囲まれた知床半島

古代以前の先史遺跡は25しかありません。本当の先史時代の考古学的な遺産はわずか四つぐらい。先史時代は時間的に非常に長い。20万年前から人類があることを考えれば、先史時代はその中の大半ですから、人類の世界遺産ということなら、ここの部分をもっと取り上げるという、そういう考え方もあってもいい筈です。
現代の世界遺産も少ないです。19世紀、20世紀の世界遺産は非常に少ないです。産業考古学と言われる部分で、20件程度しかなくて、後は都市建築のレベルで20件。19世紀、20世紀を合わせて過去200年で20件ぐらいしかない。これはあまりにも少ないという考え方は当然ある。
自然遺産を見ると、森の遺産があります、アジア、アフリカ、アマゾンなどで。しかし砂漠の遺跡は非常に少ないです。砂漠の遺跡は十分に認定されていません。海洋遺跡も登録が少ないです。オーストラリアの珊瑚(さんご)礁の他にはあまりないです。地理的なレベルで不均衡だというよりももっと大きな不均衡があります。
結局、世界遺産と認められるだけの価値のあるものだけを見つけてきて認定するということが「世界遺産」の意味です。しかし、それは国によって決められるために、地政学、国際政治のパワーが過剰に出てくる。よって配分がおかしいという議論が出てくるんだと思います。

委員会の議席配分、新制度を検討中

――世界遺産委員会の委員国は21カ国ですが、この議席の配分を巡り、途上国と先進国で意見の対立があります。先進国は現状維持を主張し、途上国は地域グループごとに議席を配分すべきと主張しています。
バンダリン  世界遺産条約には、どこの地域にどういう数をという規定はありません。

――地域グループごとに議席配分しない方がいいというお考えでしょうか?
バンダリン  私は世界遺産委員会のために働いていますが、これは委員会が決めることなので、それによって私の意見を言うことはできません。地域グループというのは世界遺産委員会にはないです。しかし、均衡の取れた代表から成り立つということは条約には載っている。あらゆる地域が代表を出している形が普通です。日本、オーストラリアなどという国は非常にアクティブな活動をしているから、自分の国の代表を送りこもうと、常にそういう風に動いています。北の方の代表が結果的に多いという形になってしまっている。ただ、過半数を経て、自由選挙をして通ったわけですから、公的な選挙で選ばれた者を批判することはおかしい。
しかし、2007年にこの制度は失敗した。なぜかというと、一つの地域の代表が出なかったからです。それがロシア・東欧です。結局、十分その選挙の準備が出来てなかったために他の国に敗れた。自由投票ですから、そういうことは結果としてはあり得ます。しかし、ロシアから中央アジア、東欧と、これだけ大きな地域の代表が一人もいないというのは大変良くない。このため、新しい制度を考え始めたわけです。現在、議論中で、日本の近藤誠一・前ユネスコ代表部大使が新しい仕組みを検討する部会の委員長です。この部会で出された勧告が今年6月のセビリア世界遺産委員会にかけられ、それで10月のユネスコ総会にかけられる形になる。まだ結論は出ていません。

――08年の世界遺産委員会からの新しい委員国21カ国に、アラブから5カ国も入り、議席配分の均衡が崩れたと言われます。世界遺産委員会の中でもアメリカ・イスラエル連合とアラブ諸国が対立する構図だといいますが、どうお考えですか?
バンダリン  私はそういう風に見ておりません。

――そういう対立はない、と?
バンダリン  五つのアラブの国と言いますが、これは皆同一の行動を取ってるわけではありません。もちろんイスラエルに対しては自然にそういう風に動くわけですが。
イスラエルの遺産で「テル・ダンの三重のアーチ門」というのがあって、最も古いアーチということで、考古学的に非常に価値のあるものですが、これが08年に提案されて、アラブ、特にヨルダンは「テル・ダンというのは国境が明快でない地域に属している」という主張を行った。ご存じの通り、イスラエルとの国境については今もなお議論があります。結局、翌年までに追加の情報を出すという形で昨年は登録されなかった。今年どうなるか見ましょう。

――結果的には、その国境線が明快でないとの主張が受け入れられ、今年に持ち越したと理解してもいいのでしょうか?
バンダリン  国境の策定をする権限が世界遺産委員会にあるわけではないので、このテル・ダンが確実にイスラエルにあることを証明するものを出してください、という形になった。国境にからむ世界遺産の問題は今までにも例がある。例えば10年前にカラコルムの世界遺産登録についてインドとパキスタンとの間で同様の問題がありました。そのカラコルムがこの二つの国の領土紛争地域であったため、世界遺産委員会は決定を下すことができず、登録を延期した。昨年、カンボジアのプレアビヒア寺院の登録についても似たような問題がありました。その場所の主権が発生するのかという点で問題になりました。
(次頁へ続く)

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