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欧米寄りの登録基準。数の不均衡。審査の政治化。世界遺産委員のポストを巡る欧米と途上国の対立。「世界遺産」を巡る課題は尽きない。アジア人初のユネスコトップとしてユネスコ改革に取り組んで10年。今年11月で任期を迎える松浦晃一郎事務局長に聞いた。(2008年12月22日、パリで。聞き手・松田史朗)
――世界遺産の数はいまだに欧米が半分を占めています。

松浦 そもそも世界遺産は「顕著な普遍的な価値」を持つ、というのが定義です。第1条で規定してある対象が、「モニュメント」、「建造物」、「遺跡」。要するに西欧にあるモニュメントや建造物を世界遺産にしようというところからまず始まり、解釈が狭いからと遺跡を付け加えた。自然遺産はむしろアメリカの方から来たわけです。文化遺産は西欧、自然遺産はアメリカが推進してきた経緯があります。
1992年以降、世界遺産の地域拡大は成功しています。186の加盟国のうち、世界遺産を持っている国は145に増えました。ただ、非西欧国の登録が増えた一方で西欧も増えているので、西欧の比率は変わらず高いままです。
石で出来ているから、風化されずに残るという利点もあります。日本の建造物に多い「木」やアフリカの「土」だと、限界がある。残ること自体は良いことですが、結果的にどうしても石の文化が世界遺産になりやすく、木や泥の文化がなりにくくなります。
日本が音頭を取って、94年に奈良で専門家会議が行われました。そこで採択された通称「奈良文書」で、木の文化、土の文化の価値も認めるようにしました。同じような材料で同じような技術で同じようなデザインで作ったものは認めよう、ということでね。「文化的景観」の概念を認めたように、日本語で言うと「真正性」の定義を、日本が音頭を取って解釈を拡大した。しかし、それでもまだ、石の文化に有利なんですね。西欧の文化遺産がどうしても増えてきてしまう。
――世界遺産の登録数の抑制方針について。事務局長は以前から「各国の提案数は年あたり1国1件、全体で30件」と提案されています。これに対し、世界遺産委員会の反対は強く、その案は現在、採用されていませんね。
松浦 世界遺産条約、作業指針に従って専門的にしっかり審査していく、グローバル戦略をしっかりやっていく。この2つが確保されれば、本来、上限のしばりはいらないのかもしれません。

にもかかわらず、僕がしばりを言い続けているのは、そうはならないからです。しばりという全体の枠組みをそこで作らないとうまくいかないと思っているから前から言っているんですけど。だけど、あまりポピュラーな考えではないのです。
――ある程度の「しばり」が必要だというのは、どんどん増えてしまうからですか。
松浦 まさに、西欧の世界遺産が増え過ぎるということなんです。フランスは自粛しましたが、残念ながらイタリア、スペインは自粛していない。彼らは40以上の(世界遺産を)持っている。でも、国の中の地域から見ると、まだ候補があると。つまり候補がまだたくさん残っているわけです。中国も暫定リストに200以上の世界遺産候補が載っています。上限を決められたら困るという意識が強いわけです。
――そうした数の不均衡は世界遺産を決める世界遺産委員会の構成にもよるのではないかという考えから、委員国ポストを世界の地域グループごとに振り分けるべきではないかと途上国は言っています。この議論をどう見ていますか。
松浦 世界遺産条約の第8条に「世界遺産委員会の構成国の選出にあたっては世界の異なる地域、文化が衡平に確保される」とあります。つまり、委員会は地域的な公平さを考えると規定しています。ところが、地域的な公平さというのは、一般論で捉えているだけで、数字化していないのです。
委員国ポストは21ありますが、これを地域にどう割り振るか。実は公平さを確保するという規定がある一方で、世界遺産条約の第9条には「委員国は資格のある者を選定する」とも書いてあるんです。つまり、専門知識を持った人を(委員に)選ぶことになっているので、地域で機械的にポストを分けるのはおかしいじゃないかという反論も招いています。まあ、実際には、必ずしも専門的でない人もかなり入っていますけどね。
ただ、結果的に、委員の構成国に占める西欧の割合がやはり高くなっています。同じことが諮問機関のイコモスにも言えます。イコモスには日本も中国も専門家がメンバーで入っていますが、やはり西欧中心の専門家に牛耳られているんじゃないか、という批判があります。
委員会では、ちょうど今、地域でいうとロシア・東欧グループから出ている委員がゼロなんです。結局、委員国は選挙で決めるので選挙の強い国が選ばれるためそういうことも起こりえます。世界遺産に熱心で、いい専門家がいても、選挙に弱い国は選ばれないのです。これは検討しなければいけない課題です。
一方、僕が推進した「無形文化遺産」は委員国数を24にして、委員国数にも上限、下限を設けたんです。条約の批准国数は地域ごとにデコボコです。アフリカからは多くの国がこの条約に加盟しているが、欧州は少ない。無形は世界遺産とは全く逆。非欧州が多いのです。
(次頁へ続く)