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インタビュー 世界遺産とのつき合い方

[第2回] ロビイング圧力に負けぬ公正な登録審査が重要

ベラ・ラクイエ セントルシア元世界遺産委員

世界遺産登録をめぐる政治的な働きかけをどう考えるか。「公正化」を求めているというベラ・ラクイエ氏に聞いた。同氏は、カリブの小国・セントルシアの世界遺産委員を01~05年に務め、03年の第27回世界遺産委員会の議長も務めた経験がある。(08年12月22日、パリのユネスコ本部で。聞き手・松田史朗)

――ベラさんが世界遺産委員だった時、政治的な働きかけを行う国はありましたか。
ラクイエ かなり多くの国が、ロビイングをしています。中には、重荷になるぐらいのプレッシャーをかけてくる場合もあります。しかしながら、世界遺産委員会のメンバーの中には、そういったロビイングに対して抵抗する人たちも少なくありません。

ベラ・ラクイエ氏
ベラ・ラクイエ氏

――ロビイングは登録の局面で行われるのでしょうか?
ラクイエ 登録だけではなくて、保存についても、プレッシャーやロビイングがあります。たとえば世界遺産の真ん中に政府が高いビルを建てたいという時に、世界遺産委員会はそれを危機リストに載せようとする。それを載せさせないという、そういうロビイングもあります。

――具体的に、どのようにプレッシャーをかけるのですか?
ラクイエ ある委員会の会議で、名前は出しませんが、ある国の代表が、委員がちょっと動くたびにすぐやってきて、「自分の国の××遺産がいかに重要であるか」と言うので、トイレに行くことさえできなくなり、ハラスメントのレベルに達していました。会議が始まる前に委員を捕まえて「諮問機関の評価が間違っている」と言う人も多いです。

――プレッシャーをかけられた時、たとえば外交でその国を支援するお金を出すとか、そういう交換条件を出されたことはありますか?
ラクイエ そういうことはあり得ないです。

―― たとえば委員の間で、自分の国の遺産の登録を支えるために「あなたの国の遺産は認めてあげます」と、お互いにでた場合にはお互いに認めましょうというようなやり取りで取引を持ちかけられたことはありますか?
ラクイエ 中国の蘇州(で開催された04年の世界遺産委員会)、そして南アフリカのダーバン(で開催された05年の世界遺産委員会)の両方でありました。私は「世界遺産委員会に議席を持っている国は、自分の国の遺産の登録申請をしない」という提案をしました。2回とも相手にされませんでした。委員たちは受け入れなかったのです。反対した委員たちは「自分が提案した遺産(サイト)があるからと言って、他の国の遺産に対する客観性を失うことはない」と言います。しかし、問題は、自国の遺産を登録させることが優先事項になり、他の遺産を批判することが難しくなることです。そのために、パリで04年に開催された特別会合で、なぜそういう代表を出している国が新たな申請をしてはいけないのかについて、私は非常に長い主張を行いました。でも、提案は通らなかった。この問題に対処する他の方法があると信じている人もいます。

――ロビーイングをする国で、特に悪質な国、目立つ国はどこですか?
ラクイエ 他の国々より盛んにロビイングしているとして目立つ国がある、ということはできないくらいです。

――ロビイングによる審査への悪影響を防ぐには?
ラクイエ IUCN(国際自然保護連合)とイコモスの二つの諮問機関の査定が、事実と証拠に基づき、明確なリポートを伴ったきちっとしたものであることが重要です。なぜかといえば、諮問機関がその遺産に「普遍的な価値がない」ということをはっきりさせているのならば、(諮問機関の)勧告を変えるのはより難しくなります。

問題なのは、世界遺産委員会内部での亀裂です。南北間で対立するという傾向が出てきていることです。委員会の内部で、南側の国は登録された世界遺産の数が少ないために、なんとしても登録しようという、そういう力が非常に強くなってきています。一方、北側の国々の中には、世界遺産リストに(自国の名が)頻出するのに、さらに登録し続ける国々もまたあるからです。そのために、委員会内部での緊張感が高まっています。世界遺産委員会が注意すべきことは、遺産として全く価値のない物を登録した時点で、世界遺産リスト自体が信憑性を失ってしまう、という危険です。これを防ぐには、技術的専門性に基づいて判断しなければなりません。政治的な動機によって(登録が)決められてはならない。世界遺産条約をよく見て頂ければ分かると思いますが、委員国は「資格のある者」、つまり専門家を選ぶと書いてあります。

――ベラさんの国ではロビイングはしないのですか?
ラクイエ 私の国では、いままで世界遺産には1カ所しか登録されていません。私の国がそのたった一つの遺産の世界遺産登録を申請した04年、私は世界遺産委員会の委員でした。その時、まるで、くつわをはめられたような状態になりました。つまり、登録リストに載せるのかどうかまだ分からない他の国の遺産に対して批判的な意見を一切言えなくなったのです。私自身の実際そういう経験から、他の委員が言う「(公正な審査と)自国が遺産を提案しているかどうかは関係ない」ということはあり得ない、と主張しましたが、ダメでした。

――最近、世界遺産委員会での議論で決着がつかずに、秘密投票、つまり委員間での無記名投票を行うケースが増えていると聞きます。ベラさんがおられた時、秘密投票はあったのでしょうか。
ラクイエ 私が委員だった時は、秘密投票はありませんでしたが、私は秘密投票に大いに賛成です。なぜかというと、プレッシャーというのは、目に見える形でなくてもあるからです。代表メンバーが友達である国の遺産に反対するのは難しいということは、私も認めます。(投票結果を公にしない)秘密投票は(公正を保つ上で)大いにプラスだと私は思います。

――世界遺産は以前と比べ、どう変わりましたか。
ラクイエ 何が変わったかと言えば、世界遺産リストに登録された遺産がもたらす経済的な利益や、発展に与える影響が、どんどん重要になってきているということです。これが最大の変化です。重要なのは、それを審理する側もガラス張りで評価して登録するという作業を自分自身の責任で公正に行うことです。世界遺産委員会の中で私は人気のない委員であります。なぜなら、こういう意見を持っているからです(笑)。

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