TOPへ
RSS

インド「頭脳外注」03 この大国の力を日本が生かす道

[Part2] 日印の「頭脳交流」、ハイブリッド協力の芽も

「インディアンドリーム」学術面では日印の「頭脳交流」が新たな展開を見せている。

IITは現在、計8校の新設計画を進めているが、日本は、インド南部にあるハイテク都市のひとつ、ハイデラバードでの開校に協力している。米、英、フランスも他校での協力に関心を示している。

ハイデラバード校では、大学院の開設計画に日本の9大学(東京、東北、名古屋、大阪、京都、九州、早稲田、慶応、立命館)が参加している。IITは学部の基礎教育に定評があり、優秀なIT技術者が多く輩出している。だが、インドでは科学分野のノーベル賞受賞者はまだ少ない。大学院と研究部門の強化が大きな課題だ。

IITデリー校
深い森の中にあるIITデリー校。IITをめぐって、日本を含む先進国が知的協力を競い合っている=ニューデリーで、竹内幸史撮影

両国でつくる作業部会が考える協力分野は、(1)環境・エネルギー(2)デジタル通信などIT(3)工業製品などの設計(4)ナノ・テクノロジー(5)都市工学??の五つ。環境・エネルギーでは日本の得意技ともいえる省エネ、公害対策に力を入れる。

IT分野での協力を立案する村井純・慶大教授によると、IITは数学力と基礎科学の力を武器に世界最高水準のソフトウエア開発力があるが、工業製品のエンジニアリング分野ではトップとは言いにくい。その点、日本は製造技術や部品開発に強みがある。「インドのソフトウエア開発力と、日本のハードパワーを合わせた『ハイブリッド』の開発力がこれから大事になってくる」と期待をかける。

日本企業も、スズキ、トヨタ、ソニーなど7社が協力に名乗りを上げている。日立製作所は学部で日本の先端技術についての連続講義を開き、そのほかにも森精機製作所はインド人学生に奨学金支援を始めた。

日本側は日本語講座の開設も検討中だ。同校から学生や教員を日本に招き、ハイデラバードを日印大学交流の一大センターに、という夢を描く。

協力の中心になっている東大の平尾公彦副学長(工学部教授)によると、東大に世界から集まる留学生は2400人以上。だが、インドからは学部・大学院を含めてわずか10人程度。インドは世界に約14万人の留学生が出ているが、行き先は米英が大半で、日本には1%程度。「世界の大学では優秀な人材の奪い合いが起きている。インドは理数系に強い人材大国であり、米中の次の超大国になる。日本の大学としても、インドとの長期的な交流が必要になっている」と語る。

こうした「頭脳交流」が「日印人脈回廊」を築き、インドへの「頭脳外注」の拡大につながるとも考えられる。

日本人の英語論文添削
年間1万件


カクタス・コミュニケーションズの職場
カクタス・コミュニケーションズの職場=ムンバイで、竹内撮影

学術面で、すでにインドへのアウトソーシングが進んでいる事例もある。

ムンバイ北部のビルの一角にあるカクタス・コミュニケーションズでは、日本の学者の英語論文を添削・校正するサービスを受注している。約160人の社員は医学、薬学、化学など専門知識を持ち、日本から送られてくる論文の分野に応じた対応ができる陣容を整えている。アビシェク・ゴエル副社長によると、世界の学会で過去10年に発表されたあらゆる分野の英語の論文数は、米国(290万件)に次いで日本(79万件)が2位。

日本との知的協力をビジネスにしたカクタス副社長の
アビシェク・ゴエル=ムンバイで、竹内撮影

ところが、参考材料として言及される件数では、日本は米英独仏に次いで5位。「このギャップを改善するには、英語の表現力を向上させることです」とゴエル副社長。日本の主要大学や書店の紀伊国屋と提携し、年に1万件もの論文を添削・校正している。

試しに記者が、国際政治に関する英語のプレゼン用原稿(A4で10枚)の添削を頼んだところ、週末をはさみ6日で完成版が返ってきた。料金は2万円余りだった。

(文中敬称略)

取材記者略歴
竹内幸史(たけうち・ゆきふみ)
56年生まれ。経済部デスク、バンコク、ニューデリー特派員などを経て編集委員。
吉田文彦(よしだ・ふみひこ)
55年生まれ。ワシントン特派員、ブリュッセル支局長などを経て、論説委員。
池田伸壹(いけだ・しんいち)
65年生まれ。政治部、ニューヨーク特派員などを経てGLOBE記者
写真協力
齋藤亮一(さいとう・りょういち)
59年札幌市生まれ。日本大学芸術学部卒。三木淳氏に師事。雑誌で人物、風土などを撮る一方、世界の名もなき人々の姿を撮ることをライフワークと考え旅をしている。主な写真集に内戦後の旧ユーゴとその周辺国を追った『BALKAN』(スピーチ・バルーン)、ソ連邦解体後の独立国を回った『ゆるやかなとき』(北沢図書出版)、中国の消えゆく街角をとらえた『Lost China』(窓社)。近著に『INDIA 下町劇場』(清流出版)がある。
http://www.saitoryoichi.com/

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

世界のどこかで、日本の明日を考える 朝日新聞グローブとは?

Editor’s Note 編集長 新創刊のあいさつ

このページの先頭へ