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インタビュー&搭乗記 線路は続くよ、どこまでも。

[第2回] 欧州自由化を進める3人に聞く

鉄道自由化にかかわる欧州の関係者3氏に、統合における課題と障害について話を聞いた。(聞き手・後藤絵里)

イグナチオ・バロン 国際鉄道連合(UIC)高速鉄道局長

最大の障害は、インターオペラビリティー(相互運用)です。鉄道の世界では、信号や電力システムなど、異なる技術の規格を持った国同士で直通列車の運行ができるようになることを意味します。

私の出身国であるスペイン、イタリア、フランス、ドイツ、どこをとっても、それぞれ鉄道システムが異なります。UICや欧州委員会は高速鉄道網の延長を進めていますが、それにはこの問題をクリアしなければなりません。

たとえばパリとロンドン、ブリュッセルを結ぶ特急ユーロスターの車両の鼻先は黄色く塗られているでしょう? あれは、デザイン上そうしているのではなく、イギリスでは「鉄道車両の前面の少なくとも40%を、黄色く塗らなければならない」という決まりがあるからなんですよ。ユーロスターが細身なのも、イギリスは大陸の国々に比べて、車体幅の狭い規格を採用しているので、直通運転するためにはイギリスの狭い規格に合わせる必要があったのです。

イグナチオ・バロンUIC高速鉄道局長

また、07年6月にフランスのTGVとドイツのICEが相互に乗り入れしましたね。どちらも高速専用車両ではあるものの、相互乗り入れができる規格を備えた車両は限られます。ドイツには約70編成のICE(特急)車両がありますが、フランス国内を走れるのは4~5編成しかないはずです。
つまり、鉄道の線路の幅、信号、車両の長さ、細かなところまで国によって違うので、国境をまたいで高速鉄道を走らせるためには、その国の技術標準に車両も適合させないとならない。これは大変な作業を伴います。
現在すでに欧州内で原則自由化されている貨物鉄道は、A国からB国に入る場合、国境で先頭の機関車を付け替え、運転士も交代します。しかし旅客鉄道は、動力源が各車両に分散しているのでこれができない。車両自体を改変しないといけません。

信号システムも違います。鉄道はスペインでは右側通行、フランスでは左側通行です。接続するために、国境では上下線が立体交差しています。同じ国の中でも、在来線と高速専用線で違います。たとえばパリ~ベルギー~ドイツ・ケルンを結ぶ特急タリスでは、3つの国に在来線用と高速線用の2タイプの信号があるので、始発から終点までの間に実に多くの異なる信号システムに適合させていかないとならない。

こうした点を乗り越えるためにどうするか。欧州の鉄道統合においては、国をまたいでオペレーションする場合、最低限必要な技術標準「TSI」を満たすことが条件となります。インフラや車両について細かく定められており、現在、欧州委員会などが中心となって技術のすりあわせを急いでいます。

ミレーユ・フォージェ フランス国鉄高速旅客鉄道担当CEO

インターオペラビリティーこそ欧州の鉄道統合を議論する要のテーマですね。鉄道に関する自国の戦略がある一方で、欧州全体のビジョンを描くのは自然には起こりえない。鉄道統合を進めるためには、各国で意識的にインターオペラビリティーを検討しないとなりません。

すでに欧州標準となる「ERTMS(欧州鉄道交通マネジメントシステム)」の採用が決まっています。欧州を走る高速車両はこのERTMSを搭載していなければなりません。インフラについては、まず線路幅の統一です。線路幅には国際基準があるのですが、スペインだけ広いのです。2012年にフランスと高速鉄道で連結されるのに合わせて、欧州基準の狭い線路幅に改修される計画です。統合に向けては、各国とも多大な投資が必要なのです。

ミレーユ・フォージェ仏国鉄高速旅客鉄道担当CEO

各国の車両が線路を走るときの「使用料」についても、調和が必要です。線路使用料は国によって大きく違い、理念や原則も統一されていないので、欧州全体の投資計画を立てる際の障害になっています。統一基準があれば車両投資を決断しやすくなる。何しろTGVは1編成が2500万ユーロもしますからね。全体でどれだけのコストがかかるかを計算する必要があります。

タイムテーブルの調整も大事です。パリ~ミュンヘンをつなぐときは、フランスとドイツで運行時刻表を調和させないといけませんが、ドイツは国際輸送より国内輸送をより重視する傾向があり、全体として長距離鉄道輸送の強みを生かしきれていません。

ERTMSを搭載することについては、フランス国内で議論になりました。国内線まで搭載を求められたからです。ただ、それは避けられないことです。なぜなら「フランスの鉄道は欧州の鉄道でもある」からです。リヨンを走ろうがボルドーを走ろうが、つねに「欧州」を意識するべきであり、それが欧州人のマインドセットというものです。

ヤン・シャープ 欧州委員会首席事務官

鉄道市場を開放するとき、当然ながら、参画する国々は安全性でも一定の水準をクリアしていなければなりません。私たちは「民営化の失敗」と呼ばれる英国の事例をよく覚えています。英国は国営の鉄道事業を運行部門とインフラ部門とに分離しましたが、インフラ会社はふつう国営の独占企業です。複数の会社がおのおの線路を引くことは経済合理性に欠けますから。ところが英国ではインフラも民営化してしまった。

ヤン・シャープ欧州委員会首席事務官

民間企業であるインフラ会社は、安全性確保のための保守点検や改修を二の次にして、収益を株主への配当に回してしまった。もう一つの問題は、インフラ会社が契約する運行会社に対してチェック機能を欠いていたことです。つまり、路線運行の安全性に対する責任を誰もとらなかったのです。

欧州委員会では、鉄道の安全性に関する基準やインターオペラビリティーに関する基準の整備を進めています。これは決して新しいテーマではありません。高速鉄道システムにおけるインターオペラビリティーの問題に、最初に取り組んだのは1969年のことです。

エネルギー、車両、インフラ、信号システムなど、インターオペラビリティーではいくつもの技術のすり合わせが必要です。しかも、それは日々進化している。フランスやドイツなどの鉄道先進国と、東欧諸国など旧社会主義国とでは技術のレベルも違いますから、絶え間ない調整が必要です。このため、05年には欧州鉄道庁を設立し、技術的な視点からの調和を図っているところです。

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