

あれから4年たちました。「グーグルニュース」のように「EPIC」に近いものも生まれています。
確かに。ただ、グーグルニュースはニューヨーク・タイムズやBBC、朝日新聞といった既存のメディアが配信するニュースを集めているにすぎない。僕が考えたEPICは、これらに加えて「マイブログ」や「フェイスブック・フィード」なんかも包括する、もっと広範なものを意味しているんだ。 従来のメディアは、自分たちを通してみんなに同じ世界を見せる。でも現実社会ではみんな違うことに興味がある。もちろんそれらはオーバーラップもしているんだけど、基本的にEPICは、それぞれの関心事を拾って組み立てたパズル、頭の中に沿った地図のようなもので、人ごとに違う世界を見せてくれる。それも、新聞を読むように簡単にね。今出てきているものは、まだ使い勝手が悪いと思う。
ネット上の情報には質のいいものも悪いものも混在しています。
![[第5回]インタビュー だれが「リポーター」か。見極めるのは消費者側になる―「EPIC2014」の作者、ロビン・スローン氏](images/img_side_05_01.jpg)
だから「最良の時代、そして最悪の時代」なんだ。もしまじめに洗練されたニュースを集めようとすれば、それはすばらしいものになるし、そうしたものに興味がなければ、つまらないガラクタ情報の集積にしかならない。EPICは世界を二極化するんだよ。それは認める。
ネット情報のほとんどは2次情報ですね。質の高い1次情報を提供する伝統的メディアの存在がもっと認められてもいいのでは。
ブログやフェースブックに、調査報道や外に出かけていって複雑な事象を掘り起こしてくる力が欠けているのは事実だ。ただ、じゃあ最近の新聞やテレビのニュースが調査報道的かというと、そうでもないんじゃないの?(笑い) プロフェッショナルは必要だよ。ただ、僕は一般の人、普通の人たちの力を過小評価はしない。実際、彼らには相当なことができるようになっている。
ネットから「ウォーターゲート事件」のようなニュースの発掘ができると?
いい質問だね。「トーキング・ポインツ・メモ」はいい例だと思うよ。初めは若いジャーナリストが政治ブログを書いているだけだったけど、今は記者を雇ってさまざまなニュースを発掘している。彼らはまさに(ワシントンポストの)ボブ・ウッドワードやカール・バーンスタインが70年代に担ったような仕事をしている。違うのは、彼らの表現の場がネットであり、新聞やケーブルテレビとはつながっていない点だ。
伝統的なメディアはもう消えるのみ、ということですか。
僕は「絶対に」とは言いたくはない。例えば、今年の大統領選だ。みんなで共有できるニュースを流してくれた。ブログでもそうした取り組みはなされたけれど、まだ小さな存在だね。 ただ言いたいのは、これまでは「記者」になろうと思ったら、新聞社などの伝統的なマスメディアに入るしかなかった。でも今後は、いろんなタイプのリポーターが存在するようになるよ。なかには別の仕事をしながらかかわる人もいるだろう。フルタイムでリポーターをやる人もいれば、20%だけ、50%だけ、という人も出てくる。だれが「リポーター」であり、だれは違うのか。ニュースを消費する側がこれを見極めることになる。
ネットがドラマや音楽に与えた影響も取材しています。ユーチューブで展開されたブログドラマ「ロンリーガール15」は知ってますよね?
もちろん! EPIC時代ならではのエンターテインメントだ。
素人がつくっている動画だと思ったら「やらせ」だったことで逆に話題になりました。ネット上には質の悪いブログビデオもあふれています。にもかかわらず多数決、人気投票で順位が決まってしまう。良質なコンテンツが駆逐されてしまう心配はありませんか。
テクノロジーの進歩は常にいいところと悪いところを内包しているものだよ。
しかし、プロがつくる番組や音楽の商品価値は下がってしまいました。
脚本家や作曲家にとっては確かにつらいことだね。でも一方でより多くの人が脚本家や作曲家になる可能性をもてるようになった。何十年も、一部の人たちだけで「メディアの作り手」を独占してきたけど、もはやそうではなくなった、ということ。
今後をどう描きますか。グーグルを超えるものが出てくるでしょうか。
難しいね。少なくとも今後10年、20年はグーグル以上のものは生まれないんじゃないかな。でも50年後は予想できない。いまこの時点で考えるとすれば、例えばニュースにプレイステーション3やXboxのようなビデオゲームの技術が使われるようになるかもね。イラクのニュースを見るときに、あたかも自分がバグダッドの街中に立っているような気分を味わえるとか。5年以内に何らかの形で現実になると思うよ。
紙のメディアは?
紙(笑い)!そうだね、(自分のiPhoneを指しながら)これがもっと薄くて大きなスクリーン、シートペーパーのようになるかも。そこでは活字だけじゃなくビデオだって見られる。ネットに接続できることが大事だ。本はすでにネット上で読めるようになっている。20年後には「印刷物」はなくなってるかもしれない。
伝統的なマスメディアは何をしたらいいでしょう。
ネット上で成立する新しいビジネスモデルを構築しないといけない。僕が朝日新聞の戦略担当だったら、自分たちでニュースを発掘して配信するだけじゃなく、ネット上の情報を集めて再編集して見せることも始めるよう、アドバイスするよ。
オバマ氏は選挙戦でネットを巧みに利用しました。ネットは政治も変えますか?
サンフランシスコという街はいつも何かの実験が行われている不思議なところなんだ。一方で政治は、進化の過程でいつも後ろのほうをウロウロしている。国民ががんばっていても、亀のように動かない。そんな中で、オバマはとりあえず手を突っ込んでみるタイプだ。彼はネットを通じて僕の心をつかんだ。彼が政治を進化させることを期待しているよ。
50年後、私たちは幸せになっていると思いますか。
イエス。だって、自分の興味があることに簡単にコネクトできるようになるんだから。ただし、賢くなっているかどうかはわからないよ。
(文中敬称略)