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映画クロスレビュー

『ラブレス』ー「愛」の欠落した世界 ロシア監督描く

[第138回]

©2017 NON-STOP PRODUCTIONS – WHY NOT PRODUCTIONS

藤えりか記者によるアンドレイ・ズビャギンツェフ監督へのインタビューをGLOBE「シネマニア・リポート[#87]に掲載

Photo:Koshida Shogo


みどころ

モスクワで美容院を切り盛りするジェーニャ(マルヤーナ・スピヴァク)と大企業勤めのボリス(アレクセイ・ロズィン)夫婦は離婚協議中。ジェーニャには年上の裕福な恋人が、ボリスには妊娠中の若い恋人がおり、新生活を始めるため12歳の一人息子アレクセイ(マトベイ・ノヴィコフ)を押しつけ合う。ある日、学校に行ったはずのアレクセイが行方不明に。捜索が始まる中で、夫婦はなおもののしり合う。(2017年、ロ・仏・独・ベルギー、アンドレイ・ズビャギンツェフ監督、7日から順次公開)




©2017 NON-STOP PRODUCTIONS – WHY NOT PRODUCTIONS


Review01 樋口尚文 評価:★★★★(満点は星4つ)


はびこる「無感覚」の荒野


現在のロシアの富める人々の暮らしが点描される。モダンな家具に囲まれたマンションに住み、ビジネスでスマホに支配され、レストランではキメキメのセルフィーを撮ってSNSにアップする。だが、この豊かさを手にしたモスクワの上澄みの人びとの内面は、本作でもたびたび登場するロシア的な荒涼たる原野以上の酷薄な感情に占められていた。


ロシアの富裕層であろう離婚寸前の中年カップルが、悪びれることなく(!)エゴイスティックであるところが凄(すご)い。泥臭く人とつながらずに生きていける、他人を人格なき「サービス」として見てしまう時代。そんな時代にはびこった「無感覚」が、透徹したまなざしで描かれる。ラストにニュースでウクライナ危機を見ている人々は、一応いかんともしがたい表情をしてはいるが拱手(きょうしゅ)傍観の体である。そして彼らはわが子の失踪ですら、同種の「無感覚」さでとらえるしかないのである。


ズビャギンツェフ監督は、このロシアを超えた汎世界的な精神状況を、怜悧(れいり)な、そして低温の澄明な映像で凝視する。ベルイマンの『ある結婚の風景』を意識したというが、この美しさと冷たさはむしろロシアのミケランジェロ・アントニオーニという感じであった。



Higuchi Naofumi

1962年生まれ。映画批評家・監督。著書に「大島渚のすべて」「黒澤明の映画術」「実相寺昭雄 才気の伽藍」など。映画「インターミッション」を監督。



(次ページへ続く)

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