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映画クロスレビュー

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』カンヌで監督賞、史上2人目の女性

[第137回]

©2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

藤えりか記者によるコッポラ監督へのインタビューをGLOBE「シネマニア・リポート[#84]に掲載

Photo: Kishitsu Rei














みどころ

南北戦争下の米南部で、女子寄宿学園の園長マーサ(ニコール・キッドマン)は教師エドウィナ(キルスティン・ダンスト)と共に、戦火を逃れひっそり女子生徒5人を教えていた。そこへ脚に傷を負った北軍兵士マクバニー(コリン・ファレル)が転がり込む。女性たちは心をざわつかせ、マクバニーはそれを楽しむかのようにみんなに気を引く態度をとり、秩序が崩れていく。カンヌ国際映画祭で女性として56年ぶり、2人目の監督賞。(2017年、米、ソフィア・コッポラ監督、全国順次公開中)




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Review01 川口敦子 評価:★★★(満点は星4つ)


コッポラ版、優雅な強さ


『ビガイルド』で第70回カンヌ国際映画祭監督賞に輝いたソフィア・コッポラは、受賞の辞でジェーン・カンピオンに感謝を捧げた。なるほどとひざを打った。“女性監督”と特別視する旧態依然の世の中をしり目に女性独自の感性を迷いなく追究する先達カンピオン、その名を挙げたコッポラ自身の映画もまさに“女性”の眼をくっきりと刻み続けているからだ。


その意味では同じ原作に基づくドン・シーゲル監督作『白い肌の異常な夜』と『ビガイルド』とを見比べてみるのも興味深い。南北戦争末期、南部の女子寄宿学校にかくまわれ、女の園の囚人と化す北軍負傷兵。その恐怖を、シーゲル版は彼の主観ショットを交えてどぎつく切り取っていく。女たちの抑圧された性的欲望の対象となる男は、クモの巣にからめ捕られた美しい蝶とも見え、男女の力関係の倒錯を若き日のクリント・イーストウッドのやさ男ぶりが効果的に裏打ちする。


かたやコッポラ版は負傷兵が巻き起こす女同士の関係の揺れにこそ目をこらす。兵士を囲む食卓でのたわいない会話にたくし込まれる見栄や嫉妬。くすくす笑いや小さな仕種が同性だけに感知し得る意味を含んで、変わりなくみえる世界を震わせる。そんな瀟洒な怖さ。やがて女たちは“風と共に去った”美しい世界の秩序を死守せんと扉を閉ざし自らを囲い込む。万人、とりわけ異性には理解し難そうな彼女たちの最後の選択を敢然と示す女性監督コッポラの優雅な強さを支持したい。



Kawaguchi Atsuko

1955年生まれ。映画評論家。著書に『映画の森—その魅惑の鬱蒼に分け入って』、訳書に『ロバート・アルトマン わが映画、わが人生』などがある。



(次ページへ続く)

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