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映画クロスレビュー

『ジュピターズ・ムーン』難民問題 ファンタスティックに

[第136回]

2017©PROTON CINEMA-MATCH FACTORY PRODUCTIONS-KNM

藤えりか記者によるムンドルッツォ監督へのインタビューをGLOBE「シネマニア・リポート[#82]に掲載

Photo: Semba Satoru


みどころ

セルビア難民の少年アリアン(ゾンボル・ヤェーゲル)は辿(たど)り着いたハンガリー国境で国境警備隊のラズロ(ギェルギ・ツセルハルミ)に撃たれる。運ばれた難民キャンプでは医療過誤の賠償金支払いに追われる医師シュテルン(メラーブ・ニニッゼ)が難民を逃がし賄賂を受け取っていた。見逃す代わり発砲もみ消しを頼むラズロ。そんな中、瀕死(ひん・し)のアリアンが自力で治癒し空中に浮かぶ。シュテルンは金儲(もう)けに使おうと考える。(2017年、ハンガリー・独、コーネル・ムンドルッツォ監督、全国順次公開中)



2017©PROTON CINEMA-MATCH FACTORY PRODUCTIONS-KNM


Review01 一青窈 評価:★★★★(満点は星4つ)


「謎の生命体」とともに


初詣で夫の厄よけ祈願をして頂いた。浄土宗のお寺で、釈迦如来像の足元で、南無阿弥陀仏を10遍唱えて終わりとなった。ふと天井を仰ぐと天女が私を見下ろしている。


胎内記憶を語る子どもたちは、天使のいる上空からやってきたと言う。私たちはどこから生まれ、どこに帰るのか。


出産を経験した私にとって、赤ちゃんは「異界」からやってきた謎の生命体。2人目というのに、まこと新鮮で、言葉の通じない相手に発見と気付きの繰り返しだ。日々直面する困難(夜泣き、寝ぐずり、授乳による睡眠不足)と、それを一切帳消しにする幸せ(寝顔、笑顔、存在そのもの)に翻弄されつつ、私たち母子は四六時中ただ向き合い、同じ時を過ごすことでしか得られない理解を深め、信頼と愛情を強固に結んでいる。


ハンガリーが抱える難民問題を実に美しいアプローチで浮き彫りにしているこの映画を見て、私には、監督が「難民を我が子のように受け入れて欲しい」と語りかけているように思えた。異界からやってきた謎の生命体が何者なのか分からなくても、まずは己が出来ることをやれ、と。全てを引き受けることから物事は始まるのだ、と。


かつては私自身が、母にとっては「謎の生命体」であり、難しい者=地球難民だったのだ。共に助け合い、互いに成長することを喜びと言わずになんと呼ぶのだろうか。映画はこうしたファンタスティックで詩的な技法で社会問題を取り上げるべきなんだ! と感心せずにはいられない作品である。



Hitoto Yo

1976年生まれ。父は台湾人。2002年、シングル「もらい泣き」でデビュー。代表曲に「ハナミズキ」など。3月に「一青窈謝音会~アリガ十五~」開催。



(次ページへ続く)

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