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壁がなければ銃弾を―増える自警団から考える「私たち」の移民問題 ~『ノー・エスケープ 自由への国境』

ガエル・ガルシア・ベルナル ⓒ 2016 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.



シネマニア・リポート Cinemania Report [#43] 藤えりか




「国境に壁を作れ!」と意気込むトランプ米政権には目下、壁の建設案が続々と寄せられているそうだ。しかし、民兵の歴史をもつ米国は、建設を気長に待つ人たちばかりではない。そんな戦慄の現実を描いたメキシコ・仏映画『ノー・エスケープ 自由への国境』(原題: Desierto)(2015年)が5日公開された。製作・監督・脚本を担った30代半ばのメキシコ人監督、ホナス・キュアロンに電話でインタビューした。


キュアロン、と聞いてピンときた方も多いかと思う。父は『天国の口、終りの楽園。』(2001年)や、アカデミー監督賞に輝いた『ゼロ・グラビティ』(2013年)などで知られる監督アルフォンソ・キュアロン(55)。アルフォンソは『ゼロ・グラビティ』の脚本を息子ホナスと共同で書き、ホナスの長編監督2作目となる『ノー・エスケープ 自由への国境』では製作陣に入った。


ⓒ 2016 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

『ノー・エスケープ 自由への国境』の舞台は米国とメキシコの国境。摂氏50度の砂漠を走るトラックの荷台には、家族との再会をめざすモイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル、38)をはじめ、米国への不法入国を試みるヒスパニックの男女15人が潜んでいた。だがトラックがエンスト。炎天下に放り出された彼らは米国へ向かってめいめい走るが、一人、またひとりと銃弾に倒れる。当局とは別に、国境を自らの手で守ろうとする自警団のサム(ジェフリー・ディーン・モーガン、51)が、どう猛なシェパード犬を従え銃口を向けていた――。


国民が武器を持つ権利を憲法で保障する米国。サムは極端なように見えて、じつは「自分の土地は自分で守る」という意味では典型的な米国人なのかもしれない。「国境に壁を作れ!」「費用はメキシコに払わせる!」と連呼したドナルド・トランプ(70)を大統領に選んだのは、こうした人々だったのだ。

ⓒ 2016 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

現実の世界でも、武装自警団が国境地帯で活動している。米メディアによると、西部アリゾナ州の砂漠地帯では2011年から、米軍や民間警備会社などでならした屈強な男女がライフルなどで重武装。犬とともに移民らしき人物を見つけては、当局に突き出している。南部テキサス州では遅くとも2014年に、国境にまたがるリオ・グランデ川をライフル銃を携えて監視する市民集団が現れた。サムのように問答無用で撃ち殺すわけではないが、発想は通じるものがある。米ABCによると、米国境警備隊は彼らの存在を承認していないが、報道を見る限り、自警団は当局に取り締まられることもなく活動を続けている。


ロサンゼルスで電話インタビューに応じたホナス監督は言った。「憎悪をたかぶらせれば社会はどうなっていくか、警鐘を鳴らしたかった」

ホナス・キュアロン監督(右)とガエル・ガルシア・ベルナル ⓒ 2016 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

ホナス監督が今作を最初に構想したのは2000年代、ブッシュ米政権の頃だという。米国の大学で学んでいた当時、弟とアリゾナ州を旅し、州都フェニックスのメキシコ総領事館の人から越境をめぐる悲劇の数々を聞かされ、移民問題について考えるようになった。


「当時のアリゾナは、反移民の州法を通そうとしていた。きみはロサンゼルス特派員だったそうだけど、覚えてる?」。そう言われて、かつて取材した光景がよみがえった。連邦政府の権限を超えて不法移民を独自に取り締まる州法は、「人種差別につながる」として全米で議論が巻き起こったものの、2010年に可決。これに対し、司法省は「違憲だ」として差し止め訴訟を起こした。当時、ロサンゼルス支局に赴任していた私は、この州法への賛否をめぐって二分されたアリゾナ州を訪れた。今思えばまるでミニ・トランプのような、反移民強硬派で知られた当時の同州マリコパ郡保安官、ジョー・アルパイオ(84)にインタビューするとともに、彼が管理する劣悪な拘置所に収容中のヒスパニック移民たちにも話を聞いた。当時を思い出す私に、ホナス監督は言った。 「そんなアリゾナを見た僕は、移民問題に非常に関心を持った。旅から戻ってリサーチを重ね、移民問題に名を借りたヘイト(憎悪)のレトリックがいかに危険なものか、映画にしたいと思ったんだ」



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