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映画クロスレビュー

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[第126回]『未来よ こんにちは』

突然の「おひとり様」

©©2016 CG Cinéma · Arte France Cinéma · DetailFilm · Rhône-Alpes Cinéma



みどころ

パリの高校で哲学を教えながら2人の子どもを育てたナタリー(イザベル・ユペール)はある日、25年連れ添った哲学教師の夫ハインツ(アンドレ・マルコン)から「好きな人ができた」と言われ離婚。認知症の母イヴェット(エディット・スコブ)も他界、ナタリーは突如、「おひとり様」に。自由と孤独をかみしめつつ、自慢の元教え子ファビアン(ロマン・コリンカ)がアナーキスト仲間と暮らし始めた山へ向かう。(2016年、仏・独、ミア・ハンセンラブ監督、全国順次公開中)





Review01 川口敦子 評価:★★★★(満点は★4つ、▲は★半分)


人生はむごく明るい



パリの高校で哲学を教えるナタリーは、思いがけず人生のリセットを迫られる。夫が愛人のもとへ去り、認知症の老母もあっけなく逝った。子どもたちも、お気に入りの弟子もそれぞれの道へと旅立ち、著作の再販契約も打ち切られる。いくつもの別れと拒絶、そして孤独をつきつけられたナタリーはしかし、ひょいと肩をすくめ歩を進める。生のむごさをさらりと受容する。


映画はどこかぎこちなくせわしないナタリーの歩きっぷりを辛抱強くすくいとる。その足取りに不器用だが誠実な彼女の生き方を映し、たんたんと日々の歩みを重ねることが生きるということの真実だとそっと指し示す。


涙は後からやってくる。ひとりになって「初めての自由を手にいれた」と愛弟子に告げるナタリーの言葉に嘘はないだろう。ひとりの寂しい自由が身にしみわたった頃、ようやく彼女は泣く。母の形見の黒猫が迷惑そうに寄り添っている。そんなふうにゆっくりと訪れる感情の波を心の内にたたえながら、決然と孤高の時間に踏み入っていく人の姿は、フランス映画の気鋭ミア・ハンセンラブがその映画で繰り返しみつめてきたものだ。


絶望をこえ光に満ちた世界へと歩み続ける人を、大きな時の流れの中で観照する映画は、安易なハッピーエンドを寄せつけず、けれどもその幕切れにきっと希望を感知させる。「自分が生きる意味を見いだすために撮る」と語る監督があくことなく探求する試練の先の光。人生はむごく明るい。




Kawaguchi Atsukoi

1955年生まれ。映画評論家。著書に『映画の森‐その魅惑の鬱蒼に分け入って』、訳書に『ロバート・アルトマン わが映画、わが人生』などがある



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