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映画クロスレビュー

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[第125回]『ラビング愛という名前のふたり』

人種間につくられた壁

(公式サイトはこちらからどうぞ)



みどころ

米バージニア州の寡黙な白人れんが職人リチャード・ラビング(ジョエル・エドガートン)は黒人の恋人ミルドレッド・ジーター(ルース・ネッガ)から妊娠を告げられ、喜びに包まれ結婚する。だが公民権法制定前の1958年、異人種間の結婚を禁じる同州で逮捕され有罪に。2人は故郷を追われ、慣れない街で暮らし始める。ケネディ政権となり、ロバート・ケネディ司法長官にミルドレッドがしたためた手紙が事態を動かす。(2016年、英・米、ジェフ・ニコルズ監督、全国順次公開中)





Review01 大久保清朗 評価:★★★★(満点は★4つ)


ためらいの美しさ


ミルドレッドがリチャードに妊娠を告げる冒頭の場面。彼女が言葉を発するまで、しばしの沈黙が流れる。夜のしじまを、虫の鳴き声だけが流れる。リチャードが、ゆっくりと笑みを浮かべ「よかった」とつぶやくまでに、やはり、ためらいの時間が流れる。そんな、人間のためらいの美しさが『ラビング』を貫いている。


物語は史実に基づくが、スタンリー・クレイマーの『招かれざる客』(黒人青年が結婚相手の白人女性の家庭を訪れる)のような雄弁な社会派映画のかたわらにおくと、その寡黙さがはっきりする。身重の姉が、妹に結婚を告げるとき、手をつないで森をかける場面はスピルバーグの『カラーパープル』をほうふつとさせるが、感情の発露は控えめだ。だが、こうした言葉と感情のなだらかな起伏が、人物たちのためらいに、豊かな表情をもたらした。


しかし、主人公の行動自体は果敢だ。監督ニコルズが一貫して描くのは、生きることの困難さに直面し、住むべき場所を求める人々だ。『MUD』のどこからともなく現れる流れ者は、帰るべき「家」を探している。『テイク・シェルター』で世界の崩壊を予感する父親は、避難所という「家」を作る。


本作のリチャードも、自分の買った土地で、ミルドレッドにプロポーズし、夜、将来住む家の図面を引く。木訥(ぼくとつ)な男を演じるエドガートンも、相手役のネッガも素晴らしいが、写真家を演じている、ニコルズ映画常連のマイケル・シャノンの存在も光る。



Okubo Kiyoaki

1978年生まれ。映画評論家。山形大人文学部准教授。専門は映画史(とくに成瀬巳喜男)。訳書に「不完全さの醍醐味 クロード・シャブロルとの対話」。




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