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シネマニア・リポート Cinemania Report [#35] 藤えりか

「トランプの世界」で人々が飛びついた夢物語~『ラ・ラ・ランド』


アメリカン・ドリームや恋愛を盛り込んだ現代のミュージカル映画に、米国の批評家も一般の観客もこれだけ称賛しているのは、「トランプの世界」からの現実逃避か、「白人の夢」を再び見たい人たちの熱狂なのか。米国でヒットし、賞レースも席巻している『ラ・ラ・ランド』(原題: La La Land)が24日、公開された。来日した監督・脚本のデイミアン・チャゼル(32)と主演ライアン・ゴズリング(36)に、記者会見で質問した。




Photo courtesy of Lionsgate.
© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.


舞台はハリウッドを擁するロサンゼルス。映画スタジオのカフェで働くミア(エマ・ストーン)は俳優をめざしてオーディションを受け続けるが、箸にも棒にもかからない。ある日、いつか自分の店を持って好きなジャズを存分に弾きたいと夢見るピアニスト、セブ(ライアン・ゴズリング)と出会い、恋に落ちる。互いにそれぞれの夢を応援し合うが、セブが開店資金のために入ったキース(ジョン・レジェンド)のバンドで、ジャズとはほど遠い売れ線の曲ばかり手がけて人気を得ていく一方、ミアが独力で公演したひとり舞台が酷評され、2人に溝が生まれていくーー。


チャゼル監督といえば、監督・脚本として長編2作目となる『セッション』(2014年)が米サンダンス映画祭でグランプリと観客賞をダブル受賞して話題となり、2015年のアカデミー賞では5部門にノミネート、3部門で受賞。名門音大の鬼教師を熱演したJ.K. シモンズ(62)に、初のオスカーとなる助演男優賞をもたらした。次々と繰り出されるビッグバンドのジャズに負けないテンポよいストーリー展開に魅せられ、学生時代にスポ根的カルチャーのある吹奏楽部にいた私には「あるある」感もあって、何度も見たなぁ。

監督・脚本のデイミアン・チャゼル(右)と主演ライアン・ゴズリング=仙波理撮影


そのチャゼル監督。今作のミュージカル仕立ての『ラ・ラ・ランド』は、彼が『セッション』に取り組む以前から構想をあたためてきた。そうして『セッション』以上に賞レースを席巻。1月のゴールデン・グローブ賞はノミネートされた7部門ですべて受賞、史上最多を記録した。26日に授賞式が開かれるアカデミー賞では、13部門14件でノミネート(歌曲部門で2曲)。ノミネート数としては作品賞など史上最多11冠の『タイタニック』(1997年)、同6冠の『イヴの総て』(1950年)に並ぶ過去最多だ。しかも、映画興行収入データベースサイト「ボックス・オフィス・モジョ」などによると、全米での上映館数が数十~数百にとどまった『セッション』と違い、『ラ・ラ・ランド』は上映館数が数千規模にまで増え、2016年の興行収入は、リメイクや続編でもない、既存のコミックや実在の人物などにも基づかないオリジナルの実写映画としては1位となった。

Photo courtesy of Lionsgate.
© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.


社会現象にもなった『タイタニック』や、往年の名画『イヴの総て』とアカデミー賞ノミネーションでタイ記録とは?! ミュージカル映画の古典『雨に唄えば』(1952年)など数々のオマージュに満ちた現代のミュージカル映画が、トランプ旋風が吹き荒れる米国でこれだけブームになった意味合いを、私としてはやや測りかねるところがあった。


1月下旬の来日記者会見で、チャゼル監督とライアンに質問した。


今作が興行的成功も主要賞での評価も両方実現しているのは、なぜなのでしょう。この不安と不寛容の時代に、米国人が癒しを求めようとしている表れなのでしょうか?


チャゼル監督は答えた。「まさにそのことについて、ライアンと話していた。観客は、ライアンも僕も予想しなかった形で今作に夢中になってくれている。ミュージカルからは、うっとりした感じが生み出される。そうして得られる喜びや楽観的な感じは、ほかにはないもの。それでいて僕たちは、誠実で現実的なストーリーを紡ぐのを第一に努めてきた。ミュージカルを取り入れながら、リアリティあるものにしようとした組み合わせがうまく作用していることを願う」。そうして彼はさらに、こう分析してみせた。「『かなう夢があれば、かなわない夢もある』。もしかすると今作のこの要素が、人々に訴えたのかもしれない」

監督のデイミアン・チャゼル=仙波理撮影


アメリカン・ドリームが、米国人の誰もが実現可能な夢としてとらえられたのも今は昔。社会的流動性が減り、格差を縮めるのが難しくなってきた今、夢をかなえることなど簡単ではないことを、米国人の多くはすでに実感している。その現実を踏まえながら、それでもかなう夢がある、という筋書きに米国の人たちは引き寄せられたということか。


隣のライアンが後を継いだ。「デイミアンと僕は当初よく、こう話していた。『スマートフォンではなく映画館に足を運んで見たい、かつ映画体験を共有したい人と一緒に見たいと思うような映画を作れれば最高じゃない?』と。映画館の大スクリーンでしかできない体験を作り出そう、と僕たちはとても意識した。つまり、僕たちは観客を念頭に置いて映画を作った。その効果を感じることができて、とてもすばらしい」

主演のライアン・ゴズリング=仙波理撮影


ロサンゼルス在住の英紙ガーディアンの映画記者ジョン・パターソンが今年1月の記事で、 今作についてこう表現していた。「米大統領選以来、『トランプによる世界』について忘れることのできる唯一の2時間だった」と。ミュージカル仕立ての美しさに、現実逃避を見いだそうとしたのは彼だけではないだろう。


アカデミー賞は昨年、演技部門でノミネートされた男女の俳優20人がすべて白人だったことで映画界の内外から批判を浴びた。賞を主催する米映画芸術科学アカデミーはアフリカ系の会長シェリル・ブーン・アイザックスのもと、投票会員の多様性を少しずつながら広げてきた。そうして今年の演技部門ノミネートは、20人中6人がアフリカ系、1人がインド系英国人と一気に多様化した。だが『ラ・ラ・ランド』はまるでその流れとは一線を画すかのように、いずれも白人のライアンとエマがそれぞれ主演男優賞と主演女優賞でノミネートされている。米紙ニューヨーク・タイムズは1月、「(多様性の動きから)隔絶された映画」「ハリウッドの外の現実世界の問題に目をつぶり、かつ変わろうとするハリウッド内部の動きをも見過ごしている」と書いた。

Photo courtesy of Lionsgate.
© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.


カナダ紙ナショナル・ポストが運営するブログ「フル・コメント」で、元BBCの批評家ロバート・カッシュマンがこう論じていたのが印象的だった。「この映画は、米大統領選で二分された双方に称賛されている。反トランプ派は、『ともかく今はこういうものが必要』として癒しや楽しみを求める症候群になっている。トランプ支持者としては、(トランプが掲げた)『アメリカを再び偉大にする』を表すわかりやすい例として語ることができる」。なるほど、「白人のアメリカ」を取り戻したい人たちにとっては、白人がより中心的地位を占めていた古きよきハリウッド映画のオマージュに満ちた、かなうにしてもかなわないにしても「白人の夢」をめぐる筋書きに飛びついた面もあるのかもしれない。

Photo courtesy of Lionsgate.
© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.


もっとも、だとしても、ハーバード大学の学生時代から洋の東西を問わず世界中の映画に接し、自分が本当に作りたい映画を作るためコツコツ取り組んできたチャゼル監督や、カナダ出身のライアンたち自身は、そんな側面があろうとは想像もしていなかったことと思うが。


記者会見でチャゼル監督は「今作には無意識ながら、大好きなミュージカルや、昔や最近の映画のオマージュがたくさんある」と言って、故・鈴木清順監督の『東京流れ者』(1966年)をはじめとする作品群を挙げた。2月13日に死去した鈴木監督の『東京流れ者』は、渡哲也(75)と竹越ひろ子(75)が競作で出した歌謡曲をモチーフにした作品だ。チャゼル監督は「まったく意識していなかったけれど、日本で昨夜誰かと話していて、これも隠れたオマージュになっているのだと気づかされた。鈴木監督の超ワイド画面での撮影や、ポップアートのような色合いは、僕にはミュージカルのように感じられる。少なくとも米国ではまだ誰も気づかないと思うけれど」。確かに、今作が「白人のアメリカ」の体現だと思う人がいたとしたら、彼らには予想もつかない「隠れたオマージュ」だろう。







藤えりか(とう・えりか)

1970年生まれ。経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長、ラテンアメリカを含む大統領選から事件にIT、映画界まで取材。映画好きが高じて脚本を学んだことも。現在GLOBE記者。ツイッターは@erika_asahi


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