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シネマニア・リポート Cinemania Report [#29] 藤えりか

抑圧のあまり「暴走」し反発を受ける女性たち、そして戦争~『未来を花束にして』


たとえ抗議のためでも、女性が暴言を吐いたり暴力的になったりすると、より反発や抑圧を受けやすいのは昔も今も同じか。27日公開の『未来を花束にして』(原題:Suffragette)で描かれた英国の女性参政権運動の血のにじむ苦闘をみると、トランプ米大統領(70)に抗議した女性大行進や、「保育園落ちた日本死ね」騒動をも連想する。英国の運動を当時率いた故エメリン・パンクハーストの曽孫で、作品にカメオ出演(特別出演)もしたヘレン・パンクハースト(52)に東京でインタビューした。




© Pathe Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2015. All rights reserved.


舞台は1912年のロンドン。女性には投票権も親権も認められていなかった当時、過酷な洗濯工場で7歳から働き、男性より長時間労働を強いられながら男性よりも低賃金、そのうえ工場長から性的嫌がらせを受け続けるモード・ワッツ(キャリー・マリガン)が主人公だ。同じ職場の夫サニー(ベン・ウィショー)と幼い息子ジョージ(アダム・マイケル・ドッド)の世話にひたすら明け暮れていたなか、女性参政権を求める女性社会政治同盟(WSPU)のメンバーらが窓ガラスに石を投げ込む抗議行動に出くわす。運動に携わる同僚バイオレット・ミラー(アンヌ・マリー・ダフ)や薬剤師イーディス・エリン(ヘレナ・ボナム・カーター)らと知り合い、思いがけず下院の公聴会で証言することに。そうするうち、エメリン・パンクハースト(メリル・ストリープ)が主導する運動に傾倒してゆく。だが政府は運動を弾圧、モードらはロンドン市警に逮捕され、世間体を気にする夫からひどい仕打ちを受ける。彼女たちが打って出た決死の策とは――。


米タイム誌の「20世紀の100人」のひとりにもなったエメリンを演じたのが、ハリウッドの女性差別に声を上げ、トランプ批判もいとわないメリル・ストリープ(67)とは適役すぎるが、エメリンの実際の曽孫であるヘレンも劇中、自身の次女ラウラとともにWSPU本部の場面に登場する。

ヘレン・パンクハースト=仙波理撮影


関係者の子孫出演はヘレンだけではない。運動の急先鋒のひとりイーディスを演じたヘレナ・ボナム・カーター(50)の曽祖父は元英首相の故ハーバート・ヘンリー・アスキス伯爵。当時、エメリンら活動家たちを罰する立場にいた。プロダクションノートによると、ヘレナ・ボナム・カーターは撮影でヘレンに会った際、「(曽祖父に代わって)申し訳ない!」と言ったそうだ。


ヘレンは昨年12月に来日。インタビューするため会うとまず、「WSPUのオリジナルの会員カードなんですよ。なんと、作った組織は今も現存するんです」と言って、曽祖母エメリンが創設したWSPUの会員証や、運動を象徴する紫と緑、白の3色の紋章やたすきなどを見せてくれた。原題のサフラジェット(Suffragette)はこの運動に携わった女性たちを指す。女性初の米大統領をめざしたヒラリー・クリントン(69)は選挙後の敗北演説で紫のスーツを着たが、「共和党の赤と民主党の青の融合を表しているのでは」と言われた一方、「サフラジェットの紫に違いない」との声が世界のメディアやソーシャルメディア上でも巻き起こった。

WSPUの会員証や、運動を象徴する紫と緑、白の3色の紋章やたすき。当時のスローガン「言葉より行動を」が書かれている=仙波理撮影


ヘレンは実生活でも、エメリンの遺志を継ぐかのように、女性や子どもの貧困に取り組むNGOケア・インターナショナルで働き、家庭内暴力(DV)被害の女性たちを支えるパンクハースト・センターも設立。今作の製作チームには「どの国・地域にとっても、また今の時代にも響くものとなるように」とアドバイスした。「これは20世紀初頭の英国の物語ですが、今にも通じるものがある」とヘレンは言う。


その一つが、映画でも描かれた夫婦間の「経済格差」だろう。「薬剤師イーディスの場合も、薬局を所有するのは夫。裕福な役柄の女性も、夫の名前なしでは小切手を切ることができない。経済的な不平等です」


ヘレンはインタビューの前日、東京都立西高校(杉並区)で今作を上映、生徒たちと意見を交わした。生徒からは、一部で過激化した運動に戸惑いの声も上がったそうだ。確かに、特にすでに権利が定着した国や地域から見れば、主張には賛同しても過激な行為には首をかしげがちとなるだろう。


そう言うと、ヘレンは「何が暴力とみなされ、何がみなされてこなかったかを考えるべきでしょう」と、こうした反応をめぐる問題点を挙げ始めた。

© Pathe Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2015. All rights reserved.


たとえば主人公のモードが、長年性的嫌がらせを受け続けた工場長についに、熱いアイロンを押し当てて反撃する場面がある。「ショッキングな場面です。そしてそれは暴力だとみなされ、警察に突き出される。一方、彼女やその母親に長年なされてきたことは暴力としてカウントされてこなかった。表立って目に見えず、語られてもこなかった。これが1つ目のポイントです」


「2つ目は、女性参政権運動は多様なものだったにもかかわらず、『彼女たちは暴力的だった』と運動を矮小化する人がいる点です。運動は目に見えないいろんなことを、興味をひく方法で成し遂げた」。そう言ってヘレンはさらに強調した。「3つ目は、暴力的だったのはむしろ政府だった点です。当初は彼女たちを集会場から追い出すだけだったのが、彼女たちがそれに対抗して声を上げると、政府はもっと押さえつけようとした。映画でも描かれていますが、彼女たちを黙らせようと、政府はますます力を用いた。投獄した彼女たちがハンガーストライキをすると力づくで食べ物を口に入れたりした。それは朝も夜も、何日も続いた。自分がそうした目に遭うだけでなく、仲間が無理やり食べ物を口に入れさせる音も隣から聞こえる。そうして彼女たちの中から武闘派が出てきた。でも権力者によるこの種の暴力は、なぜかさほどショッキングに映らない。運動家たちが暴力的だったと言う場合には、政府による暴力についても言わなければならないのに」


それにしても、同じ投石でも男性がすれば違って見えそうだ。そう話すと、ヘレンは言った。「アクション映画で男性がマシンガンを撃ち込んでも、観客はさほどショックを受けない。男性は暴力的になっても許容されやすい。でも女性が権利を求めて立ち上がり、好戦的な様子を見せて投石でもしたら『なんとまぁ!』と言われる。私たちのこうした態度はダブルスタンダードですよね」


そうしたヘレンの指摘を、この記事を書いていたさなかに実感した。

© Pathe Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2015. All rights reserved.


トランプ米大統領が就任した翌21日、トランプに抗議して大勢が集まったワシントンでの女性大行進で、歌手マドンナ(58)が「女性だけでなく、社会的に追いやられた人たちが危機に直面する独裁政治を拒み対抗を」と訴え、「ホワイトハウスの爆破も考えた」とまで言って物議を醸した。ネット上ではマドンナへの中傷や、死を求めるコメントがあふれた。マドンナは自身のインスタグラムで「暴力を呼びかけたのではない。文脈から乱暴に一文だけを抜き取らないで」と理解を求めたが、テキサス州のラジオ局「HITS 105」は「米国民にあるまじき発言だ」としてマドンナの全曲放送禁止を発表した。トランプが女性蔑視発言を続けてきたことはもはや不問であるかのように映る。


やや違う角度の話かもしれないが、日本でも昨年、保育園に入れず復職できない状況を過激なフレーズでつづった匿名ブログ「保育園落ちた日本死ね」が話題となって国会でも取り上げられ、自民党の平沢勝栄衆院議員(71)がテレビ朝日系の番組で「これ本当に女性の方が書いた文章ですかね」と発言したのを思い出す。その後、この言葉が年末にユーキャン新語・流行語大賞を受賞、さらに反発が広がったのは記憶に新しい。


暴言を必ずしも肯定するわけではないが、それが悲痛な形で発せられた背景も考慮に入れなければ、建設的な議論につながらないだろう。


考えてみれば私自身、反イスラムを公言してはばからない仏極右政党「国民戦線」党首マリーヌ・ルペン(48)が表舞台に現れた時、「女性で攻撃的な極右、ってどう受け止めればいいんだろう」と正直、内心戸惑った。でもそれもまた、ステレオタイプな反応なのだ。


英政府は1918年、30歳以上の女性に制限選挙権を与え、25年には母親の親権を認めた。28年には男女平等の普通選挙を実施した。当局が弾圧し続けたサフラジェット運動の主張がなぜ、にわかに認められたのか。ひとつには、映画のラストでも描かれているショッキングな事件が世論を突き動かしたと言われる。だがより政府を動かしたのは、今作では描かれていないその後の世界史的できごとが大きいのだという。


戦争だ。


14年に第1次大戦が勃発すると、エメリンらは仲間らに「停戦」を呼びかけ、女性たちは戦争の後方支援にまわって政府を支えた。政府は投獄していた女性たちに恩赦を与えた。男性たちが戦線に出て国内が人材難に陥ると、それまで男性がしていた仕事を女性が担い、社会のさまざまな場へと進出した。

© Pathe Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2015. All rights reserved.


ヘレンは言う。「2度の大戦とも、女性が男性の仕事を引き受けられることを示す機会となった。当時の女性たちの自信や、自らの役割に対する信念を高めたとは思う」


結果論としてはすばらしいが、戦争がモーメンタムとなったとは皮肉に響く。そう言うと、ヘレンは「でも戦争が終わるたび、女性のおかれた状況は逆戻りだったそうです。男性が前線から戻れば『もう家に戻れ』と言われた。戦争が役立ったと言うのはそうだけど、必ずしもいいことではない。それに、軍事経済は平等実現の考え方に基本的には否定的ですから。戦争に期待することなく女性の地位を高めるには、そのためのリーダーを増やして声を上げ、法制化を進めるのが大事でしょう」

ヘレン・パンクハースト=仙波理撮影


英国では欧州連合(EU)離脱が決まり、2人目の女性首相メイ(60)は移民規制を打ち出した。そうした状況を、とりわけエメリンの曽孫としてどうみているのだろう。「女性のみならず、平等や品性を実現しようという考え方にとって憂慮すべきことです。多くのフェミニストやリベラルな民主主義者は、もっと選択肢を求めている。英国のEU離脱、そしてポピュリズム及びナショナリズムの台頭はこうした考え方とはかけ離れたもの。とても懸念し、危ないと思っています」








藤えりか(とう・えりか)

1970年生まれ。経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長、ラテンアメリカを含む大統領選から事件にIT、映画界まで取材。映画好きが高じて脚本を学んだことも。現在GLOBE記者。ツイッターは@erika_asahi


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