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私の海外サバイバル

日本の若者、世界に触れて@バンコク(タイ)

[第134回] 鹿野健太郎

タイ国政府観光庁 日本市場アドバイザー

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タイ国政府観光庁(TAT)で日本市場のアドバイザーとして働き始め、13年目になります。約1000人いるTAT本庁のスタッフの中で日本人はひとりだけです。


18階建てのTAT本庁のビル=写真はすべて鹿野さん提供

それまでは、大学院でタイについて研究していました。TATに入った直接のきっかけは、来日したこちらの幹部の通訳をした際に誘われたことです。当時は、タイに来る外国人は日本人が最多。さらに団塊世代のリタイアを控え、長期滞在者の誘致に力を入れようという時期でした。そこで、バンコクの本庁で日本市場戦略についてアドバイスしてくれないか、と頼まれたのです。



研究はあくまでタイ社会を外から見るものでした。でも、タイの政府機関で働くとなれば、タイ社会を内側から見る機会にもなる。そう考えて就職を決めました。



今は4人のタイ人スタッフが日本市場を担当しています。私は彼らからはやや独立した立場で、幹部が政策を決めるのに必要とするデータを集めたり、日本市場に関する幹部の演説の草稿を書いたり、幹部の訪日に同行して通訳したりと様々な役割を負っています。ここ数年はタイの観光政策が注目されることも多く、日本の自治体からの視察や研修の受け入れも増えてきました。



日本のみなさんとタイの関係者との仲立ちをすることもあります。たとえば、仙台市さんからお話をいただき、タイ―仙台直行便就航のお手伝いをしました。私はあくまでお手伝いの立場ですが、それでも関係者の熱意が実り、東日本大震災を乗り越えて2013年に仙台―バンコク便が就航した時は本当にうれしかったです。残念ながらバンコクでのデモなどの影響で運休しましたが、その後、状況は改善してきていると思います。



タイのホテルやゴルフ場、スパなどから「どうすれば日本人を迎えられるか」といった相談を受けることもあります。また私自身が各地に出向いて現状を伺い、どうすれば日本から観光客に来ていただけるか、新しい観光スポットはないかなどを考えることもあります。



仕事の上で感じるのは、こちらにはとてもメンツを重んじる文化があるということです。人前での叱責や忠告は、本人のプライドを大きく傷つけてしまいます。ですから上司への助言は一対一の場でするようにしていますし、同僚や部下への忠告も、人目のつかないところで伝えています。



また、難しさを感じるのは、立場の違いです。私は日本から観光客を迎えるにあたって、日本のお客様を第一に考えています。しかし、こちらはタイ社会。タイにはタイの事情もありますし、組織内の序列も力関係もあります。必ずしも、私の思ったとおりにすべてが決まっていくわけではありません。そこは、折り合いをつけながらやっていくしかありません。



私はタイへの留学経験もありますし、研究でも多くのことをタイのみなさんから教えてもらいました。だから、恩返しのためにもタイのために働きたいと思っています。しかし同時に、日本の将来のためにこそ、日本のみなさんに外の世界を知ってもらうお手伝いをしたい。その気持ちは、忘れていません。


活気にあふれたバンコク・スクムヴィット通りの通勤風景

一方でタイの人たちは世話好きで、親日家がたくさんいます。私の同僚も明るく、とてもリラックスした雰囲気の中で仕事をさせてもらっています。



忘れられないのは、東日本大震災の時のことです。



地震の直後、テレビで日本の様子を見ましたが、何もすることができません。本当に暗い気持ちになりました。それでもこちらで仕事を続けなければなりません。ところが地震の3日後、登庁すると、1階のロビーで数十人がハチマキをして日本のために募金活動をしてくれていたのです。その様子を見て、本当にぐっときました。



そんな親日家が多いのも、これまでタイとつきあいのあった多くの日本人の先輩方のおかげです。感謝しつつ、その評判を傷つけないように行動しなくてはいけないと思っています。



Kentaro Shikano

鹿野健太郎

しかの・けんたろう/1973年、東京都生まれ。東京外国語大院博士課程を単位取得退学後、2005年にタイ国政府観光庁に入庁。東アジア局で日本市場アドバイザーを務めている。


(次ページへ続く)

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